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魔力塔の姫君  作者: 夢子
学園生活【一年生・前期】

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イェネーブル王国の本当の実力

 フリージアの初級魔法が的に当たり、クラスメイト達はその威力に茫然自失、自分たちの見たものが信じられない状態となっていた。


「的が壊れたから皆ちょっと待っていてくれ、すぐに交換する」


「あの、先生、すみません」


「ああ、まあ、想定内だ、気にするな」


 フリージアの実力を知る担任のエルトールだけは平常運転。

 動かず全く言葉を発しなくなった生徒たちに声を掛け、的の交換を魔法で行う。


 的は魔道具なので、近くにあるスイッチのようなものに魔力を流し、それを押せば自動的に交換される。

 たださっき壊れた的よりも新しい的は少しだけ大きい気がするが、何故だろうか。


 もしかして前の人が使った魔力によって的の大きさが変わるように設定されているのかもしれない。


 興味津々でそんなことを考えていると、一人の生徒が動き出す。

 それは当然自身の能力に自信満々だったロバートだった。

 

「不正だ! インチキだ! 誤魔化しだ! 初級魔法であんな威力が出るわけがない! 絶対に詐欺だ! この女はズルをしている! 私は騙されないぞ!」


 フリージアを指さし大騒ぎするロバート。

 その怒りは物凄いもので、絶対に認めないとそう言っている顔だ。


「ロバート、落ち着け、この場で不正など出来るわけがないだろう」


 魔法科で魔法の授業がある際、攻撃用の魔道具の持ち込みは基本出来ない。

 まだ未熟な魔法使いが魔法を使い魔道具に何かあった場合、大きな爆発や事故を起こす可能性があるため禁止されている。


 ただし防御の魔道具だけは別だ。

 そちらは一般生徒同様、どんな時も身に着けていいことになっている。


 だからだろう、怪しむ気持ちが膨れ上がったロバートはフリージアを睨みつけると勢いよく近づいて来て、先ほど魔法を発動させたフリージアの右手を掴もうとした。


「ロバート、やめろ、何をする気だ」


「こいつの、この女の不正を暴くだけですよ! 絶対に魔力増強の魔道具を持っている! 体に隠しているんだ! 袖の中だろう!」


 止めたエルトールの手を押しのけ、フリージアの腕を掴もうとするロバート。

 けれどその手は届くことはない。

 エルトールの防御魔法をロバートが通り抜けることが出来るはずがなかった。


「ロバート、落ち着けと言った。もう一度言うが攻撃魔法用の魔道具の持ち込みは出来ない。攻撃補助の魔道具を持っている者はこの部屋には入れないようになっている」


「じゃあ、なんで! あいつがあんな魔法が使えるんだ! ひょろひょろで小さい子供みたいな女のくせに! それもイェネーブル王国の者でもないんだぞ! 信じられるか!」


「それこそロバート、()()はお前の常識だろう? 何故イェネーブル王国出身の魔法使いでなければ強力な魔法が使えないと思うんだ? 有名な魔法使いの中にはイェネーブル王国出身じゃない者も多くいるぞ、違うか?」


「それは、そうですが……だが、こいつは女で、まだ子供で……」


「魔法使いに性別は関係ないだろう? それにフリージアは幼いころから良い家庭教師に付き魔法を真面目に勉強している、お前はどうなんだ?」


「それは……」


「イェネーブル王国では魔法使いは国の宝だと言って大事にされると聞いている、厳しい訓練をしてこなかったお前にフリージアを疑う謂れはないだろう」


「……」


 エルトールの言葉を聞き、ロバートはやっと静かになった。

 けれどその顔は全く納得出来ているものではなく、未だにフリージアを睨みつけ疑っているものだった。


(ちょっとやりすぎちゃったかな? でもあんな勢いが出るなんて思ってなかったし……)


 ロバートの言葉や行動が余りにも恥ずかしくて、不愉快すぎて、フリージアもついつい魔法に力が入ってしまった。


 けれどそのお陰でロバートのプライドは木っ端みじんに出来たようで、その上イェネーブル王国の魔法使いだけが素晴らしいという勘違いも、少しは解くことが出来たようだった。


「よし、では次、ベルナルド」


「えっ? あ、は、はい!」


 ベルナルドの名が呼ばれ、的に向かって得意な魔法を放つ。

 ベルナルドは風魔法が得意なようで、呪文を唱えるとつむじ風が起きて的に風が当たり的を叩いた。


 ロバートが出した上級魔法と変わらない衝撃を、ベルナルドも初級魔法で出すことが出来た。

 これで尚更ロバートへの牽制になっただろう。


 自分だけが凄い。


 ロバートは二度とそんな言葉は吐けないはずだ。

 フリージアは満足し心の中で頷いた。


「よし、次はルーカス」


「はい!」


 ルーカスの初級魔法もなかなかのもの、その次のオリバーも同じだ。

 アミティだけは少し威力が弱い魔法になってしまったけれど、それでも初級魔法ならば十分な効果。

 及第点は貰える魔法だろう。


 つまりロバートの上級魔法がいかに弱いものかが分かると言うことで、無言のままクラスの皆の実演を見続けるロバートの顔には、いつしか憎しみのような酷いものが浮かんでいた。





