第122話 ビアンカ皇王からの指令
その翌朝なのだけれど。
「お嬢様、ビアンカ陛下よりお手紙が届きましたわ」
「そうなの? 珍しいわね、手紙なんて」
私も一応、特命外務担当ですからね。手紙と言うか報告書を定期的に提出してはいるのよ。基本的に返事は返ってこないわ。ビアンカも忙しいだろうし。
「はい、お読みになられますか?」
「うん」
はい、分かりました。
「原因が分かったわ。マルゴも読む?」
「それでは失礼を…こ、これは…」
ビアンカの手紙はこうよ
【件名:シャルロイド家次期当主ノ動向支援ノ件】
標記ノ件、ローラン及ビ、アンナ両名ガ貴地ニ到着セシモノト推察ス。付イテハ、下記ノ如ク命ズ。
一、詳細報告ノ義務
フランソワハ、ローラン及ビ、アンナ両名ノ行動、機微ニ付キ、仔細漏レナク速報スベシ。本件ハ単ナル私事ニ非ズ、シャルロイド公爵家ノ将来を左右スル重大ナル国事ナリ。
二、現状ノ懸念
ローランハ依然トシテ、浮名ノ一条モ無キハ極メテ遺憾ナリ。当該事項ハ国家ノ安寧及ビ統治基盤ニ対スル重大ナル懸念事項ナリト認ム。
三、戦略的支援
フランソワハ状況ニ応ジ、目標ノ攻略ニ資スル支援ヲ実施スベシ。必要アル場合ハ、フロリーナ等ノ補助戦力ヲ投入スルコトヲ許可ス。
四、公爵家方針ノ公示
本件ニ関シ、シャルロイド公爵ヨリ「一切ノ決断ヲ尊重ス」トノ正式ナル言質ヲ下サレタリ。即チ、作戦遂行上ノ階級的障壁ハ既ニ撤廃済ナリ。
五、結語
諸子ノ奮戦ニ期待シ、作戦ノ完遂ト公爵家ノ繁栄ヲ切ニ願フ。 各員、其ノ職責ヲ全ウセヨ。武運ヲ祈ル。
…なんで戦時報告の形式なのかしら?
読み辛いだろうから、口語に翻訳するわね。
【件名:シャルロイド次期当主の動向について】
ローランとアンナがそっちに到着した頃合いだと思うから手紙を書いたわ。
下記の事項を私まで報告すること!
①ローランとアンナについて、詳細を報告しなさい!
②ローランってば未だに噂話一つないのよ、このままだとシャルロイド公爵家の存続が危ぶまれるわ。
③フランソワもローランを支援して、ちゃんとくっ付けること! フロリーナを使ってもいいわ!
④あと、シャルロイド公爵にはちゃんと許可を得たから。『この際平民でもOK』だって!
⑤頑張りなさい!
「あの二人、くっ付けるのがホントの王命らしいわ」
「た、確かに…ローラン様も良いお年なのにご結婚をされないので、メイド連中も不安を覚えてはおりましたが…このままでは跡取りが生まれないと…。し、しかしなぜ戦時報告形式で?」
「ビアンカよ? 王命とか国家存亡とかは表向きで、要するに『こんなおいしいネタは無いから、全部報告しなさい、私の暇つぶしに!』っていうところね」
「流石お嬢様」
「ビアンカとは付き合いが長いからねぇ。でも、支援と言っても…どうしようかな。マルゴ、昨日の晩は別々の部屋だったのよね」
「ええ、もちろん」
「それで…多分セシルお兄様が寄港するまでは大使館にいるわよね」
「おそらく…」
「よし、それじゃマルゴ、今日から同室にしましょう」
「は、はい!? そ、それは流石に…逆にシャルロイド公爵家の品格が損なわれますわ」
「ローランお兄様が断ったら仕方ないじゃない、それにコンスタンだから大丈夫じゃ?」
「コンスタンに何と言われるか…」
「そもそも大使館って治外法権があるでしょ。まずはバレないわよ」
「い、一度フロリーナ様にご相談されてはいかがでしょう? 私は容易に賛成できませんわ」
「本音は?」
「事故でも良いので、子を成して頂かないと」
「ですよね」
マルゴにとっては勤務先の安定に繋がるからね。
◇◇◇
「皆、今日は緊急会議に集まってくれてありがとう」
ちなみにローランお兄様とアンナは朝から農園巡りをするらしいわ。土を集めるだけ集めて比較するんだって。ドロテも一緒よ。案内人ね。
ということで、参加者は私、フロリーナ、エラリーの三人。エラリーの機嫌はすっかり良くなっていたわ。流石ギリアム先輩、手紙一つで平和を取り戻すなんて。
