第88話 シャトーブリアン男爵家
「ただいま〜」
エラリーが実家(シャトーブリアン男爵家の王都邸宅)へ戻ると、一番に弟のブロードが飛び込んできて、その後にエレノアが顔を出した。
「ねえさま! お待ちしておりました!」
「おー、ちゃんと敬語を使えるようになったんだね。えらい!」
ブロードの髪を撫でてあげる。さらっさらで気持ちいい。
「疲れたでしょう?」
「ううん、大丈夫。それよりお腹すいちゃった! お母さんのごはん、楽しみだったんだ」
「ふふ、腕によりをかけて作ったわ。さ、お父さんも待ってるわよ」
エレノアに先導されて食堂へ。
男爵家とは思えないほどの大邸宅であるのはシャトーブリアンの財力がなせる技だ。
メイドや執事が脇に避け、母娘らの道を譲る。
「お父様、この度はご招待ありがとうございました。お母様のお料理、本当に楽しみでしたの、ええ、それはもう本当に!」
ダイニングに入るや否や、スカートの端を摘んで、上座に腰を下ろすネイサンに挨拶。キョトン、と不思議そうな顔をした。
「王立学院の食事はそんなに…貧相なのか?」
「いいえ、学食は絶品ですわ。それよりも時折フランソワが開発する酢味豚骨とかレアオブレアのクジラのステーキとか、生魚に辟易してたの」
「刺身くらいは食べれた方がいいと思うが…ともかく座りなさい、疲れただろう」
「ええ、遠慮なく…。お母様は?」
「準備をしたら、ね」
「はーい。さ、ブロード。お姉さんの隣にどうぞ」
「はい! 嬉しいです、お姉さま!」
はー、かーいいなぁ。うちの弟は素直で可愛くていいなぁ。唐突に暴走しないし変なもの作らないし!
やがて、エレノア自ら配膳を行い、自らも席についた。残りの給仕はメイドらに任せる。
「学院はどう、順調?」
「ええ、お母様。楽しく過ごしているわ。学問はすこーし、付いていくのが大変だけれど。それこそフランソワには試験勉強の度にお世話になってて」
「研究会を開いているとか?」
「そうよ、他にニコラスとマルタ、それからギリアム先輩に…あ、そうだ。最近フロリーナが参加したの!」
「フロリーナ?」
「フィヨルド王国のフロリーナ王女よ、あの子も不思議な子で、『殿下』と呼ぶと機嫌が悪くなるの。最初はなにを話したら良いのかも分からなかったけれど、慣れてしまえば何てことはなかったわ。今日はフランソワとマルタと三人で実験するみたい。瓶詰のレパートリーを増やしたいんだって。今のところ『美味しさ』を全部投げ捨てちゃってるからさ、なんかフランソワ、そういうの無頓着で…ホント困っちゃう」
「ねえさま、ねえさま」
「あら、どうしたの、ブロード」
「ねえさまはフィヨルド王国で、偉い人と大きな取引をしたって聞きました!」
「えっと、フェンリルベルク辺境伯のことかしら? ええ、そうよ、ブロード。蛍石、っていう貴重な鉱物を手に入れるために交渉したわ。その後が大変だったけれど。灯台の修理とかやらされるしね」
「ねえさまは凄いです! 僕もねえさまみたいになりたい!」
「ちゃんといい子にして、しっかり勉強したらきっとなれるわ」
「はい、がんばります!」
試験がいつも赤点ギリギリなのは黙っておこう…。スープを一口。
「おかあさんの味だ、美味しいな。小松菜かしら」
「ええ、そうよ。小松菜のポタージュ。少しブイヨンを強めに取ってみたのだけれど…」
「最高! お母さんのスープは絶品だわ」
「嬉しいわ。今日はお肉も用意してますからね」
「やった、お肉大好き! 今日は沢山食べちゃお…あ、そうだ。お父様、先日は無理な出資を通していただき、本当にありがとうございました」
「うむ…我が商会にも利になると考えたまで」
「工場の建設は私たちも少しお手伝いしているんです。今日はニコラスが設計のお手伝いに行っているみたいで。明日、私も覗いてみようかな、と思うのですけれど」
「良いことだ。知見を広げてきなさい」
「ねえさま、僕も行きたい!」
「あらあら、ブロードの興味があるの? そしたら二人でお出かけしようか」
「はい!」
「学院にはいつ戻るのかしら?」
エレノアが尋ねた。
「明後日にしようとおもうの。だから明日も泊っていくわ」
「ふふ、嬉しいわ。それなら明日も腕によりをかけてお料理しなきゃ!」
「ありがとう、お母様! 楽しみにしているわ」
久しぶりの家族団らんを堪能した後で…。
「エラリー」
ネイサンが彼女を呼び止めた。
「少し、話したいことがある…。庭園でどうだ?」
「お父様…ええ、もちろん、すぐに行きますわ」




