第203話 防戦一方
2発目の砲弾が、何人かを砕いてからゴロゴロと坂道を転がっていったわ。
そ、ワザと舗装したのよ。ペレス親方とそのお弟子さん達が丹精込めて作ってくれた、球体弾丸が抵抗なく転がっていくようにね。
混乱して、背中から直撃を受ける兵。
避けきれずに、足を折る兵。
運悪く正面からぶつかって、顔が砕けた兵。
さすがのビザンも足並みが乱れたわ。
「帝国兵が怯んだわ! 次、準備でき次第発射して!」
弾込めにはどうしても個人差があるから、あとは手当たり次第!
インクラインだから、二交代が限界だったのよ。だから逆に、バラバラに撃つことにしたの。そうすれば途切れる事なく撃ち続けられるでしょ?
でも、さすがはビザン帝国軍だわ。
態勢を、徐々に戻しているもの。
今度は…。
「魔法防御準備だ!」
アレクセイが魔法を放ったわ。
3ポンド砲を狙った雷撃を弾き返す。
そう。
熟達した魔導士なら、3ポンド砲の射程圏外から余裕を持って魔法を放てるのよ。
そして、土魔導士が舗装を剥がし始めたわ。
土だと、球体が活かせない。
「次の弾から、散弾に切り替えて!」
城壁下に指示。
これも予定通りではあるわ。散弾の方が、攻撃範囲が広いからね。
それでも。
ビザン帝国兵は、じりじりと城壁に迫っていたわ。
◇◇◇
一方、カリファス関である。
こちらでも激戦が始まっていた。
「てめえら、絶対押し負けんじゃねぇぞ!」
なんとカリファスに配備されたガストンは、山中から100名を連れて切り込みをかけたのだ。
得意の大剣で切り込み、そのまま反対の斜面を駆け上がる。追ってくるビザン兵はそのまま突き落とす。
正面で砲撃を続けるカメンスキー伯爵と連携し、背後をひたすら脅かしていたのである。
「ガストン隊長っ!」
率いるのは『軽装』のフェンリル・ベルク歩兵団である。
「三方より包囲されとります!」
「おう、じゃあ北から突き破って、関に戻るぞ」
「おう!」
100名が弾丸のように一直線に山中を駆ける。
ビザン兵はたまったものでは無い。
まさか彼らも、ガストンがカバラ関の戦いで散々に暴れ回った男と同一人物とは思いもしなかったのだ。わずか二週間でカバラよりアテネアに移動し、最前線に参戦してくる兵士らがいる、などとは…。
数名の犠牲を出しつつも、ガストンらが帰城。
だが。
「ハエ叩きくらいにしかなってねぇな」
やっぱ正規軍はしんどいぜ。
カバラは傭兵相手だったからな…。
そう思わずにいられない。
「ガストン殿!」
カメンスキー伯爵にも余裕がない。
「フェンリル・ベルク重装歩兵団を連れ、城門の補強を頼む!」
言われて、壁の下を覗き込んだ。
ぱすん、と兜の左端を銃弾が飛ぶ。あと数センチズレていたらガストンの眉間を破っていたはずだが、ガストンは微塵も動じず、苛立ちげに舌打ちをした。
「取り付いてやがる」
腹いせに手近に置いてあった防御用の石ころをぶん投げた。丸太を持つ兵が一人、眉間を陥没させた。すぐに背後から代わりの兵。
「200名ついて来い!」
城門へ下りる。ビザンの土魔法から繰り出される岩石が城門を叩く。更に、兵卒らが丸太を打ち込んできた。3ポンド砲で抵抗しているが、敵の魔法防御は固い。ぎしぎし、と城門が歪み始めた。
「全員で押さえろ!」
ガストンが怒声を飛ばす。
「おう!」
と、フェンリル・ベルク兵が答えた。この部隊は重装歩兵団本来の様相である。
筋肉がしなり、汗が飛び散る。100名で城門を支え、残りの100名が土魔法で城門を補強した。フェンリル・ベルク兵はその主人ヨハンが土魔法の名手であるからか、比較的土魔法に明るい者が多い。他の魔法属性と異なり、物質を出現させたり、土を変える効果があるのだ。
その時、天空から雷撃が降り注いだ。ビザン軍からの遠距離攻撃である。
「防御!」
フェンリル・ベルク兵らが大楯を天に翳した。
これはただの金属ではない。日ごろから魔力を馴染ませているのだ。その効果は魔法防御と同等である。天から襲った雷撃はその盾に弾かれ、消失した。
「おい、カメンスキーのおっさんに伝令!」
ガストンが叫んだ。
「はっ!」
「3ポンド砲を半分、第二陣へ引き上げさせろ! ここはもう、あんまり保たねぇぞ!」
「は、はっ!」
伝令が駆け出した。更に。
「おめえら、ガストーネより弱ぇぞ! 気合い入れろ!」
「おう!」
その言葉に奮起し、フェンリル・ベルク兵が城門を押し返した。
内側に倒れかけていた城門が、やや押し戻される。
ガストンがもう一度、天を仰いだ。日が、中天を過ぎていた。
日暮れまであと、3時間くらいか。
踏ん張ってくれよ、お前ら!
