第115話 フランソワとシオンのデート(?)
「シオン、どうしたのその格好」
「なんか…マルゴに着せられた…」
パリっ、とノリの効いたYシャツに、キュロットタイプのズボンよ。庶民がちょっとお洒落する時みたいな服よね。私は麻のワンピースに羊毛のストール。秋も深まってきたし、日が翳ると肌寒いのよ。
「そういえば、昼は外で食べろと言われた」
「なんでかしらね。とりあえずお店に行く?」
「そうする」
「何かいいお店、あるかしら」
「そういえば昨日、ギリアム先輩に教えてもらったんだ」
「昨日?」
昨日は朝から王宮に行っていたから、シオンとは会ってないのよね。
「フランソワと行けばいいって」
「そうなの? なら、折角だし行きましょう。ところでシオン」
「なんだよ」
「あなた、最近勉強してないでしょ」
「う」
「う、じゃないの! もう、卒業できなくなるわよ。魔導書くらい読み込んでおかないと」
「眠くなるんだよ…」
「つべこべ言わないの。もう、私が魔導真理学部だったら教えてあげられるんだけど」
「フランソワは自然哲理の方が向いてると思う」
「そうかしら?」
「楽しそうだから」
「楽しいわね、確かに。コンスタンに来てからやることが多くて。アリアを出て正解だったかもね」
「俺も頑張るよ」
「そうね、期待してるわ。ひとまず…ヨハン辺境伯に弟子入りするのはどうかしら? 土魔法使いみたいだし、軍略もお詳しいし。魔導真理学部って士官学校の要素もあるでしょ?」
「ああ、ギリアム先輩みたいな」
「それ。何にしても、勉強しないよりマシだわ」
「そうする」
◇◇◇
そんな事を話しているうちに、目的のお店についたわ。
「いいわね、庶民的だわ」
「安心した。肩肘張らなくて良さそうだ」
「それが一番よね。とりあえず入りましょ、お腹空いちゃったわ」
伝統的コンスタン料理、黄金の角笛亭と言うらしいわ。入店したらね。
「あ、あなたは…もしかして聖女フランソワ様!?」
「はい?」
ウェイターが仰天して、奥に駆け込んでいって、店主となにやら話して、店主がどたばたと現れたわ。
「こ、光栄にございます、聖女フランソワ様! ま、まさか私の店にご訪問頂けるとは…」
「あの、聖女って柄では…」
「と、とんでもございません! かの難病、ソーセージ病をたちどころに治療されたとか…。まさしく神のお導きと、街中の噂になっております!」
「ふ、普通の客として扱ってくれます…?」
「とんでもない、聖女様にお金を支払わせたとあれば…」
「普通に払いますから」
そんないざこざがあって、とりあえず着席。ウェイターは恐縮しきりだったけど。
「なによこれ」
「あれじゃねぇの?」
シオンが指差した壁には、額縁にタブロイドが飾ってあったわ。
「また『オーロール・クロニクル紙』ね」
最近は私専用の広報誌になってるような。少し古い記事だけれど、ソーセージ病を治療した時のイラストよ。パレードをしたじゃない、そのイラスト。
いつの間にアポを取ったのか、サンチェスのご両親のコメントまであるわ。タイトルはもちろん、『聖女フランソワ、異国で奇跡を起こす! ソーセージ病を理外の技で解決へ』ですって。
「はぁ、街も気楽に歩けないなんて」
「俺と一緒ならいいんじゃねぇの?」
「たしかに」
普段はフェンリル・ベルク兵が五人ばかし付いて回るからね。シオンと二人きりって確かに久しぶりだわ。
「あの、フランソワ様」
「なんでしょう?」
ウェイターがおずおずと尋ねてきたの。
「あの、メニューにない新レシピがございまして。聞けばフランソワ様はアリアのご出身とか。一昨日輸入されたトマト瓶を仕入れましたので、それを用いたレシピを考案いたしまして」
「トマト! ええ、大丈夫よ。私トマトは大好物だもの」
「俺は苦手」
「あのねぇ…」
「で、でしたらぜひ! 酸味の具合が丁度良くて、コンスタン料理に合うんです! すぐにお持ちしますね」
「確かに、コンスタンに来てからトマトを食べてないのよね。輸入の問題かしら」
「トマトって、新大陸だっけ?」
「そうよ、良く知ってるわね」
「授業で習った」
「そう考えると、アリアでもまだ歴史の浅い食料なのよね。今じゃトマトが無いアリア料理なんて考えられないけれど。物流…物流ね。専門外だわ。少しは学習しないと」
「フランソワも物流、変えたじゃんか」
「なんのこと?」
「トマト瓶が輸入されて、新メニューができたんだろ。瓶詰、フランソワが作ったじゃんか」
「そんな発想はなかったなぁ。そっか、瓶詰って物流を変えるんだ」
言われてみればそうよね。生トマトじゃコンスタンに来る前に腐っちゃうし、乾燥トマトはうま味が強くて美味しいけれど、折角の酸味が抜けるのよね。
「お待たせしました!」
一品目は魚介のトマトスープだったわ。
「ミネストローネとアクアパッツァを合体させたみたいな料理ね」
「ん?」
「どうしたの、シオン」
「このトマトだと食える」
「なんでよ」
「なんだろ…出汁が強いから?」
「どういうこと…? うん、美味しいわ。確かに、出汁が効いてるわね」
「あ、ありがとうございます! つづいてメインです」
メインは山羊肉と…。
「これは何かしら?」
「山羊のチーズです、それにオリーブの実と夏野菜、それから豆類をトマト瓶で煮込みました」
「名前は…」
「あの、まだなくて」
「これ、ベースの料理は?」
「山羊肉の煮込み(スティファド)ですわ」
「トマトを使っているから…トマト煮?」
「角笛煮は?」
シオンが言ったわ。
「お、お付きの方…! 素晴らしいお名前です!」
「シオンと言うのよ」
「シオン様! すぐに店主に確認します!」
角笛煮、要するにお店の看板料理、ってことよね。
「角笛って、山羊の角よね。楽器になるんだっけ」
「ほら貝みたいな?」
「たぶん。確か…金管楽器と同じだったような。詳しくはないけれど」
「フランソワ様、シオン様!」
また店主が現れたわ。
「新メニューに素晴らしい名前をお与え下さり、心より感謝いたします! 角笛煮として、アテネア中に宣伝いたしますので!」
「あ、はい。あ、そういえば」
「なんでしょう、なんなりと」
「どうして角笛亭と言うんですの?」
「はい、開業した三代前は元々猟師だったとかで。元々はジビエ料理が発祥なのです」
「猟師…銃…楽器…」
なんとなく、見えてきたわ。
「ありがとう、店主さん。まずはゆっくり頂くわ。お店の雰囲気も素敵だし、贔屓にさせてもらうわね」
「あ、ありがとうございます、フランソワ様!」




