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第96話 公爵令嬢、国外追放へ

 また、鉄格子の馬車なのかと思ったのだけれど、アレフが用意してくれたのは周囲が囲まれていて、小さな小窓がついただけの質素な馬車だったわ。

「しばらく辛抱してくれ」

 アレフに言われる。

「いいわ、衆目に晒されないだけ」

 ああ、と頷き、中に入ろうとした時。かつん、と小石が足元に落ちたの。アレフが舌打ちをしたわ。

「取り押さえろ」

「はっ!」


 近衛兵が小石を投げた男に飛びかかって、少しの騒ぎ。すぐに静かになったわ。

 中も変わらず質素だったけれど、座席があるのね。ずっと立ちっぱなしで疲れていたところだったの。腰を降ろさせてもらう。

 この馬車、四人乗りかしら。

 空き座席をみながら、ぼんやりと思考。すぐにがたごと、と動き出したわ。どこに向かっているのかしら。エヴィルから出航…が妥当だけれど。少し気になって、小窓から外を覗いたの。やっぱり、エヴィルに向かっているみたい。川便じゃないのね。道路経由は初めてかも。乗り換えがないのは楽でいいけれど…。でも、コンスタン王国…。どんな国なのかしら。私、ちゃんと受け入れられるかしら?

 文献も少ないし、第一フィヨルドにはいったけれど、外国なんて暮らしたことがないわ。


 わたし一人で。


 どうなるんだろう、わたし。

 ビアンカのことだから、きっと手を尽くしてくれていると思うのだけど…。

 でも。そもそも東側の国よね。何もわからないわ。文化はどうなのかしら。食べ物は…家はどうなの?

 何より、どんな人が暮らしているのかしら…。


「フランソワ、一旦休憩を取るぞ」

 馬車が止まって、アレフに声をかけられたわ。納屋…かしら。周囲がまるで見えないの。一体どうして。ビアンカの配慮…かしら。

「部屋を用意してる。その奥だ」

「ありがとう、お茶くらいあるのかしら?」

「行けばわかる」

 首を傾げながら、奥扉を開けたの。

 そしたら。


「待ってたよ、フランソワ」

「おう、よろしくな」

 エラリーと、シオンだったわ。

「え、ど、どうして…?」

 予想もしていない二人に、正直に混乱したわ。

 その私の手を、エラリーがそっと掴んでくれたの。


「わたしも一緒に行く。フランソワ、あなたを一人にはさせないから!」

「コンスタン王国、ってところに行くんだろ? また美味いもん、あるといいな!」

「ふ、二人とも…」

 はらり、と目の端から雫が落ちたわ。

 そしたらね、エラリーがぎゅっ、抱きしめてくれて。

「怖かったよね、不安だったよね。でも大丈夫…みんなフランソワの味方だから。私たちだけじゃないよ。ギリアム先輩も、ニコラスもマルタも…みんな、フランソワと想いは一緒だから」


 もう、止まらなかったわ。

 わたし、不安だったの。

 本当に、心から、寂しくて怖くて、どうしようもなかったの!

 嗚咽と涙が溢れて、どうしようもなくって…。

 ただ、幼子みたいに、ずっと泣き続けていたわ。



「そうだ、これ」

 エラリーが包みを渡してくれたわ。

 一息ついて…。一息つくのに1時間くらいかかったけど…。再び馬車に戻ったの。この馬車、わたし達を隠すため…エラリーとシオンの同乗を悟られないために用意したのね。流石ビアンカというか…用意周到だわ。


「これ、いいの!?」

 驚いたわ。なにしろ、真・顕微鏡なんだもの!

「そりゃね、先生から伝言だよ。『フランソワさんに託します…いずれ教会の嘘を暴いてね』って。すっごく怒ってたんだよ、先生。教会だけは許せない、って…。昔、何かあったのかな?」

「わからないけれど…」

 先生の過去ってほとんど知らないのよね。出身はシルバらしいけれど…。昔の先生も、わたしと同じような目にあったのかしら?

