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第12話 パスカルという学者は、水銀実験をやりすぎて若死にした説が濃厚です。という事で大気圧と真空について。

「うーん」


 学院生がすっかり少なくなって、学院はすっかり閑散としてしまったわ。もちろん、私みたいに残っている人もいるけれど、それなりの立場の貴族や実家が商工関係の人ばっかり。


 こう考えると、私って恵まれているのよね。実家の手伝いをする必要もないし、汗水流して泥まみれになることもない。それが本当に良いことなのかしら。マルタもハンスも、今頃農作業に勤しんでいるだろうから。


 季節はすっかり夏よ。研究室にも熱が籠って蒸し暑いわ。季節風の関係で、この時期はあつーい南風がばしばしアリア島に吹き付けるのだけど、王都ではいっつも凪なの。きっと王都が盆地にあるせいね。熱が籠って逃げ場を失ったみたい。

 えっと、こういう気候をなんて言うんだっけ? 高気圧?


「水銀でも用意しましょか?」

 同じく居残りのニコラスよ。

「真空議論はだいたい決着ついてるから、大丈夫じゃない?」

「真空議論って?」

 エラリーが首を傾げたわ。

「あら、知らない? 100年前くらいかしら。パスカルという学者が大気圧の存在を証明したのよ。せっかくだし、やってみる?」

「面白そう!」

 では早速。


「セドリック先生、水銀ってあります?」

「あるけれど…そうね、ゴム手袋をして、換気を良くしてね」

「手袋でっか?」

「この前、水銀は猛毒かもしれない、という記事を読んだの。特に水銀の蒸気が良くない…らしいわ。パスカルも若くして亡くなっているし、念には念を、よ」

「知りませんでした…気をつけますね」


 ということで、手袋を用意。ゴム手袋は魔法大会の時に絶縁体として用意したものよ。それから窓を全開に。うーん、やっぱり風が無いわ。暑さだけが部屋に入ってくる。額が汗ばんでいる気がするわ。あと、胸元も。

「実験で使うんや、もういくつか、作っときましょ」

 あいにくゴム手袋はひと組しかないの。確かにあると便利だわ。


「用意するのは、試験管と深めのお皿、それに水銀よ」

「ほうほう」

「まずはお皿に水銀を、八分目くらいまで入れます」

 私も実は本で読んだだけなのよね。実験できるなんて最高だわ!


「次に、試験管に水銀を入れるわ。こっちは溢れる直前まで」

「ほうほう」

「エラリーはどうなると思う? 試験管を、このお皿に逆さまに突き刺すと」

「水銀が流れてお皿が溢れる!」

「ふふ、そう思うわよね」


 試験管の口を親指で塞ぎながら、お皿に入れる。ポイントは「試験管の口がお皿の水銀の中に入るまで、試験管を離さない」ってこと! 

 ゴム手袋が水銀に浸されて、キラキラ煌めいたわ。あと、もう一つ。あくまで水銀の中で指を離すのがポイントよ。少し浮かす感じね。皿の底に付けたら普通に零れないし。


「いい? 口を離すわよ?」

「どうぞ、フランソワ先生!」


 先生じゃないわ、と言うツッコミは不躾だけど、ゆっくりと指を離す。とろり、と試験管から水銀が流れていく感触が…伝わらないわね。手袋をしてるし。試験管を見る。試験管の水銀の頭(便宜上水面、とするわ)が下がって、容積が減ったことが分かるわよね。


 だけれどね、面白いのはここからよ。

「ええええ!? 全部流れないの!?」

「その通りよ、エラリー! これこそ『大気圧』よ!」


 エラリーの言う通り、試験管の中の水銀は、少しはお皿の中に入るけれど、「全部は入らない」の! つまり、水面の観点から見ると、お皿の水面よりも試験管の水面の方が高い位置にある、ってこと。

 ちなみに真水でも実験はできるらしいわ。計算上は10メートルくらいの試験管が必要らしいけれど。


「フランソワ先生、大気圧とは?」

 だから先生じゃないわ。

「端的に言うと、大気がモノを押す力のことよ」

 お皿の水銀を大気が押します。

 その力で、試験管の水銀も押し上げます。なので水面はお皿より高い位置になります。

 そういう理屈なの。これで「大気は物質である」と証明されたのよ。


「そしてね、ここからが本題なの。この空間…試験管の水面より高い位置にある空間は何だと思う?」

「…大気?」

「大気じゃないわ。だって私、さっき水銀を並々注いだでしょ?」

「じゃあ…『何もない?』」

「そう、『なにもない』の! これが真空よ!」

「あれ? それじゃ、精霊論ってこの段階で破綻してない?」

「良く気付いたわね」

「そりゃ、気づくって。だって精霊は世界のすべてを満たしているんでしょ? でも、『なにもない』なんて矛盾してるじゃん。これでディベート、勝てないの?」


「セドリック先生、どう思いますか?」

 そうねぇ、とセドリック先生がおっとりと答えたわ。


「それが精霊論者とのディベートが難しい理由なの。実は百年前にもやっぱりグランド・ディベートがあったのよ。精霊論と真空論でね。でも、教会の連中はこう定義したわ。『真空は神が「そのように」お創りになられたのだ』って」

「言いがかりじゃないです!?」

「エラリーさん、その通りよ。でも、それが彼らの手法。私も詳しくないけれど、解釈、という技法を使うみたいで」


「つまり、聖書や教義を都合よく読み替える、という事ですか?」

「フランソワさんの言う通りよ。彼らは都合よく言い換える…だから、ディベートではその屁理屈を越えなければならないの」

「そりゃ骨やな。口なら負けへんつもりやけど」

「そうね…わたしも、そのくらい口達者なら良いのだけれど…。でも、グランド・ディベートでは唯一、勝てる方法があるわ」

「それは一体?」


「観客を味方につけるのよ」

 そこでセドリック先生が可愛らしいウインクをしたわ。

あ、この作品所謂『異世界学園モノ』ではないので、夏休みイベントとか水着シーンありません。

ご了承ください。それだと悲しいので、何話か後にほんのりお色気シーン入れてます。


※ほんのりお色気シーンが気になる方はブクマください!

※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。

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