第101話 真紅と檸檬のドレス
「お嬢様」
翌朝、マルゴが手紙を渡してくれたわ。
「レセプションのご案内ですわ。気の早いことですが、本日とかで…。いかがいたします?」
「こういうのは普通、1ヶ月くらい間を開けると思うのだけど」
「仰るとおりですわ。無礼にも程があります。お断りされますか?」
「いいえ」
今は早いことに越したことはないわね。
「参加するわ。同行者は…私とセシルお兄様、それにエラリーでどうかしら? 付き人としてマルゴも参加して」
「シオン殿は?」
「んー、儀礼は無理よ?」
「であれば、衛兵として。無言を貫いていただければ」
「任せて良い?」
「当然にございます」
「それじゃ、5人で参加しましょう…。ドレスも任せるわ」
「お任せください、お嬢様」
「フランソワ、いいの? これって割と軽装だけど」
エラリーが不思議そうな顔をしたわ。一応他国様のレセプションですものね。本来なら『ガチガチのコルセットで正装』『スカートの布は床に付くのもの』が正しいのだけれど。
「無礼には無礼、って事よ。それ以前にこっちの方が可愛いし。マルゴのセンスには脱帽だわ」
「そりゃね、私もこっちの方が好き! ほら、腰のリボンが可愛くない? それにフリルのスカートでしょ、ネックレスも見てよ、ネコちゃんなの!」
「気に入ってくれて何よりだわ。ちょっと肩がすーすーするけど」
私は桃色のノースリーブドレスに、同系色のシースルーなショールを羽織っているの。エラリーは…ええ、悔しいけど私よりスタイルがとてもよろしいので、檸檬色の、少し胸元を見せる感じのドレスよ! 二人とも共通しているのは、足首からくるぶしあたりまで『見せてる』ってこと。
「お、おい…やりすぎじゃないか?」
セシルお兄様の方がそわそわしているわ。お兄様には白色の軍服、要するに海軍正装を着ていただいたの。腰には軍刀、肩章でばっちり固めて、襟元には艦長刺繍と少佐刺繍をあしらったもの。遠目からでもアリア軍のお偉いさんだって分かるはずよ。
それからね。
「あつい」
「我慢して」
シオンには申し訳ないけれど、黒色の詰襟を着てもらったわ。士官どころか軍人ですらないから、肩章も刺繍も無いけれどね。お兄様との対比が面白いんじゃないかしら? こちらも腰には軍刀。でも、装飾華美なお兄様の指揮官刀と違って、実践重視の無骨な刀よ。
「俺、剣術苦手だけど」
「威圧よ、威圧」
魔導士だからね、シオンは。剣術なんて王立学院の訓練しか経験がないのよ。
「本来なら、銃の一つでもお持ちしたい所ですが」
マルゴはザ・クラシックなメイド衣装よ。装飾感は一つもない、機能に特化したような服ね。ちなみにマルゴは銃の名手でもあるのよ。詳しくは外伝を読んでね。
「ははーん、意趣返しだね」
「良く分かったわね、エラリー」
「そりゃね。私とフランソワだけ常識外れのドレスで参加してるのに、お付きの人たちはザ・クラシック、伝統の塊みたいな恰好で参列する、ってことは『あなた達にはこれで十分』って言いたいわけでしょ」
「そういう事!」
「で、生足」
「それ~、流石エラリー」
「あ、あのな…変な虫が寄ってこないか、俺はそれだけが心配で」
「その時はお兄様とシオンが守ってくださるのでしょ?」
「えー」
「えーじゃないわよシオン。名誉に思いなさいよ」
「それじゃあさ、もう少し遊んじゃおうよ!」
「遊ぶ?」
「丁度ブーゲンビリアの時期じゃんか」
真っ赤や桃色の綺麗なお花よ。色鮮やかで、至る所に咲いているの。もちろん領事館にも何株かあるけれど…。
「これをね」
エラリーさん、花束を咄嗟につくる技能があるなんて。ささっ、と何房かを摘んで、それをまとめて、簪みたいに私の髪に挿してくれたの。
「最高、可愛い、お洒落!」
「そ、そうかしら?」
「んで、私はこれ!」
「ひまわりね、確かに」
小ぶりなお花を簪に。黄色のドレスによく映えているわ。
「うん、ばっちり!」
手鏡でお互いに確認。自分で言うのもなんだけど、確かに可愛い。
「お、お兄ちゃんは心配だ…」
最近セシルお兄様のシスコンが心配になってきたのだけど。
「あとは…もう一つ、インパクトが欲しいなぁ」
「馬車など、如何でしょうか?」
「マルゴさん、確かに! 思いっきり堅苦しい、ロココ調の客車、なかったっけ?」
「ございますよ。二頭立てにさせて頂きましょう。御者は僭越ながら私が」
「マルゴさん、馬車もできるの?」
「なんなら乗馬も得意よ」
「何者?」
何者と言われても…。スーパーメイドと言えばいいかしら?
「恐れ入ります」
マルゴが丁寧に頭を下げたわ。
「それじゃあ、俺たち四人が馬車、ってことだな」
「その通りです。お兄様、エスコートお願いしますね」
「もちろん、任せろ」




