第72話 公爵令嬢の誕生日パーティー
特別に食堂の一角を借りることになったのだけど。
学院生がわらわら集まってきたわ。なになに、どういう事!?
「だって沢山いたほうが楽しいじゃん! 今日は新学期初日だし、講義もないしさ!」
エラリーの伝手だったわ。ホント知り合いが多いわね。平民の子らが中心だけれど、ちらほら貴族もいるわね。男爵家と子爵家が中心で…あら。
「お金持ちばかりでは?」
エラリーと同じように、『お金で貴族位を買った』系の新興貴族が多いわ。
「そうだよ、だって私、伝統的貴族の方って苦手だし。あ、ギリアム先輩は別ですよ、みんなギリアム先輩みたいにフレンドリーならいいのに!」
「はは…それは光栄だね。実際、平民学生を好ましく思わない貴族は多いからね」
「…一応お伺いしますけど、ヴィクトールは?」
「あいつが来ると思う?」
「いいえ」
あの人は伝統的な貴族思考だからね。嫌いな私の誕生日パーティーなんて絶対来ないわ。
「あらあら。すっごく豪華ね」
「セドリック先生!」
「ふふ、お誕生日おめでとう、フランソワさん。何かプレゼントを用意すればよかったわ」
「いいえ、先生の講義を受けられるのが何よりのプレゼントですから!」
「嬉しいわ、そう言ってくれると。明日からの補講も頑張りましょうね」
急に現実に戻る発言ね?
「フランソワはん、マルタはんの特製やで!」
ニコラスがオレンジジュースを手渡してくれたわ。あら? 炭酸が入ってる。
「へぇ、姫さま。即席でオレンジソーダにしやした」
「流石はマルタだわ!」
一方で、テーブルにはオードブルが並び始めたわ。厨房主任のリンダ特製みたい。
エラリーたちが配膳をお手伝いしていたわ。ハムにチーズにサンドウィッチ、それから鯖の箱詰めにシャケのムニエル、アサリの酒蒸し、その他その他…ご馳走ばっかりね!
唯一の成人勢、ローランお兄様とセシルお兄様も今日はノンアルコールみたい。他の全員が未成年だしね。
「それじゃ、僭越ながら…今日は私の誕生日に集まってくれてありがとう! 新学期も頑張りましょう!」
乾杯!
「はい、お疲れシオン」
シオンにもオレンジソーダを渡してあげたわ。ぐい、と飲んで一言目。
「ぬる」
「ハンスがいないんだもの」
「そういや、あいつどこ行ったんだ? 一緒に帰ってきただろ」
「違うのよ、別の船だったでしょ。私たちだけ、ノイエ・エーテル号だったから早く帰れただけで」
「そうなのか」
「あと一、二週間じゃないかしら?」
「結構かかるな」
「ええ、再会が待ち遠しいわ。ハンスも留年の危機だけど」
「ふふん、俺と同じだな」
ハンスはあなたより学力はあると思うわ。魔力はともかく。
「でも、不思議な事もあるもんだよな」
「なにが?」
「俺、誕生日が秋分の日でさ」
「そうなの? なんだ、言ってくれれば…お祝いしたのに! というか、お互い正反対の記念日なのね」
「クジラ食わせてくれたから。忙しかったし」
「確かに」
去年の秋分の日、つまりハーベストムーンの日よ。グランド・ディベートの当日ね。
確かにお祝いしている余裕は無かったわ。
「ふうん、確かに面白いね」
ギリアム先輩だわ。
「お代わりいります?」
「頂くよ。僕も氷魔法が使えればよかったのだけど」
「ぬるいですよね」
ハンスの復帰が待ち遠しいわ。
「それで、面白いって?」
「いや、キミたち二人だよ。全部正反対だね、と思ってね」
「というと?」
「まず、性別。これは明らかだけれどね。それから、髪色」
「確かに」
シオンは首を傾げたわ。
「シオンは漆黒のような黒で、私は金髪ですわ」
「それも透き通るような、陽光を照らすような、ね」
やだ、ほめ過ぎですわ。…という修辞ではなかったみたい。
「一方でシオン君は闇夜のような漆黒だ。それに、魔力もね。シオン君の9999は既知だけれど、僕はフランソワの『エラー』が気になるんだ」
「確かにエラーでしたわ」
魔力ゼロ、と言い張っているけれど、学院の魔力測定器では確かに 『エラー』表記がされたのよね。魔力ゼロなら『0』表記のはずなのだけれど。
「私も何かあるのかしら?」
「そうかもしれないね。ふふ、僕がセドリック研究室に参加したもう一つの理由だよ」
いつの間にか研究対象にされてたわね?
「ま、深い話は今度にしよう。今日は僕も色々忘れて楽しみたいね…今度王都に行かないと…父上に留年の言い訳をしにね…」
とても気の重い話だったわ。




