第97話 コンスタン王国王都アテネア
どこまでも青くて晴れ渡る青い空、それから白いカモメ、点在する雲、透明度の高い紺碧の海…。
ここまで書くとバケーションよね!
実態は国外追放なのだけれど。
ノイエ・エーテル号は穏やかな海をゆるゆると進んでいたわ。今日は通常航行よ。急ぎの旅じゃ無いしね、実際。
「見えて参りましたね、お嬢様。あれがコンスタン王国ですか…建物の様子が違いますわ。あのような大きなドームはアリアではまずお目にかかれませんもの」
はい、一人キャストが増えているからご紹介するわ。メイドのマグリットよ。私は普段マルゴと呼んでいるわ。私が王立学院に入学するまで、領地のシャルルで身の回りの世話をしてくれていたの。
そのシャルルのメイドがどうして国外追放に参加してくれているのかというと…。私たち、エヴェイル港からコンスタンへ直行したわけじゃ無いのよね。お父様とお母様に顔を見せてやってくれ、というセシルお兄様の勧めに従って、シャルルに寄港したのよ。
実際、次にお会いできるのがいつになるのかわからないし、下手したら一生お会いできないかも知れないしね。
そしたら大変な騒ぎだったのよ。
みんな情報が早いわよね。王都からシャルルへの最短ルートはギルテニアまで陸路+ギルテニアから海路、なのよ。
だから海路で大回りしてきた私たちの方が到着が遅れること自体はおかしくは無いのだけれど。
ちょうど入港の前日に『オーロール・クロニクル誌』の最新刊が発刊されたみたいで…。顔から火が出るかと思ったわ。なんだかとっても神秘的で、神様の使い、或いは現世に顕現した囚われの天使、みたいなイラストがデカデカと描かれていたんだもの。まぁ、私の事なんだけど。
タイトルはこうよ。
『聖女フランソワ、教会の不当判決により異端認定! これ以上教会の横暴を許すな!』
噂では初版が30分で完売したらしいわ。ただいま絶賛増刷中、とか。そんな最中に唐突に登場したわけよ、『聖女フランソワ』とやらが。自分で言って恥ずかしいのだけど、実際そういう扱いだったのだから仕方ないわよね?
それでね、エラリーさんはこういうの、得意なのよ。セッティングがね。
「んじゃこの前の真っ白なドレス着てもらって、セシルさんが先導して、『聖女フランソワ』を護衛する感じでシャルル城までパレードしよう!」
結果はわかるかしら?
件の聖女を一目見ようと沿道には人、人、人で溢れたの! なんか啜り泣いてる人もいましたけど!
なんなのこれ!
エラリーさんってば、「こういうの大事なの、後で効くよ〜」って軽い感じだったけど…。ホントそのうち暴動でも起きるんじゃ無いかしら…。
ともかく、お父様からは一言目に平謝りされたわ。お父様が悪い訳じゃないのに。一方でお母様ときたら。
「いい機会じゃない、しっかり外の世界を見てくるといいわ。『特命外務担当』なんでしょ?」
って感じでね。私の性格ってお母様似なのかしら?
ところで『特命外務担当』とやらなのだけれど。
「ビアンカ陛下より書簡が届いていてね」
と、お父様が手渡してくれたの。簡単な文言よ。
フランソワ・アリエル・ド・シャルロイドをコンスタン王国特命外務担当に任命する。
職責 アリア自然哲理学の啓蒙活動
貸与物 コンスタン王国アリア領事館内に設置する自然哲理研究室、および備品の一式
ですって。何をさせる気なのよ。ともかく住むところは用意されているみたいで安心ね。
セシルお兄様がシャルルに寄港したのはこの指示書を受け取る、という理由もあったみたい。
「ところでお父様、コンスタン王国との国交は成立したのかしら?」
「王権保守党は反対の意向だが…」
「あなたもいい加減、古いしきたりに捉われていないで革新連盟に鞍替えしなさいな」
「と言ってもお前、公爵家たるもの易々と鞍替えができる訳では…」
「そういう態度がフランソワの国外追放なんて事態を招いたんじゃなくて?」
お母様、そのくらいにしてあげて…お父様がしょんぼりしちゃっているわ。
ちなみにエラリーさんの情報だと、経済実利会が賛成予定らしいから問題は無いらしいわ。
ともかく、感動(?)のお父様とお母様との面会は終えたのだけれど、最後にね。
「マグリットが同行を強く志願しているの。連れて行きなさいな。その方が私も安心だわ」
というお母様の言葉があって、マルゴが同行することになったのよ。
ええ、お母様のご心配はよーく分かるわ。
…私一人だと生活の乱れが心配ってことはね。
そして再び出航した訳です。
やっぱり群衆のお見送りがあった訳だけれど、同じくエラリーさんの助言で、一言だけ残すことにしたのよ。
「みなさん、本当にありがとう…! わたし、必ず身の潔白を証明して、このシャルルに戻ってきます!」
半分本心だけれど、半分は演技してみたわ。
結果はもの凄かったわよ。グランド・ディベートの歓声を塗り替えるくらいの怒号と歓声だったのだから…。
ということで話を戻すわ。
シャルルから二週間ほどの航海を終えて、コンスタン王国とはもう目と鼻の先。
王都アテネアは三方が丘陵に囲まれた、風光明媚な港町だったわ。シャルルとも似た雰囲気があるけれど、外航船は見当たらなくて、全部内航船みたい。
コンスタン王国ってミルドガルド大陸から突き出た半島国家なのだけれど、北側はサンニコラ湾、南側はリムノス湾と、南北を大陸に囲まれた湾になっているのよ。だから波が穏やかで、内航船だけである程度行き来ができてしまうのでしょうね。小ぶりで一本マストの船が多いわ。ノイエ・エーテル号もアリア基準では小型船のはずなのだけれど、ここだと戦列艦並みの巨艦に見えるんじゃないかしら。
当然接岸できないから、沖合で停船。アリア国旗を掲げているけれど、先方は少しピリついた様子で、軍艦が二隻やってきたわ。漁船サイズだけど。コンスタン王国の兵士が乗船してお兄様と交渉。書面を相互に確認。
「それでは、先導いたします」
丁寧に挨拶してくれて、小舟に乗り換えたわ。同行はセシルお兄様、私、エラリー、シオン、マルゴの五名よ。それにしても波が穏やかで海中まで見られるわ。お魚が悠々と泳いでいるのが見えるくらい。コンスタン王国には刺身の文化はあるかしら。それからお米文化。場合によってはアリアから輸入が必要よね。
「魚、うまそう」
「ね、新鮮だわ」
「あたし食べないからね?」
といつものやり取りをしつつ、アテネアに上陸。
ここからは馬車みたい。
そして変わらず人の多いこと!
シャルルとは違って、物珍しさが先行しているみたい。私もだけれど、コンスタンの住民も西側の人間を見るのは初めてでしょうしね。
「アピール、アピール!」
とエラリーが小声で言うので、にこやかに手を振ってみたわ。反応は悪くないわね。
ところで私、いつまで白いドレスなのかしら。ドレスならシャルルでいくつか積んできたのだけれど。
「白がいいの、白が。潔白で純白、万国共通の聖女の服でしょ」
本当に万国共通かは知らないわよ、喪服が白い文化圏もあるんだから。
いつもお読みくださり、本当にありがとうございます!
明日より第五部完結までは、朝8時10分と昼12時30分の二回投稿に変更いたします。
引き続きよろしくお願いいたします!




