しつこい国民性
「フリージア・ティエルノ、私と結婚しよう!」
「はい?」
何がどうなってそんな思考に陥ったのか分からないが、フリージアはイェネーブル王国出身の留学生ロバート・ロックスにプロポーズされたようだ。
魔法の授業でプライドをへし折ったため、フリージアは恨まれているか、下手をしたら決闘なんかを申しこまれたりするのだろうか? と思っていたけれど、まさか結婚を申し込まれる信じられない結果になってしまった。
(イェネーブル王国の男の人ってどういう思考をしているの……? 昨日の今日で結婚となあり得ないんだけど!)
教室内であんな馬鹿にしたような態度をとっていて、その上「いかさまだ」とフリージアの魔法を罵っていたのに、何故フリージアがロバートからの結婚を受け入れると思えるのか。
意味が分からず一瞬フリーズしてしまったけれど、答えは当然決まっている。
ロバートと結婚してイェネーブル王国へ戻る?
そんな未来は死んでもあり得なかった。
「無理です、お断りします」
ハッキリ、きっぱり断ったフリージアの前、ロバートはニヤリと笑う。
こんなにも他人の笑顔が気持ち悪いと感じたのは初めてだった。
「なんだ、照れているのか?」
「違います、照れてなんていません、貴方と結婚する気がないだけです」
今まで失礼で困った子で恥ずかしい子だと、ロバートのことはそんな認識でいたけれど、今は違う。
気持ち悪い、言葉が通じない、それがロバートの印象となった。
「ハハハッ、昨日のことなら気にするな、出しゃばったことならもう怒っていない、私の目を引きたかったのだと思えば可愛いものだ」
「……」
良く分からないけれど、フリージアの使った魔法はロバートの気を引くためのものに変わったらしい。
いかさまだとあんなにも騒いでいたのは何だったのか、自分都合に物事を解釈するロバートの存在がフリージアは怖いと感じた。
「こらー、何をやっている」
「先生」
担任のエルトールの登場に、恐怖を感じていたフリージアはホッとする。
エルトールは教室内の雰囲気と、薔薇の花を持つロバートを見て何かを悟ったらしい。
集まる生徒たちに近付くと、どう見ても騒動の原因であるロバートに最初に声を掛けた。
「ロバート、学園での婚姻の申し込みは禁止だ」
「は? 何でですか?」
「なんでも何も、ここは学ぶ場所であり社交の場ではない。そういうことは夜会に出て夜会の場で行え。それと学業に不必要は物は持ってくるな、没収だ」
「あっ!」
エルトールはロバートから花を取り上げ「放課後取りに来い」と一言だけ伝える。
そして渋るロバートを促し、授業の為席に着くように生徒たちに声を掛けた。
フリージアも自分の席に着き、そこで初めて自分が震えているのが分かった。
ロバートの行動や言動が気持ち悪かったし、フリージアの言葉が通じないことも怖かった。
でも何より一番怖かったことはイェネーブル王国に連れていかれること。
大切な人たちがいる今の幸せな生活をフリージアは手放したくはなかった。
(エルドレッド……エルドレッドの傍にいたいよ……)
その想いが強いフリージアは、無理矢理にでもフリージアを妻にと望みそうなロバートのことが怖くて仕方がなかった。
フリージアが学園に行っている時間、エルドレッドは王城に侵入していた。
一般的な文官に変装し、向かうは魔法部だ。
イェネーブル王国出身の魔法使いがこの国に派遣されてきたため、どんな人間なのか興味がわき、書類上だけでは無く自分の目で見てみようと足を運んだ。
(クロエ・フィーリスかぁ、さて、どんな人物かな……)
フリージアの学園に通っている留学生は、予想通り傲慢な性格でその上実力知らずの大バカだった。
プライドが高い分、学園での自分の成績の悪さにいずれ国に戻ると言い出してくれたらと、そんな期待を持っている。
魔法部にいる魔法使いも同じだ。
クロエはプライドの高い女らしいので、魔法部での仕事を受け持つうちに自信を無くせばいいと、そう思っている。
そんな考えを持ちエルドレッドが魔法部に着けば、思わぬ声を拾うことになった。
「フィーリス、自身が使う魔道具についてはきちんと申請してもらわないと、こちらとしては貸し出すことは出来ませんよ」
「はぁ? 何でよ、私は魔法使いなのよ、そんな雑用するわけがないでしょう? 魔道具なんてそこに沢山あるじゃないの、貴方が私の言うことを聞いて出せばいいだけのことじゃない」
「……」
やはりと言えばいいのか、クロエは決められたルールも守れない愚か者らしい。
危険な魔道具を国に持ち返り自身の成果としたいのか、それとも中の構造を確認し盗みたいのか、さっさと出せと騒いでいる。
自国であれば「魔法使様」ということで何でも融通が利いたのかもしれないが、ここでは違う。
何のために他国へ派遣されて来たのかクロエは何も分かってもいないらしい。
ならばラスター王国では迷惑しかけていないことを、イェネーブル王国にはきちんと報告させようと、エルドレッドは固く決めた。
「ねえ、ちょっと、そこの貴方」
エルドレッドがわざと目立つように廊下を歩いていると、案の定クロエは声を掛けてきた。
餌につられた魚のようなクロエは、想像通り単細胞な性格なのだなと内心笑ってしまう。
そんな思いは当然顔に出すことは無く、エルドレッドは品のある笑顔をクロエに向け返事を返す。
「はい、何でしょうか?」
きっと提出書類を文官に見えるエルドレッドに書かせようとするのだろう。
