第3話 セドリック特別研究室
「ともかく、魔力の質量性は否定されたと思うのだけど…先生、どうでしょう?」
そうねぇ、と先生がおっとり答えたわ。
「魔力に質量があるという考え方を、もう一度整理しましょうか。フランソワさん、説明はできるかしら?」
「いくつかありますけれど、大きなものは『魔力胆汁説』と『魔力神経説』の二つですよね。
両方とも、魔力=物質ととらえて、『身体のどこに保管されているか』を検討したものです。ですが、最近は否定説も…」
「素晴らしいわ、フランソワさん。解剖学が発達したお陰で、魔力の無い人にも胆汁(※補足:リンパ液)と神経があることが立証されました。けれど…フランソワさん、わかる?」
「はい。魔力と胆汁に相関があるなら、強い魔力を持つ人は胆汁の量も多くて然るべきですけれど…。現時点で相関性は認められていません」
「その通りです。けれど、事実として魔力は存在する…さ、みんな。どう考えたらいいのかしら?」
「セドリック先生、電気はどうでやす? カルヴァンの実験があったと思いやすが」
「マルタさんもよく勉強しているわ、先生嬉しいな。そうね、カルヴァンはカエルの死体に電流を流して、筋肉が動くことを発見したの。つまり、体内に電気が生成されている…という仮説ね」
「確かに、魔法大会の時は接地槍…避雷針が有効だったみたいです」
「せやったらアレか、五大属性なんて言いますけど、全ての根源は『電気』っちゅーことかいな」
「ニコラス君の仮説も検証する価値があると思う。さぁ、次のテーマにいきましょう。何か立証できそうなデータはあるかしら?」
「ほな、魔法大会の実戦データを見てみましょうか」
ニコラスがそう言って、分厚いノートを机に置いたわ。私たちが魔法大会で取得したデータは三つよ。
・気圧(ニコラス特製気圧計で観測)
・電圧(同じくニコラス特製の観測機)
・磁力(私の方位磁針で観測)
改めて、ニコラスって凄いのよね。パパッと精密装置を作っちゃうんだから。
魔法大会についても簡単に説明しておくわ。
魔導真理学部(魔導士育成学部よ)で、特に優秀な学生だけを集めて、トーナメント形式で試合をするの。
試合会場では全力で魔法を使っても観客席に被害が及ばないように、魔力吸収装置…『魔吸槽』が設置されていたのだけれど、壊れちゃったのよね、決勝戦のシオンとギリアムの試合で。
シオンは前にも言った通り、魔力9999の化け物。一方ギリアムは学院最強魔導士として名高いわ。だから決勝戦のデータは記録に残っていないの。
「気圧からみてこうか。おもろいデータが取れたで」
ニコラスがそう言ってグラフを見せてくれたわ。
「定期的な加圧と…たまに急激な減圧があるわ」
私が指摘すると、せや、とニコラスが頷いた
「時間と比較すると、減圧はシオンはんの試合やな」
「減圧が起きたのはシオンだけ?」
「その通りや」
セドリック先生を見る。そうね、と先生。
「五大系統魔法は全て『加圧』、シオンさんの魔法だけ『減圧』ということね」
ちなみに五大系統魔法は、炎、水、土、風、雷の五つよ。いわゆる一般魔法ね。
「そうです、あとは強い魔法ほど加圧が激しかったくらいやな」
シオンと同じくらいの勢いで加圧が跳ねているデータが幾つか。時間と照らす限り…。
「ギリアムの試合ね?」
「だと思うで。とんでもない魔法使いやわ」
「でも、これで気圧と魔法の相関性が取れたわ。シオンの魔法が異常だというのも」
「せやな。なんか『消してる』感じやもんな」
「消してる…」
シオンの魔法を振り返ってみる。
相手の魔法をデリートしているような…そんな印象が残っているわ。
「もう少し検討が必要じゃないかしら? 次のデータにいきましょう」
セドリック先生の勧めで、次は電圧を見てみることにしたわ。
