決闘の申込み?!
イェネーブル王国からの留学生。
魔法科の一年生であるロバート・ロックスは、授業を終え教室を飛び出すとむしゃくしゃする気持ちを吐き出すように部屋の家具に当たってみた。
だが慣れないその行動は、却って怒りを増すだけだった。
足に伝わる鈍い痛みがロバートに現実を突き付ける。
「クソッ、クソッ、クソッ」
これまでイェネーブル王国の代表として、ラスター王国の魔法使いに本物の魔法使いの力を見せつけてやろうとそう思っていたロバート。
子供の頃から大きな魔力持ちの子として注目され、その上ロバートは宰相の子供としても注目を浴びていた為、自身が特別な才能を持つ者として疑うことは無かった。
それに自宅で魔法を教える家庭教師もロバートの魔法を絶賛し、子供ながら上級魔法も使える天才だと宰相である父に報告し、ロバートはいつだって褒め称えられていたし、両親の自慢の息子だった。
「全部嘘だったのか?! 私は踊らされていただけなのか?!」
宰相家の息子が魔法使いとして生まれたならば、両親だって自慢したいはずだ。
家庭教師はその心を読み取りロバートに上級魔法を教えたのかもしれないが、今日見た現実ではその出来はお粗末なもの、とても上級魔法とは呼べないものだった。
だが確かに使った魔法は上級魔法のものであり、幼いながら上級魔法が使えると言うことは正しく、良い宣伝になった。
父は宰相として自慢できる息子を持ち、母も茶会で魔法使いの息子の話をすれば注目を集めることが出来ただろう。
それに家庭教師も上級魔法を使える魔法使いを育てたという実績があれば、王家にも気に入られ、この先仕事にも苦労しないかったはずだ。
「あ、あの、ロバート様、大丈夫ですか?」
「ハンツ……」
ロバートのお付きの者としてイェネーブル王国から付いてきた同級生のハンツが、心配げな様子で声を掛けてきた。ハンツは一般生徒としての留学生であり、ロバートのお世話係でもある。
そんなロバートとハンツはラスター王国から与えられた屋敷に住んでいる。
王城へ魔法使いとして出向いているクロエ・フィーリスとそのお付きの女性ナイダも一緒だが、彼女たちとはほとんど顔を合わせることはないので苦痛もない。
それにこれほど大きな屋敷を用意されていたため、この国に歓迎されているとそう思っていた。
そのためこの場が監視の場になっていることに二人は気づかない。
だが認めたくは無くてもイェネーブル王国との住み心地の違いには気づいていた。
「いや、何でもない……クラスの者の魔法を今日初めて見てちょっと驚いただけだ」
「へえ、そうなんですか? もしかしてあまりにも出来なさ過ぎて驚いたんですか? ロバート様と同級生を比べたら可愛そうですよ。ロバート様は年が若くてもイェネーブル王国の天才と言われる魔法使いなんですから、大目に見てあげないと」
「……ああ、そうだな……」
正直本物の天才と言われるのはロバートではなく、あの女だろう。
フリージアという名の小柄な女子生徒こそが天才、ロバートはそう思う。
初級魔法でありながらあれほどの威力を発揮できる魔法力。
上級魔法を初級魔法程度にしか発動できないロバートとは雲泥の差だ。
同じ魔法使いとは呼ぶのも烏滸がましい。
それぐらいはプライドが高いロバートだって理解できた。
「ああ、そうだ! ロバート様、この国の国王の姪っ子はどんな感じでしたか?」
「……姪っ子?」
「はい、確かフリージア・ティエルノ伯爵令嬢ですかね? 最初に説明があったでしょう。失礼がないようにして下さいって、彼女は国王の姪っ子で魔法使いでもあるから仲良くするようにって」
「……いや……そうだったか……?」
留学が決まった際そんな説明を受けた気もするが、他国の魔法使い、それも卵であり、女性であるフリージアのことなど名前さえ憶えていなかった。
だが今は忘れることの出来ない名前となっている。
フリージア・ティエルノ。
綺麗な顔つきだが華奢で女性らしい部分は全く育っておらず、子供のような伯爵令嬢だと侮って見ていたが、王家の血を引くとなれば話が違う。
ロバートに笑顔が戻った瞬間だった。
「おはよう」
「フリージア様、おはようございます」
翌朝。
フリージアが教室へ着くと、アミティが教室で一人教科書を読んでいるところだった。
「アミティ、早いね」
「はい、なんだか落ち着かなくて……昨日のフリージア様の魔法を見たらまだまだ自分に足りないところがあるって分かって、いつもよりも早く学園に足が向いていました」
