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第79話 クラウベンの陰謀

「素晴らしい説話にございましたぞ、マクシミリアン猊下」


 グラウベン伯爵がマクシミリアンにワインを注ぐ。この一本だけで庶民であれば一年は暮らせるだろう、超がつく高級品である。それをマクシミリアンは豪勢に一気飲みをした。


「いやはや、アリアの信徒は素晴らしい。これもグラウベン殿の尽力の賜物であるな」

「恐れ多い…全ては神の思し召しにすぎませぬ」

 ささ、と追加のワインを注ぐ。


 彼らは今、アリア大聖堂の裏に位置する聖典保守党の本部にいた。煉瓦造りの質素で敬虔なアリア大聖堂とは異なり、眩いばかりの黄金を散りばめ、高い天井からは稀代の名工に数年がかりで作らせた、燭台の数だけで百を超えるだろうシャンデリアが吊り下げられている。テーブルは千年の時を重ねた檜を切り出したもの。腰掛けるソファーは数千本の馬毛とカシミヤのウールをふんだんに使い、スプリングには純金を用いた、やはり最高級品である。

 まさに贅の限り…。

 これが聖典保守党の実態であった。


「して、ロッサム大司教。にっくきフランソワなる者をどう料理するつもりかの。噂に聞けばブロンドの輝くような髪を持つ美少女という噂ではないか。儂が責任持ってシルバで『再教育』しても良いぞ」

「じゃじゃ馬にございますば…閣下のお眼鏡にはかないませぬ」

「ほう、それはむしろ楽しみじゃ。ほれ、強気な女子が全てを受け入れ、従順になる様は見ものじゃぞ」

「そのよう趣向を持ち合わせてはおりませぬ。我はあくまで神に使える身である故」

 ロッサムの苦言につまらんのう、とマクシミリアンが鼻を鳴らす。


「まぁまぁ…マクシミリアン猊下、ひとまずは異端審問への道筋を確認しとうございます」

「そうじゃな、異端と認定さえされてしまえば好きなように処遇できる…ぐふふ」

 マクシミリアンが下賤に笑った。


「幸いに、アリアには貴族院という議会組織がございます。なかなかよくできた仕組みでしてな。貴族院の決定には皇王たるビアンカといえども逆らえぬのです」

「つまり、議会での決を取る、という事じゃな」

「ご明察の通り…。過半数以上の賛成で議決となります。けだし、我らが聖典保守党はあいにく少数精鋭、同志は23名となりますが」

「その、貴族院とやらは総数で幾つなのじゃ」

「413名にございます」

「話にならんのう」

 マクシミリアンがソファーへ踏ん反り返った。ぎし、と純金のバネが響く。

「ご安心を、マクシミリアン猊下。我ら以外の政党と協定を結べば良いのです」

「可決の可能性はあるのか?」

「十分に。まずはアリア貴族院の構成をご説明したく存じます」


 グラウベン伯爵の解説は下記の通りである。


・革新連盟(181名)

 いわゆるビアンカ派。元々は反王権派であったが、ビアンカの革新姿勢に共感して転向。伝統王権派からの離反もあり、現在は最大会派を結成している。

 なお、五大閣僚は全員革新連盟の出身である。


・伝統王権派(148名)

 革新連盟とは逆に、本来は王権派である。だが、ビアンカ皇王の革新姿勢に疑問を抱いており、現在は反ビアンカ派。

 シャルロイド公爵家は代々伝統王権派とされるが…。


・経済実利会(61名)

 大富豪、経済人出身の新興貴族を中心とした政党。現党首はシャトーブリアン男爵(補足:エラリーの父親)


・聖典保守党(23名)

 ヤーヴェ教会派。既出の通り、党首はグラウベン伯爵。


「グラウベン殿、過半数で議決と申したな。つまり…」

 マクシミリアンが演算。

「207名の賛成であるな。となると、この革新連盟とやらを切り崩せば、可決が見えるのではないか?」

「そうであれば、極めて易いのですが、あいにく件の魔女はビアンカ皇王の盟友でしてな。切り崩すのは容易にございませぬ」

 嘆かわしい事です、とグラウベン伯爵が首を横に振る。


「アリアとは誠、上から下まで邪教の巣窟よな。早期に浄化せねば…。となれば、他の2党であるか」

「ご推察の通りにございます。幸いに、近年のビアンカ皇王の暴走には目に余るものがございます。先日のフィヨルド動乱においても議会を無視し、独断でフィヨルド王室の受入を決定するなど、議会無視も甚だしい。比較的容易に賛成に回るものと思われます」

「では、課題は経済実利会であるな」

「その通りにございます。そこでマクシミリアン猊下のご活躍を期待したく」

「なんじゃ、遠慮は要らぬぞ。いうてみい」

「彼らはあくまで利益で動く浅ましき者たち…ヤーヴェ教という強大な市場を失うわけにはいきませぬ」

「理解したぞ。つまり、脅しであるな」

「ご明察の通りにございます。つきましては、より詳細な『ネタ』を精査したく」


 そこでグラウベンが呼び鈴を鳴らした。

 すると若い美女、美少女らが、数多の書面を持って静々と現れた…。

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