第202話 メソゲイア攻城戦
アテネア要塞は前述の通り、アテネア東海岸を取り囲む丘陵に構築された、全長は5キロに及ぶ大要塞であった。
南部にはアテネアへと向かう、古代からの大街道、メソゲイア街道が通っている。台地の多いアテネア東部だが、もっとも緩やかで行軍のしやすい道であった。
途中に、スパーダという宿場街がある。当然、ムラトの第一目標はスパーダ制圧であった。アレクセイも、メソゲイア街道沿いに巨大な関門を置き、鉄壁の防衛陣を敷いている。
そして、要塞の中央部にはやや狭いが、カリファスという街道があった。
この街道はより山間部を通るため、マイナーではあるが目的地は同じスパーダである。
アレクセイは、こちらにも相当の兵を置いていた。
もう一つ、北部には河川がある。ラフィナ川であった。
裏街道であり、一般的ではないが、川沿いに進むとスパーダ北方の山を抜け、アテネア第二要塞へ到達する道である。
無論、アレクセイの抜け目はない。このラフィナ川は上流を堰き止め、いつでも水攻めができるよう準備を整えていた。
他に海岸沿いを通れば北方と南方に抜けることが可能だが、抜けたところでアテネアには到達しない。
つまり、アレクセイはこの三ルートだけを守り切れば勝てる、ということであった。
だが、全長数百メートルのカバラ関と異なり、防御範囲が極めて広い。
ムラトも、そこは読んでいた。
「メソゲイアとカリファスの二方面から攻めよ! カバラと同じ轍を踏むな! 小癪なる要塞を突破し、スパーダを制圧せよ! 神の名の下に聖なる戦いを成し遂げるのだ!」
士気極めて高し。
聖戦の名に酔い切ったビザン帝国軍は、一心不乱に要塞へと進軍を開始した。
上陸には障害がない。一方で、ビザン艦隊の砲撃も沈黙したままだ。32ポンドクラスの、コンスタンが用意した豆大砲とは比較にならない大口径の砲を積んでいるが、有効射程は500メートルほど。あくまで海戦用なのだ。
白い砂浜が黒い兵らで埋め尽くされていく。ゆったりと編成を整えたビザン帝国軍は、古地図を頼りにメソゲイア関とカリファス関へ殺到した。一糸乱れぬ突撃である。
◇◇◇
「撃ち方よーい!」
アレクセイが剣を掲げたわ。ビザン帝国兵がみるみる迫る。魔導士も多いみたい。魔法防御が展開したわ。
ただ、アレって稼働時間が限られるのよね。
私は望遠鏡で敵との距離を測定。
いまだ!
「アレクセイ!」
「撃て!」
3ポンド砲が50門、火を吹いたわ。
当然、魔法防御に阻まれたけれど。
「入れ替え! 急いで!」
そして、撃ち終わった3ポンド砲が油圧インクラインで瞬時に要塞下部へ下ろされるの。
代わりに、砲弾を詰め終えた3ポンド砲が新しく出てくるのよ。
ちょうど、魔法防御も解けたみたいだしね。
「撃て!」
アレクセイが、もう一度その剣を振り下ろしたわ。
だって普通、弾込めには2分くらいかかるもの。それが10秒で出てきたのよ?
防御なし、距離は400メートルの必中距離。
それが50門、ビザン帝国兵を襲ったわ。
ビザン帝国少尉、ハマードは自らの幸運を心から感謝していた。なにしろ、栄光なる先陣を任されたのだから。しかも、大本命であるメソゲイア関である。
彼は土魔法を得意とする魔導士でもあった。
「よいか! コンスタンは3ポンド砲を大量に保持していると情報が入っておる」
部下どもから失笑。
当然だ。3ポンドなど、子供のおもちゃではないか。
「3ポンド砲など、いくら揃えたところで我らの魔法防御を揺らす事すらできぬ! 初撃を魔法防御でやり過ごしたのち、弾込めの時間で前進、再び魔法防御…この繰り返しで城門へと取り付くのだ! あとは私に任せると良い! コンスタンの貧弱な城門など、たちどころに破ってみせよう!」
「おう!」
長い航海で若干体調を崩した者もいたが、敵を目の前にしてその意気を取り戻した様子である。
「ビザンに栄光あれ! 異教に魂を売ったコンスタンを攻め滅ぼすのだ! 行くぞ!」
そう。
ハマードの策は派手さは無いが確実であった。
『これまでであれば』
アテネア要塞から砲弾が降り注ぐ。
ぼよん、と光の壁がそれを弾いて道脇へ。
ぼすん、と路肩の地面へめり込んだ。
「ははは!」
ハマードの高笑いが響く。
魔力を込めた魔法弾が混じっていれば突き破られる可能性もあったが…どうも全て、通常砲弾らしい。
それに、何を考えたのか足元は黒色の、極めて歩きやすい素材で舗装がなされていた。
まるで攻めてください、と言っているような。
「敵、破れたり! 行くぞ!」
ハマードが魔法防御を解く。
そう。
魔法を使いながら、行動はできないのだ。それこそフロリーナのような大魔導士でも無い限り。
この隙に城門まで!
敵が弾込めをする、1、2分の猶予の間に!
行動を停止していたビザン帝国兵らが坂を駆け出した。極めて登りやすい。これであれば、2発目の前に城門へ取り付くことだって。
誰もがそう、勝利を確信した時だった。
極めて奇妙なことが起こったのだ。
城壁にあった、いまだ煙を吐いたままの3ポンド砲がすっ、と隠れて。
新しい3ポンド砲がぬっ、と城壁の奥から現れたのだ。
「な…」
何が起こったのか、理解する前に。
ハマードの頭蓋が砕け散っていた。