「それで、議題って?」
エラリーの質問。
「まずは二人とも、この手紙を見て頂戴」
「なにこれ?」
「そういう事ですのね」
流石はフロリーナ、ビアンカとは旧知の仲だけあるわ。
「つまり、ローランさんとアンナさんを恋仲にしろと」
「その通りよ、フロリーナ」
「え、なになに!? そういう話? なら私得意だよ!」
やっぱ恋人がいるお方は説得力が違うわ。
「で、しばらく大使館に逗留するだろうから、同じ部屋に押し込める作戦を考えたのだけど」
「ダメダメ、フランソワ! そういうの良くない、というか、私の見たところもうあと一息のはずだよ、だってローラン様ってフランソワのお兄様でしょ、公爵家長男でしょ、跡取りでしょ? 平民のアンナさんの言う事を聞いてる時点でもうだいぶ惚れてるって!」
「私もそう思いますが…先輩は何かご懸念が?」
「んーとね、そもそも、二十代も後半になって、『公爵家の長男』が未婚っておかしくない?」
「それは…そうですが」
「そうなの。もちろん色んな縁談はあったし、ダンスパーティーとかもちょこちょこ行っていたのよね。私も何度か同席したんだけど、どうもお兄様、『ザ・貴族の令嬢』があんまり好みじゃないみたいで」
「でも、手紙を見ると平民でもOK、なんでしょ。なら障害はないんじゃないの?」
「そこがローランお兄様の難しいところなのよ。何しろ法制局務めよ。昔から頭は固くってね、公爵家としてどうあるべきか、を第一優先に考えるタイプなの」
「先輩、つまり公爵様の意向はさておき、『本心は惚れていても、公爵家として平民を嫁にするのは立場が許さない』と言う事ですわね」
「その通りよ、フロリーナ。お父様の許可はさておき、ローランお兄様自身がそう考えるタイプなのよね。その辺はエラリーの方が恵まれているわ」
「な、なんのこと? 何の事かしら、フランソワさん?」
エラリーが変な敬語を使ったわ。
「べつに~」
「でも先輩、昨日はとても仲睦まじく見受けましたが」
フロリーナが言ったわ。
「それは私も予想外だったのだけれど…ほら、旅行のテンション的なやつかもしれないし」
「あー、それはあるねぇ。エヴィルからアテネアまで、船で三週間くらいかかるし」
「世間の目から離れて、肩ひじ張らずに自由行動できる環境よね。そういう意味では私も羽を伸ばしている訳だし」
忘れがちだけど、私ってば国外追放中ですからね。
「では、どうすれば?」
「なので相談なのよ。いいアイディアはない?」
「わたくし、こういったものは疎くて…」
「エラリーさんは?」
「そうだねぇ…。リミットはいつ?」
「ジャンドル大使の話だと、セシルお兄様は新年には一度戻られるらしいわ」
「あと一週間くらいかぁ。二人でお出かけしてもらう? それとも、私たちがどこかに行く?」
「私たちが?」
「そ、知り合いが完全にいない状況なら…特にフランソワがいない状態なら、お互い素が出るんじゃないかなぁ。何となくだけど、私的な旅行をするタイプじゃないでしょ。今も一応、『国家事業』という名目で動いているんだろうし」
「名目は重視するわね、確かに。二人でコンスタン小旅行、ってアンナはともかくローランお兄様が認可しないわ。なら、どこかに…どこに行こうかしら?」
「それなら、丁度いい仕事があるんだけど、やる?」
「なあに、エラリー」
「ああ、例の件ですわね」
フロリーナが頷いたわ。そうだよ、とエラリー。
「小学校設立の啓蒙活動!」
「あ、いいわね。アレクセイの認可は降りたんだよね」
「降りたよ、でも国民の方がピンと来てなくて」
「そうよね…なら、サンチェスとトマスも連れて行きましょう。フロリーナ、二人の今の学習具合は?」
「読み書きは概ねできるようになりましたわ。今は計算を教えていますの」
「じゃ、丁度いいかもね。よし、それで行きましょう! 一応アレクセイにも声をかけておこうかしら。許可証一つあるだけで全然違うしね」