「そうなの? じゃあ一緒に勉強しようか」
「はい、是非」
フリージアの登校はいつも早めなので、朝の時間を有効活用しようとアミティと教科書を開き朝勉を始める。
アミティは幼いころから魔法使いに付けられるはずの家庭教師でさえつい最近まで付いていなかったため色々と遅れている部分がある。
けどそれでもやる気は人一倍あって、絶対に魔法使いとして独り立ちしようという心意気が見て取れる。頑張り屋のアミティはフリージアとしてもいい刺激を貰える学友だった。
「アミティ、今日私のお友達を紹介したいの、一緒にお昼をどうかな?」
「是非。あの、私、普通科にお友達も知り合いもいないので、とても嬉しいです」
「うん、良かったー」
アミティにエイブリーとカミラを会わせる約束をしていると、クラスメイトである男の子三人が楽しげに話をしながら教室に入ってきた。
「おはよう、フリージア、アミティ、朝から勉強かい?」
「ベルナルド、おはよう。そうなのアミティと一緒に勉強してたの、ねっ」
「はい、ベルナルド様、おはようございます。フリージア様に習っておりました」
「二人とも真面目だなー」
「せっかくだし私たちも混ぜてもらおうよ」
「ああ、そうだね」
皆で教科書を開き、ワイワイと勉強を始める。
フリージアとしてはこんな楽しい学園生活を期待していただけに、クラスメイト達の優しさには感謝しかない。
(エルドレッドと二人で勉強するのも楽しいけど、お友達とみんなで話し合って勉強するのも楽しいな~)
こうやって学園生活を楽しむことがフリージアの夢だった。
前の記憶の中には病室の記憶しかほとんど残っていないし、友達と楽しんだ記憶など何もなかった。
そして生まれ変わった当初は魔力塔の中に閉じ込められていて、身動きすることさえ辛い状態だった。
でもエルドレッドに助け出されフェリックスのお陰で優しい家族と幸せな生活がもらえて、毎日が一番楽しいと言える日々を過ごすことが出来て、フリージアは幸せを実感出来ていた。
「フリージア・ティエルノ!!」
間もなく担任のエルトールも来るだろうと、教科書を仕舞い近づけていた机を元に戻していると、ロバートが教室に入ったと同時に何故かフリージアの名を呼び視線を向けてきた。
もしかして魔法の授業でフリージアがロバートの心をへし折ったことへの仕返しに何かされるのかと身構えたけれど、ロバートはピンクの薔薇を一凛の花束にして持っていて、それを何故かフリージアへ向けてきた。
(薔薇の花の魔道具? 呪われちゃうとかあるのかな?)
ちょっとロバートの顔が怖くて「決闘の申込み?」と身構えてしまったけれど、フリージアが魔法で負ける気はしないし、何かあってももうすぐエルトールも来るからと心を落ち着かせる。
それにクラスメイト達もフリージアを守るように傍にいてくれて、アミティにいたっては盾にでもなるかのようにフリージアに抱き着いていた。
「フリージア・ティエルノ、お前は伯爵家の娘だが、国王の姪で間違いないな」
他国の国王を下に見るような言い方に驚きはしたが、ロバートらしい言動なのでそこは流す。
それよりクラスメイトにはまったく興味がなさそうなロバートがフリージアの名を呼び、その上爵位のことまで知っていることに驚きだ。
敵の名を調べたというところだろうか?
負けてたまるかと、フリージアの手に力が入る。
「そうですけど、それがどうかしましたか? 学園内での私闘は禁じられていますよ……」
「私闘? お前は何を言っている?」
貴方こそ何の用ですか? と問いかけようと思ったが、ロバートがフリージアの前で急に膝を着いたので言葉が出なかった。
「フリージア・ティエルノ、私はイェネーブル王国の宰相の息子で将来も安泰、その上魔法使いであり我が国内では既に注目を浴びている稀有な存在だ」
「はあ……?」
だから何? 自分自慢?
ここにいる全員がそう思っただろう。
だけどロバート一人だけがフリージアが納得したとそう思ったようだった。
「フリージア・ティエルノ、結婚しよう」
「は?」
「私とお前がイェネーブル王国とラスター王国を繋ぐ道標となろうじゃないか! 素晴らしい提案だろう! どうだ嬉しいか!」
「はい?」
ロバートの自慢だと思った言葉は、どうやらフリージアへのプロポーズの言葉だったようだ。
差し出された薔薇の花を見つめ、ゾッとするような寒気がしたフリージアだった。
今日もお読みいただきありがとうございます。
ロバートが膝ではなく肘をついていたら面白いのになぁとちょっと考えていました。