だが、魔法使いとして少し脅せばどうなるか。
(今日のうちに帰りたいと言い出すかもしれないな……)
そんなことを願い返事を返したのだが、エルドレッドの顔を見てクロエは興味を持ったのか目をパチパチとさせた。
「あらぁ、貴方、綺麗な顔をしてるのねぇ~、フフフ」
先ほどまでのつっけんどんな言葉とは違い、気持ち悪いほどに甘い声を出しクロエはエルドレッドの顔をなめるように見つめる。
流石イェネーブル王国の女だなと呆れながら、エルドレッドはクロエに答えた。
「私に何か御用でしょうか?」
ワザと声を掛けられるようにしたのだが、それでもまじまじと顔を見つめられると気持ち悪さを感じる。
イェネーブル王国の魔法使いはどうも自身の行動すべてが許される、そう思っているようだ。
首を切り落としたい衝動にかられながらも、エルドレッドは笑顔でクロエの態度を見守った。
「ふ~ん、良いじゃない貴方、私の物になりなさいよ」
「は?」
「貴方、爵位はあるの? 無くても別にいいわよ。私はイェネーブル王国出身の魔法使いで、伯爵家の娘なの、その上上位の魔法使いなのよ。私の傍にいれば贅沢が出来るわ、それにこの私が沢山可愛がってあげるわよ、どう? いい条件でしょう?」
「……」
女性としての自分に自信があるのか、クロエはエルドレッドへウインクを向ける。
魔法使いであり美人な自分は絶対に断られるはずがないと、そう思っているのだろう。
エルドレッドが答えてもいない状態でありながら、何を思ったのかクロエは手を伸ばしてきた。
「触るな」
「キャッ!」
エルドレッドはクロエの手を魔法で弾く。
フリージアだけは別だが、そもそもエルドレッドは他人に触られることが好きではない。
その上この女はフリージアの敵でもあるイェネーブル王国の出身者。
それにこの国にとって害悪でしかない無能な魔法使い。
そんな相手とたとえ仕事であっても慣れ合うつもりはない。
笑顔を消し、冷めた目でクロエを睨み返せば、クロエの顔は羞恥と怒りで真っ赤に染まっていた。
「あなたねー、この私が誰だか分かっているの?! イェネーブル王国出身の魔法使いなのよ!!」
怒鳴るクロエだったが、エルドレッドに近付くことは出来ない。
自身の知らない魔法で手を弾かれ、その上痛みが怖かったのだろう。
一定の距離を取る知能はあるのかと、エルドレッドは内心でクロエをまた馬鹿にする。
「ハハハッ、だから何だ? 仕事も出来ない、手を煩わせることしか出来ない、無能でしかない魔法使いの派遣などこの国にとっては迷惑しかないんだよ。分かったらさっさと帰ったら? 邪魔にしかならないからね」
「はああ?! 貴方ねー、この私が無能だと言うの?!」
「ああ、その通りだ。王城にいながらそんな簡単な書類も書けないだなんて、無能としか言いようがないだろう? 君の行動は全てイェネーブル王国へ報告させてもらうから、国へ帰って大恥をかけばいい。初歩的な仕事も出来すに無能扱いされましたってね、きっと今以上に有名な魔法使い様になれるだろう、馬鹿な魔法使いの筆頭になれるかもしれないね」
エルドレッドの煽りを聞いて、クロエは怒りが限界に達した。
右手を突き出し「【水撃】!」とエルドレッドへ向け魔法を発動させる。
「【解除】」
「なっ?!」
クロエ自慢の魔法は、エルドレッドの前で一瞬で消え去った。
所詮本物の戦いを知らない人間の使った魔法攻撃だ。
戦いを知るエルドレッドの前では玩具と同じ。
どんなに隙があっても当たるどころか掠ることも出来ないだろう。
その上、エルドレッドはフリージアと過ごすことで、これまで以上の実力を身に着けた。
クロエ程度の魔法など、魔法攻撃と呼ぶことさえ滑稽に感じた。
「あ、貴方、何者……? この私の魔法を弾くだなんて……」
驚愕するクロエの前、エルドレッドは冷ややかに笑う。
「フン、イェネーブル王国出身の、君の実力なんてこんなものなんだよ。分かったらさっさと国へ帰るんだね」
「……」
これでクロエの心が折れ、イェネーブル王国へ戻ってくれたら儲けもの。
そうでなくても態度を改め大人しくなってくれればそれでいい。
ただの文官に魔法で負けた。
恥ずかしくてもう仕事場に顔を出せない。
イェネーブル王国の魔法使いならそう思うはず。
エルドレッドはそんな考えだった。
「……ねえ、貴方、名前は? 所属はどこ?」
仕返しでもしたいと思ったのか、クロエはエルドレッドに話しかける。
だがクロエに情報を渡すほど、エルドレッドが愚かなはずがない。
「……君に聞かせる名前はないよ、さようなら」
そう言い残しエルドレッドはクロエから離れた。
取り敢えずどんな女のかは十分に分かったし、もう二度と会うことも無いだろう。
クロエは想像通りの魔法使いでウザさしかなかったが、心を折ったので早々に国に帰るはずだ。
立ち尽くすクロエを見ることなく、エルドレッドは消えていく。
「やだぁ、カッコいいじゃない……彼……」
クロエが目を輝かせ、そんな言葉を呟いたことにエルドレッドは気づかない。
クロエの魔法を一瞬で消滅させたことで、却って彼女の心を刺激してしまったことに、エルドレッドは気づかなかった。
こんにちは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
猫トイレを掃除したのですが、鼻水が止まりません。
あれ? 私、猫アレルギー?
クロエとクレオを打ち間違えます。
気を付けますが見つけましたら警備隊を発動願います。