 放課後になり、ロバートは教室からさっさっと出て行ったけれど、フリージアたちは親睦も兼ねて学園近くの喫茶店へ向かった。


 各自の馬車は学園内で待機していてもらい、護衛だけが喫茶店には付いて来ている。

 魔法使いの子供が大勢いるのだから護衛は仕方がないが、厳重な警備の中での親睦会はなんだか不思議な感じがした。


「ロバート・ロックスって奴ヤバいよなー、イェネーブル王国の魔法使いってみーんなあんななのか? 俺信じられないんだけど」


 イェネーブル王国の魔法使いは有名な者も多くいる。

 あの国に憧れを持つように拡張している部分はあるとは思うけれど、歴史に残る賢者などはイェネーブル王国出身のものが多い。


 それは伝記になったり子供向けの絵本になっていたりしているため、オリバーはロバートの言動と魔法の性能にかなりショックを受けたようだった。


 それは仲のいいルーカスも同じで「結局物語は物語なんだよなぁ……」と悲しげな様子で呟いていた。


「それよりフリージアの魔法凄かったな! 僕はあんな魔法を見たことがないよ」


「俺も! フリージア、めっちゃ凄かったし、カッコ良かったぜ!」


「えへへ、二人とも有難う」


 ベルナルドとオリバーがフリージアを褒めてくれる。

 ルーカスとアミティも二人の言葉に頷いていて、フリージアの魔法は凄いと認めてくれた。


 エルドレッドに褒めてもらえることが一番嬉しいけれど、友達に褒めてもらえることもとても嬉しい。

 自分でも役に立てる、そんな気持ちになれるからだ。


「フリージアはどうやってそんなに魔力を上げたんだ? それに魔法も、凄い精度が良いよなー」


「家庭教師が優秀なのかな? いや、それだけじゃないよな……フリージア自身が物凄い訓練をしなきゃそんな魔法は使えないはずだ、かなり厳しい訓練でもしたのかい?」


「うん、えっとね、私魔法が好きで、小さいころから魔法の練習はかなりしてきたの……それと家庭教師の先生が教えるの上手で、凄い人なんだよ。私に色々と教えてくれたんだー」


「そうなのか、僕の家の家庭教師はかなり有名な先生なんだが、フリージアの家庭教師はそれ以上何だろうな」


「そんな先生の教育についていけるフリージアも凄いんだよ」


「そうそう、俺たち魔法の練習し始めたころは毎日バテバテだったもんなぁ」


「ありがとう、家庭教師の先生を褒めてもらえると嬉しいなー、えへへ」


 流石に魔力塔に閉じ込められていたことは話せないけれど、小さなころから魔力を使っていたことは本当だ。


 それにエルドレッドが凄いことも本当で、フリージアはエルドレッドのことを自慢できて嬉しかった。


「フィシィ」


「えっ? エルドレッド、なんでここに?」


 クラスメイトの家庭教師の話を聞いていると、エルドレッドが現れ声を掛けられた。

 エルドレッドが一人で喫茶店に来るとは考えづらく、どう考えてもフリージアを迎えに来てくれたとしか思えない。


 席から立ち上がりエルドレッドに抱き着けば、エルドレッドは当たり前のようにフリージアを抱き上げた。


「エルドレッド、お迎えに来てくれたの?」


「うん、遅いから気になってね。でも邪魔をしちゃったかな、お友達と楽しんでいたみたいだし、フィシィも楽しんでたでしょう? みんなもごめんね、邪魔をしちゃったみたいだね」


 エルドレッドが微笑み皆に声を掛ければ、クラスメイト達の頬が赤くなる。

 エルドレッドの見た目はとても綺麗だから当然で、フリージアは自分が褒められるよりも嬉しさを感じた。


「あのね、みんなエルドレッドが……じゃない、えっと、この方が私の家庭教師の先生なの」


「「「えっ……?」」」


 皆のエルドレッドへ向ける視線がもっと熱いものに変わる。


 フリージアの家庭教師、きっと凄い魔法使いに違いない。


 そう言っているのがその瞳だけで分かり、フリージアはますます嬉しくなった。


「みんな、悪いけれどフリージアは返してもらうね、そろそろ家に帰らないといけない時間だから」


「うん、ごめんね、みんな、私は先に帰るね。また明日、学校でね」


 無言のまま頷くクラスメイト達を見て、エルドレッドはフリージアを抱えたまま歩き出す。

 フリージアはエルドレッドに抱き着いたまま、クラスメイト達に手を振った。


 普通の貴族令嬢として家庭教師との距離感は可笑しいものだが、抱き着いているフリージアにとってそれはいつも通りのことであり、エルドレッドの甘い視線もいつも通りのことだった。


 けれど思春期のクラスメイト達にとっては目に毒、イチャイチャしているようにしか見えない二人の姿に頬を染め、驚きしかなかった。


「……フリージアって、色々とスゲーよなー」


 そう言ったオリバーの言葉に、その場にいる全員が頷いたのだった。


こんにちは、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。


フリージアとエルドレッドは一緒にいるのが当たり前すぎて周りにどう見えているのか分かっていません。

イチャイチャしているつもりはありませんが、フリージアも成長してきたので恋人同士のように見えています。

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