フリージアの実力
「えー、今日の授業は魔法の基礎練習を行う」
「「「はい」」」
学園内にある魔法使い用の講堂へ向かった一年魔法科の生徒は、フリージアを含め担任であるエルトール・ミラーの言葉を聞き頷いた。
エルドレッドから学んだ最初の魔法学も、魔法の基礎だった。
フリージアはずっと魔力を吸い続けられていたことで、莫大な魔力量を抱えていたから尚更だ。
体を巡る自分の魔力の流れを掴むことが出来なければ、魔法を正確に使うことは出来ない。
それぞれ得意な魔法の属性はあるけれど、基礎を怠れば魔力の無駄遣いになる。
基礎練習を怠れば魔法の使用回数だけではなく、威力も精度も違ってくるだろう。
「は? この歳になって基礎ですって? 僕は上級魔法も使えるんですよ? あり得ない!」
上級魔法が使えようが使えなかろうが、基礎練習はどんなに魔法使いとして成長したとしても必要なこと。
あのエルドレッドだって毎日の朝練の際、魔力の流れを確認するために欠かさず行っていることなのに、魔法国家イェネーブル王国から来た留学生であるロバート・ロックスは理解できない出来ないようで、エルトールへ冷めた視線を送った。
「上級魔法が使えようが何だろうが、魔法使いとして基礎を疎かにするものはこの国にはいない。ロバート、君は何のために留学に来たんだ? 他国の魔法教育を学びに来たんじゃないのか?」
「ええ、今回の留学は当然魔法使いとして成長するためのものですよ。ですが僕はわざわざ基礎を習いにこの国に来たわけではない、小さな子供の練習に大人が付き合うようなものです」
「はー、そうか。ならば今日は見学していればいい、授業の邪魔だからな」
「はっ? 邪魔なのは基礎も出来ないそちらの子供たちでしょう? まったく、僕の足を引っ張って授業を遅らせるのなら、早く僕レベルに成長して欲しいものですね」
出来るかどうかわかりませんが……と続けながら、クラスの同級生を馬鹿にしたように見るロバート。
誰かが使った魔法を見たわけでもないのに、もう自分がクラス一の魔法使いだとそう思っているようだ。
「よし、皆、普段通り、家で習っている通りの基礎練習をまずは私に見せてくれ」
エルトールはそう言うと魔力の流れが見える魔道具の眼鏡を掛けた。
皆は「はい」と先生へ返事を返すと、各々なれた様子で魔力の流れを確認する。
ロバートの言葉を気にする者はもういない。
彼の態度が横柄であることは、初日で十分に分かった。
なのでいちいちロバートを気にしていたらこちらが損をするだけ、気分が沈むだけだった。
「うん、フリージアはその魔力量を上手にコントロール出来ているな。流石としか言いようがない、完璧だ」
「ありがとうございます」
お腹に手を置き、体の中を巡る魔力を循環させたフリージアを見て先生が苦笑いを浮かべる。
担任教諭ということでエルトールはフリージアの魔力がどれ程のものかを知っている。
試験の時、フリージアの魔法を見たのもエルトールなので、フリージアの魔法の凄さも規格外さも分かっていた。
「ベルナルドも良いぞ、ただ少しだけ利き腕側の魔力の流れが強いな。まあ、だが魔法剣士を目指すのならそれでも十分だ。ただ普段は意識して平等に両腕に魔力が流れるように気を付けなさい」
「はい、先生、有難うございます」
侯爵家の子息ベルナルドは付いている家庭教師が良いのだろう、一年生ながら十分な魔力循環が出来ているようだった。
「ルーカスとオリバーは魔力循環が似ているな……」
「先生、僕たち家庭教師の先生が一緒なんです」
「先生、どっちが上手いですか」
双子のように仲のいいルーカスとオリバーは魔力の流れも不思議と似ているらしく、珍しいことなのかエルトールも苦笑いだ。
「どっちもまだまだ雑だな……揺れが大きい。まあ、一年生にしては中々のものだがな」
「えー、クソ、まだまだか」
「絶対私の方が上手いと思ったのに」
仲のいい二人の様子に笑いながら、エルトールは次にアミティの傍へ向かった。
「アミティは循環は出来ているが魔力がまだ弱いな。だが安心していい、これからもっと上達できる。最初にしては十分だから気にしなくてもいいぞ」
「は、はい、頑張ります」
実家で魔法使いとしての教育を受けてこなかったアミティは、今年の一年生の中では一歩遅れている。
けれどそれは追いつけないものではなく、保護されてからの努力の成果だと思えばアミティの勤勉さが分かるものだった。
「よし、基礎はここまでだ。次は今の魔力循環をきちんと把握し、初級の魔法を使ってもらう」
