葉子、五歳。職業、姫。
俺は翌日さっそく一条と式部に、昨晩の話をした。
式部が信じかけたが、一条が信じなかったのでそれ以上は語らなかった。
何故かって? オレなら信じないからだ。
そこから一ヶ月、のじゃロリとは三回ほど話すことになったわけだが──
本人は安倍晴明の娘で、藤原道長が祖父だと言う。
ネットで調べたら安倍晴明の方が遥かに年上だった。
父親と祖父逆じゃね?
まあ、本人は五歳だと威張っていたので、その辺はよくわかってないのかもしれない。
ちなみに『みちな』は、みちながの略らしいが……あの藤原道長だぞ?
そんなことってある?
「みちなと呼んでいいのは、わらわだけぞ!」
と、言っていたが……まあ、五歳児の言うことなんざアテにならねえ。
「みちなだけ、わらわを『はぁこ』と呼ぶのじゃ!」
のじゃロリは葉っぱの葉に子でヨウコらしいから、はぁこはハコ読みの愛称なんかな。
仮にだ。
藤原道長が本当だとして──たった一人だけ、特別な愛称を許しあう祖父と孫。
いっぱい孫いそうなのにな。
「めっちゃ溺愛されとるやん」
とりあえず、葉子姫は俺が自分の知ってる藤原道長じゃないと理解はしたようだった。
が、俺を偽者扱いしてくるのは納得がいかない。
『にせみちな』はやめろと言ったら、混乱し始めたので、妥協して俺は『偽道』になった。
俺は偽道、酷い名前だ。
式部がその後どうなったんだと聞いてきたので、ちょっと教えてやったら一条がノートに記録をつけ始めた。
信じてないんじゃなかったのかよ。
初邂逅の日、本人によると祖父と父親に「お留守番」させられていて退屈だったから鏡見をした──ということだ。
「如月の……あの日か? わらわは一人だったのじゃ! みちなもとと様も、寺を建てる場所を見に行ってしもうて」
「寺?」
「じょみょじ! 北家の菩提寺ぞ」
「あ、はい」
ネットで調べたらホントにあった。
じょみょじじゃなくて、浄明寺だったけど。
一条は、浄明寺建立は1007年。建てる場所を選びに行ってるなら葉子姫がいる年はその前だろうと名推理を披露した。
一条のノートにはアレコレ書かれていたが、『じょみょじ、草』という但し書きが赤ペンで記されていた。
式部はゴージャスな刺繍のブックカバーを作ってきたのだが、模様が向日葵だったので却下された。
葉子姫に向日葵の『書物の覆い』だと説明したら、プリプリしだしたからである。
「花は藤じゃ!」
なるほど、藤原の象徴は藤とな。
いやあ、勉強になるなぁ。
式部が藤のブックカバーを作り直した。
だが、一条も式部も鏡の効果がないらしく──いくら覗いても鏡はただの鏡だったようだ。
結局、藤の刺繍は俺が借り受けて、見せてやろうと鏡に写してみたが……ハッキリとは見えなかったらしい。
──聞けば葉子姫は鏡を使っているわけではなく、水盆を利用しているらしい。
「わらわの水盆は白銅ぞ! みちなが作らせて、とと様が細工したのじゃ。縁に藤の花が咲いておって、水を張ると光るものぞ」
この日は葉子姫が水盆を見せつけようと、ひっくり返したらしく。
ばしゃん! という音と共に通信が切れた。
要するに、その特注水盆は……道長の財力と晴明の陰陽道の集大成らしい。
既にヤバい匂いしかしない。
しかも姫専用。
そういうわけで、姫は水越しにこっちを見ている模様。
俺からは水に映るものしか見えない。
つまりだ。
声は聞こえるけども、お互い良く見えてるわけじゃない。
本人は自慢しまくってるが、俺にはその水盆は見えんのだよ。
白銅ってなんだよ、銅って十円玉じゃん。
ネットで『白銅 価値』で調べたら、五円玉の材料だった。
そうか、金ピカだという自慢だったのか。
子供はピカピカが好きだからな。
が、式部が異を唱えた。
「いや待て、藤の花が縁に咲いてる水盆が5円玉並みに量産されるわけないだろ」
「そうか? ピカピカだからじゃね?」
一条はノートに『白銅=5円玉(?)』と書き、横に「ピカピカ好き説」と落書きしていた。
調べ直したら『正倉院宝物』って出てきた。
俺たちは震えた。
儀礼用とか献上品とか、白銅だったってよ。
令和と平安じゃ価値が違うのはわかる気がするけど、そもそも違う金属のことかもしれん。
五歳の言うことだからな。
(でもやっぱ高級品じゃねーか!)
葉子姫、実は凄い姫なのかもしれない。
藤原道長の孫なら超エリート姫だよな?
最初は半信半疑だったが、俺と記録係の一条、式部は姫を信用し始めていた。
葉子姫が言ったことを検証する──これは意外と面白かったからだ。
もちろん、全部検証出来たわけではない。
例えば葉子姫の母親。
姫が言うには涼子という名で、道長の第一子らしいのだが…………
史実では『彰子』が長子とされているのだ。




