第78話 マクシミリアンの宗教説話
その頃、王都アリアにて
アリア大聖堂。
「アリアという国は長らくヤーヴェ教会にとって未開の地であり、異教徒の巣窟でありました」
朗々と語るのはマクシミリアンである。一応はシルバ本国から来た高位の司祭であるから、グラウベン伯爵がそれ相応の場を設けたのであった。シルバの将校は何らかの教会位を授けられているのである。
聴衆は日々の勤めを果たす司祭やシスター、それにアリアでは珍しい熱心なヤーヴェ教徒らであった。
「八百年前の大陸戦争の折にアリアの創始者たるファーバルティ国王は神の思し召しに従いヤーヴェ教に帰依致しましたが、相変わらず異教を信仰するものが絶えず、あまつさえ百年前のレオナードに至っては、異教徒たるルグ教徒との戦より逃亡し、聖戦たる五芒星軍へ一切の協力を拒否したが故に破門に処されたのであります。
その破門者とその子孫らがのさばるこのアリアで敬虔なる信仰を保持し続けたあなたたちに最大限の敬意を払いましょう…。
テサロニケの信徒への手紙二 第三章十二節には、『落ち着いて仕事をし、自分で稼いだ食糧を食べるように』とあります。あなた達はこの地で黙々と祈り、主たるヤーヴェの意思を正しく体現しているのです。
一方で、コリントの信徒への手紙二 第六章十四節にはこうあります。『信じない者と、不釣り合いな重荷を共にしてはなりません。正義と不法とにどんな関わりがありますか。光と闇とに何の共通点がありますか。ヤーヴェとベリアル(悪魔)とに何の調和がありますか』、と。
この手紙が示すように、異教徒との調和を求めることそれ自体が誤っているのです。かつて信徒たる聖オラウスはフィヨルドの大地を踏み締めた時にこうおっしゃいました。『この凍土を溶かすのは春の陽光ではなく、主の御言葉という名の火である』と。
その後、多大なる労苦と時間をかけてフィヨルドの凍りついた大地で布教に努め、やがてかの広大なフィヨルドがヤーヴェの神のもとに統一されたのであります。しかるに!」
そこでマクシミリアンが語気を強めた。自身の恥辱を思い起こしたものか。
「無礼なるもガストーネなる不届者があろうことか神に反旗を翻したのです。まさしく、エフェソの信徒への手紙 第四章十八節に、『もはや、異邦人がむなしい考えに従って歩んでいるように、歩んではなりません。彼らは知性が暗くなり、その心がかたくななために、神の命から遠く離れています』と記されています。いずれフィヨルドは神の恵みから遠ざかっていくことでしょう。
そしてこのアリアにも空疎なる異邦人が生まれ出でております。この地では『自然哲理』などと称し、神への感謝を忘れ、冒涜し、その至光を否定する者どもが現れております。先日の神聖なる『グランド・ディベート』にて、アリアのフランソワなる者は三位一体の柱の一つであられる精霊を否定する暴挙に及びました。まさしく異端者、すなわち魔女である事は疑いようもありません。
急がねばなりません。速やかにこのアリアを救わねばならぬのです。さもなくば、アリアもまた神の恵みから見放され、崩壊の憂き目に遭うことでしょう」
そこでマクシミリアンは慈愛のこもった笑みを見せた。
「ですが、ここに集まる信徒のみは例外です。神は貴方達の忠誠を決して忘れることはありません…。来るべきラグナロクの宿命の下であれど、貴方たちは全て救われ、解放され、神の祝福を享受することとなりましょう…。さぁ、日々の勤めを果たし、主の代行者たる我々聖者の意思を汲み、共にアリアを救うのです。魔女たるフランソワを糾弾し、無垢なる民を救い、この天と地と海の恵みを永遠に享受するのです。覚醒し神の祝福を受けたる貴方達だけが希望なのです。忘れてはなりません。
ああ、アリアの民に大いなる神の祝福が在らんことを!」
マクシミリアンがその両腕を大きく天にあげた。感極まって啜り泣くシスターがいる中で、彼の演説は盛大なる拍手をもって終演を迎えたのである。