「「「はい」」」
訓練場にある的の方へ皆で移動する。
ロバートは歩く皆の後ろを溜息を吐きながらついて来て、「なんで自分がこんな練習に付き合わなければならないのか……」という気持ちが顔に出ている。
「では、順番に行こうか、まずアミティーー」
「先生!」
エルトールがアミティを指名し、アミティが一歩前へ歩みだしたところでロバートが手を上げ、アミティよりも前に歩み出した。
「ロバート、なんだ? 見学は止めたのか?」
「ええ、先生、折角なので私が皆にお手本を見せようと思いましてね」
「お手本? お前がか?」
「ええ」
エルトール的には基礎を疎かにするお前が皆の見本になれるのか? と問いかけたのだろうが、自分は素晴らしいと自負があるロバートは、お前ほどの魔法使いがこの場で魔法を披露するのか? とそう言われていると勝手に勘違いしたらしく、にやけ顔だ。
「フフッ、先生、本当の魔法というものがどういうものか、魔法国家出身の私がここにいる生徒たちの為に披露してあげようと思いましてねぇ」
ロバートがチラリとフリージアたち同級生に視線を送る。
その目には馬鹿にしたものが出ていて、口元も嫌な感じで歪んでいた。
「……そうか、ではロバート、自慢の魔法を使ってもらおうか、本当の実力というものが分かるだろう」
「ええ、お任せください。本物の魔法使いというものをこの子たちに教えてあげますよ」
的へ向け手を差し出したロバートは「【業火】」と唱え、上級魔法を発動する。
けれどその威力はとても弱く、炎自体もムラがありとても強力な魔法には見えない。
フリージアはハッキリ言って(しょぼいなぁ)と思ったが、エルドレッドからロバートの実力を聞いていただけに、その程度のものだろうと驚きはしなかった。
だけど皆は違う。
上級魔法を唱えながらも初級並みの魔法しか発動できないロバートに、驚きすぎてポカンとしている。
あれだけの大口を叩いてこの程度?
魔法の勉強が浅いアミティでさえ驚きを隠せないようだった。
「フッ、言葉も出ないか、これがイェネーブル王国出身者の実力なのだよ」
ドヤ顔を浮かべロバートが皆の方へ視線を向けた。
皆の驚き顔を良い方へ受け止めたらしい。
そこはやはりプライドが高いロバートらしいし思考だった。
「先生! 次は私の魔法を見て下さいますか?」
「……フリージアか……まあ、良いだろう。気を付けて魔法を使えよ」
「はい、気を付けますね」
フリージアの実力を知るエルトール的には講堂を壊さないように気を付けろとの言葉だったのだが、ロバートはそう受け止めず、見るからにか弱そうなフリージアを見て気の毒そうに笑う。
「何かあっても私が守りますから、先生安心して下さい」
などとか細いフリージアの背中を見て失礼なことを言ってる。
どうやらフリージアのことを見た目で判断し、魔法を使うことが下手な女の子だとそう思い込んだらしい。
(本当に失礼な男の子だよね!)
「【燃えろ】」
フリージアは手を的へ向け、極々初歩の火魔法を繰り出した。
魔力量の上限が見えないフリージアが最上級の火魔法を使えば、講堂どころか学校自体が燃えてしまう。
そんなことは絶対に出来ないため初歩の魔法を使ったのだが、フリージアが心の中でロバートに対し怒っていたからかその威力は物凄いもので、手の平から出た炎は青い光を放ち、ゴオオッと大きな音を立てて的にぶち当たった。
「……フリージア、的を壊すなと言っただろう……」
「えっと、先生すみません……まさか初級魔法の第一段階であんなに勢いがつくとは思っていなくて……」
フリージアの魔法が当たった的は真っ黒に焦げボロボロだ。
火魔法はあまり使うことが無いため、フリージアも自分の実力がどれ程のもの分かっていなかった。
どうやら成長と共に魔法の威力もかなり上がっているようで、以前使った火魔法よりも威力が強い。
最近は魔道具造りが楽しくて、そちらにばかり力をいれていたので忘れていた。
人は成長する。
それはフリージアも同じだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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昨夜ウチの天才猫のコピペとタイピングの被害にあいました。
数字の入力はお尻で、コピペは歩きながらの作業の様です。
ちょっとお茶を……と思ったそれが甘かった。
しごでき猫をなめてはいけません。
★私の夫君も読んでいただけたら嬉しいです。