◇◇◇
「はっ!」
シオンが手をかざして、私目掛けて飛んできた炎魔法を消滅させてくれたわ。
「この広い場所ですと、私の魔法が効きづらいですわ」
フロリーナの額から汗が飛び散ったわ。私も汗だくだけど。
「お呼びでないの!」
城壁に取り付けられた投げ縄を、私のレイピアで切り落としたわ。
城門はもう何度も魔導士の攻撃を受けていて、燃えたり岩が当たったりしていたけれど、どうにか防いでいるわ。散弾が効いているのと、こちらにはアレクセイの他にフロリーナ、シオンと魔導士が揃っているから、個別に狙撃できているのも理由ね。
それでも限界はあるのだけど!
実際、何回か城壁を突破されかけたわ。
その時はシオンも余裕が無くて、兵ごと消滅させたの。バラバラになったわ、身体が。あんまり、何回も見たい景色では無いわね。
砲弾も残り少ないの。消費が思った以上に激しくて。なんでもいいから、手近なものを落とすフェーズに入ったわ。幸いに、物資は油圧機でいくらでも補充できるのだけど。
「キリがない!」
「ホントだよ!」
シオンがもう一人、『デリート』したわ。
「フランソワ先輩、蒼天重圧を使用しても?」
フロリーナが尋ねたわ。
「ここじゃ意味ないでしょ、広すぎるから、拡散して終わりよ!」
よじ登ってきたビザン兵の右腕をレイピアで串刺しにしたわ。ぎゃっ、と叫んで落ちていく。
空を見たの。
日暮れまで、あと、あと何時間?
太陽もだいぶ傾いて、そろそろ日没になりそうな雰囲気が…。
あ。もしかして!
指を舐めて、天に掲げる。
やっぱり、風が止まってる!
「フロリーナ、シオン、準備して!」
「わかった!」
「わかりましたの!」
本当は使いたくなかった、使いたくなかったけれど…。
もう、これしか方法は無いわ!
ずっと城壁の下に隠していた、特注の3ポンド砲をインクラインで持ち上げたの。砲身を通常より1メートル長くした長砲身よ。
これが、必殺兵器。弾込めは既に終えているわ。
望遠鏡を覗く。目標地点の上には無傷の兵士がわらわらと駐屯していたの。
軽く2万はいるんじゃないかしら?
フロリーナが詠唱を始めたわ。
砲弾はそれこそペレス親方が作った、特製中の特製よ。
空気抵抗を極限まで減らすにはどうすれば良いか。
フロリーナと散々研究して、出した答えが『円錐型』だったの。
この円錐砲弾を、焼入れ加工によって硬さを極限まで高めた鋼で作ったのよ。あんまりに製造コストがかかるから、手元には予備を入れて二発しか無いわ。
それを、直線距離で二キロ先。
先日埋めたばかりの、地雷原に打ち込むの。
そう、フロリーナの大気圧縮魔法、蒼天重圧で。極限まで押さえつけられた大気を、火薬代わりにするの。黒色火薬の何倍という圧力になるわ。
少し、周りの空気が薄くなった気がする。
蒼天重圧で、大気が集約しているんだわ。
攻撃は、シオンが全部消してくれているの。魔法も物理攻撃も、全部ね。
周りの空気が陽炎のように歪んだわ。
あまりの圧縮に、大気が熱を生みだしているのよ。
「フランソワ先輩」
頷く。
「方位61度」
兵士らが、角度を整える。
「俯角12度…シオン!」
シオンが両手を前に出したわ。
背後の夕日で、私の影が大きく伸びる。
まるで、死神のように。
「フランソワ、急げ!」
アレクセイの絶叫が響いたわ。
城門が、開きかかってる。
「いつでも良いぞ」
シオンが、一直線に空気を消したわ。
円筒の、真空地帯。
空気抵抗が一切存在しない空間を、火薬の何倍という出力で放つ。
これで、2キロ先でも威力を落とさずに直撃できるの。
そして、これが起爆のトリガー。
ビザン帝国兵らは、日暮が迫るこの時間にも、攻撃を止める気配がない。
やるしかないわ。
「発射!」
私の合図で、フロリーナがその魔力を一気に解放したわ。