「これは分かりやすいで。シオンはんとの関係は分からんかったけど、雷系魔法を使う度に反応しとった」
雷は電気である。
という事実は立証済みなの。フランクリンという科学者が発見したのよ。
だけど…。
「この、一番跳ね上がっているのは?」
「シオンはんと、あのプレート魔人の…アイアンサイドはんの試合や」
バナード・アイアンサイド。
学院の中では最強クラスの土魔導士よ。
得意魔法は鉄躯鋼装という魔法で、『魔法で無敵のプレートメイルを生成する』という超魔法なの。
ただのプレートメイルではなくて、対魔法防御も完璧みたい。五大系統魔法は全部弾き返していたから。
だけど、その超魔法もシオンの『消去魔法(仮)』の前には無力だったわ。凄まじい電圧と…そして、磁力を発生させながらプレートメイルを強制消去されて敗北したわ。
「アイアンサイド戦だと、磁気反応もあったけど…」
持ち込んだ方位磁針が北方向ではなく、アイアンサイドに引っ張られるような反応を見せたのよ。
「ほな、ついでに磁力も見ましょか?」
「そうね、えっと…磁気反応は主に土魔法を使用した時に反応したわ」
土魔法は磁力を操作する魔法なのかしら?
「ただ、一つ不可思議な動きがあって…。ギリアム戦なのだけれど」
「ギリアムはん、ごっつい炎魔法と雷魔法使うてましたな」
「その、雷魔法がシオンの魔法と衝突した時なのだけど…磁気反応があったの。それも、磁場が狂うくらい強烈な」
アイアンサイドとは違って、磁針が狂ったように回転したの。その後魔吸槽が逆流して暴走したから、見間違いの可能性もあるけれど…。(以上、詳細は前日譚①にて)
「いいえ、フランソワさん。見間違いではないかもしれないわ」
セドリック先生が仰ったわ。
「まだ仮説に過ぎないけれど、大電力を発生させると磁気が発生する可能性があるらしいわ」
「ほー、そりゃ興味ありますわ。エレキテルで実験できんやろか?」
「エレキテルだと、少し電力が足りないみたい。私も試したのだけど、反応は無かったわ。もっと効率的に電気を発生させる方法があれば、立証できると思うのだけど…。私も研究中なの。
では、そろそろまとめに入りましょうか。フランソワさん、お願いできる?」
「わかりました、先生」
黒板に、今日わかったことを箇条書きにするわ。こうする事で理解が深まるのよね。
①魔力体内説について
魔力と体重の相関は認められず。否定。
②魔法と気圧について
・五大系統魔法は『加圧』
・シオンの魔法は『減圧』
③電気と磁力について
・継続研究
「ここからみると、次のテーマは魔法と気圧…つまり、大気について深掘りするべきかしら」
セドリック先生がおっしゃったわ。
「ところで、大気の構成については皆さんご存知?」
「まだ、仮説段階だと思いますが…」
「その通りよ、フランソワさん。主な説は何かしら?」
「原子論と、精霊論ですよね?」
「その通り! 素晴らしいわ。では質問です。魔力の根源を考察した場合、説明がつきやすいのはどちらかしら?」
「それは…精霊論、ですよね?」
大気は目に見えない精霊によって満たされているという考えよ。私に限らず、自然哲理学部は否定しているけれど。
「その通り、魔力の根源を大気の精霊に求める考え方です。でも、それだと矛盾があるの。大気が精霊に満たされているなら、全ての人が魔法を使えるはずでしょう?」
「言われてみれば、その通りやな」
「では、次は大気の構造について考察しましょう。そうね、次はミリ以下の世界が舞台になるわ。明日はこの器具について説明しましょう。大切なものだから、丁寧に使ってくれると嬉しいな」
そう言って、セドリック先生がある道具を取り出したの。
前日譚①はこちら
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