「あと、これ。ギリアム先輩から」

 お手紙だわ。


フランソワ君江


此度の事、慙愧ざんきに堪えず。

君を襲いたる不当なる断罪を、我が微力にて阻止し得なんだ事、痛恨の極みに御座候。

然れども、君よ。惑う事なく、己が信ずる真理みちを邁進せられたし。

東国コンスタンへの路次、我が信を置くエラリー、並びに護衛としてシオンを同道せしめたり。

追って、増援の徒も逐次、差し遣わす手筈なれば、いささかも懸念を抱く事勿れ。

学舎の『セドリック研究会』は、この我が確と預かり、君の帰還を待つ城郭として、より一層の発展を遂げさせて見せんと誓い奉る。

我は、卒業の後は『海軍』へと身を投ずる決意なり。いずれ万里の波濤を越え、君の留まる東の果てまで、大艦を連ねて救援に赴かん。

今は暫しの別れなれど、心は常に一蓮托生。戦塵の晴れたる日、また相見える時を、切に願うものなり。


——ギリアム・ド・プロヴァンス 拝



「硬い! ギリアム先輩硬い!」

「だよね! 口語でいいじゃないですか、って言ったんだけど、全然聞いてくれなくて!」

 えっと、要約するとね。

 

 今回の事件に役に立てず、申し訳なかった。

 フランソワは自分の信じる道を進んでほしい。

 エラリーとシオンを同行させる。

 そのうち追加の人員も送る予定だから、安心してほしい。

 セドリック研究会は僕がしっかり守るよ。

 それから、卒業後は海軍に進もうと思う。

 そのうちにコンスタンに行く予定だよ。

 また後日会おう。


 ってことなんだけど!

「はー、なんだかおかしくなってきちゃった。うん、悪くないわね。折角の機会だもの、修学だと思った方が建設的だわ!」

「ん、元気になって良かった」

 シオンも心配してくれてたのね。

「ありがとう」

 改めて、御礼を言うわ。

「二人とも、それから、みんなにも」



 えっと、それからですね?

「の、ノイエ・エーテル号…」

 何してんのビアンカ! ちょっともうみんな殺気立っちゃって! 一番はセシルお兄様だけど!

「やぁ、フランソワ。指示をくれないか? 今から聖都…いや、愚都セレスティアを焼き尽くせと一喝してくれ。ビアンカからの命令なんて今すぐキャンセルできるからね?」

「そうでさぁ、お嬢! 俺はもう頭きちまってよ! 今すぐロッサムとか言うジジイとマクシミリアンとか言うクソジジィ、首だけにしてやるからさ、シルバ行こうぜ、全員殺し尽くしてやる!」

 バルトロメも激おこだわ、激おこ。


「だーめ!」

 止めたのはエラリーだったわ。

 最初はビビってたのに…。いつのまにか成長して…。お姉さん嬉しい!(お姉さんではないわ)

「もう、みんな打合せしたでしょ! シルバをぶっ飛ばすのは、コンスタンで力を蓄えてからだって!」

「そ、そうだけどよ、エラリーのお嬢…」

「今は臥薪嘗胆の時なの! いずれアリアとコンスタンの連合軍とフィヨルド亡命軍の総兵力で、全部の教会を焼き払ってあげるんだから! その時まで我慢! むしろ怒りは蓄積させた方が効果的! という事で、行くわよ、打合せ通りにね!」

 …この艦は革命軍か何かかしら?

「そうだね…その時までにシルバを一気に洪水に落とし込めるような超水魔法を開発しておくよ…。では、腹立たしいが出港だ! 進路西!」

「西?」

 コンスタンは東だけど…。

「欺瞞だよ。新大陸に行ったと見せかけたいの」

 エラリーが解説してくれたわ。なるほど。

「あと、もう一つ、タネは撒いておいたんだけどね」

 タネってなぁに?



「テオ、オレ、許せぇよ…!」

 アリア王都で、二人の男女がいた。

 オーロールクロニクル誌…タブロイド版を発行する、マルティスとテオフィールの二人であった。

「それにしても…タレコミのあったエラリー、って嬢ちゃんは何者だよ…オレの魂に火をつける女神か何かなのか?」

「うるさいよ、マルス」

 テオフィールはひたすらに手元のスケッチブックへの描き込みを続けていた。

「描かなきゃ…知らんせなきゃ行けないんだよ、アタシら…。聖女の危機なんだ…教会のやつら、もう許せないよ…アタシは、絶対に許さない…!」

 そのイラストは、鉄籠の中でも光を失わない、真っ白な聖女…。

 フランソワの姿が描かれていた。


第三章 異端尋問編 完

第四章 医学革命編 へ続く

第三章完結までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!

国外追放先でフランソワが何を見て、何を成すのか…

第四章 医学革命編 は本日このままスタートします!


ぜひ☆や感想などで応援頂けると励みになります! 宜しくお願い致します。

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