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第84話 至聖食膳大講堂の壁崩壊事件

「フロリーナ様、本日は窓際の景色の良い場所をご用意いたしましたので」


 某男子貴族(親衛隊)がいつものごとくエスコートしたらしいの。名誉ある会員ナンバー1、要するに親衛隊会長よ。ファンクラブの方が正確だと思うけれど。


「フロリーナ様、本日はフロリーナ様を称える歌を作詞いたしました」

「フロリーナ様、花束をご用意いたしました。ぜひお受け取りを」

「フロリーナ様、きっとこのブレスレットがお似合いになると…」


 …私、フロリーナを心から尊敬するわ。

 私なら多分一発でぶち切れているもの。これ、ちなみに今日に限ったことじゃなくて毎日なの。私も見ているし。ちなみにウェンディは睨みを効かせていたわ。親衛隊()が暴走しなかった理由ね、これ。求婚の依頼は流石に来なかったらしいから。言ったらウェンディに叩き切られていたと思うけど。


「いつもありがとう、皆さんのお心遣いに感謝しますわ。ところで…ウェンディ、ハンスとしばらく会っていない気がするの。ハンスはどこかしら?」

「はっ、ハンス殿はあのパーテーションの向こうで食事を取るそうでして!」

「そういえば気になっていたのよね、あのパーテーション。折角の広いホールなのに、どうしてパーテーションで仕切られているのかしら? 私、たまにはセドリック研究会の皆さんとお食事をしたいの。ニコラスさんとか、マルタさんのことももっと知りたいもの」


 はい、フロリーナさん。それ地雷です。

 『王家が庶民と食事を共にしたい』なんて前代みも…んでもないわね。ビアンカとアレフの例があったわ。でも、親衛隊()の貴族連中には衝撃でしたでしょうね?

 困惑する貴族らを他所に、親衛隊会長()が怒涛の如く力説したらしいの。


「フロリーナ様! ハンス・ベルクは確かにフロリーナ様の亡命に大功を果たしたと聞いておりますが、聞けば郷紳家、半農貴族と言うではありませんか。それにニコラスやマルタとやら、平民でございますよね? 本来ならこの『武皇イスタルシア守護・一統平定至聖食膳大講堂』に立ち入る事すら難しい身分でありながら、同じ学院生としての温情から同じホールにて食事を取ることを許しているのです」


 一回止めるわね。聞きなれない言葉があったと思うから。

 『武皇イスタルシア守護・一統平定至聖食膳大講堂』ってのはこの食堂の正式名称よ。フルネームで呼ぶ人は初めて聞いたわ。長すぎて皆会食堂とか食堂とか学食って言ってるの。


 続きよ。

「ですが、卑賎の者と食事を取るなど言語道断、あのパーテーションは卑賎なる平民が我ら高貴なる身分と交わらないよう、やむなく設立された区分けなのです。差別ではありません、あくまで区分することが学院の秩序を守ることに繋がりますので!」

「それはおかしいと思うわ」


 私もおかしいと思うけれど、それを言えちゃうフロリーナも大概よね?

「身分の隔てなく、同じ場所で食事をするべきだと思うの。ねぇ、皆さん。私はあのパーテーションを撤去したほうが良いと思うわ。賛成してくれる人はいるかしら?」

「はい!」

「私もおかしいと思っていました!」

「フロリーナ様の仰る通りです!」

「皆さん、とっても素敵な方なのね! それじゃ、協力してパーテーションを撤去しましょう。私も手伝うわ」

「いえ、フロリーナ様のお力を借りずとも!」

「その通りです、にっくきパーテーションは我らが撤去しますゆえ!」

「どうかフロリーナ様はごゆるりとお寛ぎを!」


 …あとはご想像にお任せするわ。

 ちなみに親衛隊会長()はフロリーナに反逆した罪で親衛隊()から追放されたらしいわ。追放モノにもならない情けない最後ね…。


 はい、戻りました。

「あら、フランソワ先輩!」

「フロリーナ…お疲れ様」


 お疲れ様、が合っているのか分からないのだけれど。あと、様付けは辞めさせてもらったわ。何回言っても「フロリーナと呼べ」とおっしゃるのよね。なんか疲れちゃって。後でビアンカに聞いたのだけれど、フロリーナって「一度こう、と決めたらテコでも動かない」らしいわ。納得したけど。先輩、と呼ばれるのもね、年齢的にはフロリーナの方が上だから違和感しかないのだけれどね?


「これからお食事ですの?」

「そうよ、一緒に食べる? パーテーションもなくなったし」

「とっても素敵だわ! マルタさんも」

「へ、へぇ…ではご一緒させていただきやす、フローラ姫さま」

 ちなみにマルタも強情タイプよ。あのフロリーナがしぶしぶ姫さま呼びを認めたのだから。


「あと、ハンスも呼ぶ?」

「ぜひ! 寂しかったのよ、入学してから一度もおしゃべりできていないもの」

「ギリアム先輩もどうです?」

「キミの胆力には恐れ入るね…」

「起こったものは仕方なくないです?」


「ぎ、ギリアムお兄様! ふ、フランソワなどとご一緒するなら、私めと!」

 あら、久しぶりだわ。アシュレイね。

「ああ、アシュレイ。明日でいいかな? 今日はフロリーナのご指名だし」

「そ、そうですが…」

「アシュレイさん…ギリアム先輩の妹さんよね? それなら私たちとご一緒しませんこと?」

「い、いえ…ほ、本日は先約がありまして! し、失礼いたしますわ!」

 …短い登場だったわね。


 ちなみにこの事件、『至聖食膳大講堂の壁崩壊事件』として学院史に残ることになったらしいわ。知らないけど。

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