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葉子と妖狐〜百均の鏡に平安の姫が映ってるんですが?〜  作者: 藤 野乃


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12/15

呪、とは?


「ほーん」


 一条がポテチの大袋を抱え込み、間の抜けた相槌を打った。

 放課後に時々、公園で駄弁るのが俺たち帰宅部の醍醐味なのだ。


「お前……」


 筋トレ好きの式部が不安そうに一条のわがままボディを眺めた。


「オレにとって、必要不可欠な栄養だ。家では食えないからな」


 一条は真面目な顔で答え、炭酸飲料でポテチを流し込んだ。


「あー、お前んちはそうなるよなー」

「ミケ様はおやついっぱいなのにな」


 一条の母親は健康レシピを売りにした料理家で、テレビでもよく見かける有名人なのだ。

 スナック菓子は禁止ではないが、小言を喰らうので公園で食べるというのが一条の生存戦略。


「まあいい。で、姫の件な。今は道長が呪われてるってよ」


「おお? なんかそれっぽい展開だな」



 俺は昨日の会話を思い起こしながら、二人に道長と姫のことを話した。

 話してる間に、ポテチを食べ終わり手を洗ってきた一条がノートを引っ張り出す。

 だらしないように見えて、一条は潔癖症ぽいんだよな。


「ふーん、怠さと痛み、夜中のトイレねえ」


 式部がヒダル神について検索を始めたが、一条はノーリアクションだ。


「それっぽいのだと、餓鬼じゃねーの」


「姫んちは神道なんじゃね? 餓鬼は仏教だろ」

 

 しばらく無言の時間が流れ、式部は遊具で筋トレを始めた。

 三人がまた揃ったところで、一条が重々しく口を開いた。


「足先の痛み、目の不調、多飲多尿──」


「なんだよ」


「おそらく呪詛じゃない。糖尿病じゃね?」


「糖尿病? 糖尿病……」


 一条は携帯の画面を印籠のように突き出した。

 ドヤ顔で俺たちを見ている。


「見ろ。藤原道長は記録としては日本最古の糖尿病だった、という説がある」


「お前が糖尿病になる未来は見えてるけどよ、平安の食生活でそんなことあるんか?」


「ならねーよ。えーと、当時だと飲水病と言われていた……」


「あるんかーい」


「お前なんでそんなに詳しいの? あれか、親父が医者だからか?」


 一条はメガネの位置を直し、首を振った。


「正確には内分泌内科の専門医だ。だから母さんが健康料理オタクになった」


 当時から飲水病と名前がついてた病気というなら、なんで呪われた事になってるんだよ。

 普通は先に病気を疑うだろ。


「うーん、おそらく「とりあえず呪詛」って感じなんじゃね? 知らんけど」


「あー、病気の治療として祈祷もあったって書いてあるな」


「医学、ではなくて呪が基盤なのか?」


「つーか、糖尿病はどう頑張っても祈祷じゃ無理ゲーじゃん」


「──常識は時代で変わる。とうちの母親が言っていたぞ」


 式部が賢そうなことを言った。


「昔はコソコソ読んでいた薄い本が、今は堂々と読めるって」


「おま、それ腐女子か、お前の母ちゃん腐女子なの?」


「あ、うん。貴腐人だと言ってたな。まあ、腐女子だろうな」


 式部が男子校に入ったのは、母親の強い勧めだったと言う。

 家から一番近かったのが決め手だったそうだが。


「式部の趣味の域を突き抜けた刺繍……そんな背景が」


 式部の母親はいつもニコニコしたおばさんで、遊びに行くと必ず手作りの焼菓子が出てくる。

 しかも超絶に美味い。

 が、式部の話によると。

 最近バターが高いと言うことで、あんまりお菓子は焼かなくなったらしい。


「とりあえず、糖尿病と仮定して。姫にアドバイスする案を推す」


「だな。何もしないよりは試したほうがいいしなー」


「検索だとベジファースト、運動、ストレス排除って書いてる」


「ストレス排除? 歴史的にみて道長ってストレスしかなくね?」


 俺たちは考え込んだ。


「運動、と野菜だな」


「キノコならあるんじゃね? 野菜はどんなのがあるか知らんし」


「おう、キノコ食わすよう言ってみるか」


「薄味でな」


 雨がまた強くなってきた。

 東屋だから屋根はあるものの、風も強いのでこのまま居たらびしょ濡れコースだな。


「帰るか」


「おう」


 一条は証拠隠滅だと言い、俺にゴミを押し付けて帰って行った。

 この公園にはゴミ箱が無いんだよな。

 式部がそっと手を出し、ペットボトルを引き受けてくれた。

 いいやつだよ、全く。

 あのマヌルネコとは大違いだ。


 俺は式部が去ったあと、ポテチの成分表示を見てみた。


 (おいおい、一袋900カロリーだと……?)


 俺は帰宅してすぐ、姫に伝えるべきことを箇条書きにしておいた。

 だが、その日の百均鏡は──うんともすんとも言わなかった。

  


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