イェネーブル王国からの留学生
「ロバート・ロックス、勘違いをするな。留学生ではあるがお前はこのクラスの一生徒でしかない。ここにいる者たちに魔法を教えるのは教師である俺の役目だ、いいな」
「……」
上から目線過ぎるロバートの言葉にクラスメイト達が驚き拍手も送らないでいると、担任であるエルトールがピシリと叱る。
けれどロバートにはまったく響いた様子は無く、肩をすくめエルトールのことも馬鹿にした様子だ。
魔法国家出身というその自信が、ロバートを尊大にさせているらしい。
今はもうあの国は魔法国家などとは呼べなくなっていて、フリージアの魔法のせいでイェネーブル王国の衰退は始まっていると思うのだけど、まだ子供であるロバートにはその現実が見えていないようだった。
「では、授業を始める、ロバート、空いている席に着け」
「はいはい」
小馬鹿にしたような口ぶりでエルトールに返事を返し、ロバートは空いている一番後ろの席に着いた。
育ちは良いのかロバートは言われた通りちゃんと席に着いてはいるが、にやけたその顔を見ればこの国の魔法使い自体を馬鹿にしていることが分かる。
エルドレッドには出来るだけ彼には近づかないようにと言われているけれど、フリージアは楽しみにしていた学園生活を台無しにされたような気分になり、少しだけムッとしていた。
(他の子たちはみんないい子なのに、あの子のせいでクラス中の空気が悪くなった気がする)
フリージアの気持ちは他のクラスメイトたちも同じだったようで、さっきまで楽しそうだった友人たちは無表情になり先生だけを見つめている。
絶対にロバートとは視線を合わせたくはない、関わりたくない。
皆そう思っているようだった。
「さて、今日は学園内を案内する。魔法科の君たちだが一般の生徒が通う部活にも入れるし、自身で研究室を持つことも、先輩の研究室で共同研究を行うことも、そしてどの研究室にも所属せず自宅で研究することも自由になっている。ただし自宅での研究は自己責任だ。そして寮生は寮内での研究は禁止になっているので、そのことをきちんと把握しておくように」
エルトールの説明を聞きロバート以外が「はい」と答える。
そんな中、ロバートだけが手を上げ聞いてもいないのに「私は自宅で研究しますので大丈夫です」とエルトールにすぐに答えていた。
「では外へ向かうぞ」
廊下に出てエルトールの後に続いて行く。
渋々だがロバートも付いて来て、クラスメイト達の一番後ろを興味なさげな様子で歩く。
この教室は……とエルトールが説明している間も、ロバートは話を全く聞く気もない様子で視線をあちらこちらに揺らし集中していない。
(なんだかこの子と同じ国出身だと思うと恥ずかしいな……)
ロバートはフリージアには全く関係のない相手のはずだけれど、それでもイェネーブル王国から来た生徒だと思うと、あの国の王女だったフリージアとしては自分が恥ずかしい行動をしているようで申し訳ない気持ちになる。
でもきっとフリージアが今この場でロバートを注意したところで彼は言うことを聞かないだろうし、ますますクラス内が険悪な雰囲気になるはずだ。
担任であるエルトールが興味のない者には指導しないと貫いている以上、フリージアが何か言うのも違う気がした。
「エルドレッド~~~!」
「フィシィ、お帰り、どうしたの? 疲れちゃった?」
「ううん」
一年生は午前の授業のみだったため、フリージアは自宅へ戻ってすぐエルドレッドに抱き着いた。
イェネーブル王国出身のロバートの態度が余りにも悪く、今日の授業はエルトールが可哀そうになるほど酷いものだった。
それにクラスメイト達もロバートの尊大な態度にピリピリとしていて、帰りも皆無言のまま教室を出て行ってしまい、挨拶も満足に出来なかった。
朝せっかく仲の良いクラスになれるようにと皆で自己紹介をし合ったのに、ロバートのせいでめちゃくちゃだ。
悲しいような寂しいような、それでいて怒りたいような、色んな感情があふれ出たフリージアは、上手く自分の気持ちを言葉にも出来ず、エルドレッドに抱き着くしかなかった。
「フィシィ、もしかしてイェネーブル王国の留学生に何かされた?」
フリージアを抱きしめるエルドレッドの腕に力が入る。
それだけでエルドレッドの心配が伝わりフリージアは顔を上げた。
「ううん、何にもされてないよ……でもね、なんだかちょっと恥ずかしかったの、あんまりにも酷い態度だったから……まるで私が同じことしてるような気持ちになっちゃって……」
「ああ、それは仕方がないよ、あの国出身の魔法使いだからね……自分が偉いと勘違いしている馬鹿ばかりだから、そんなもんだよ」
「そうなの?」
ロバートの態度にフリージアは驚いたけれど、エルドレッドは最初からどうなるのか分かっていたような口ぶりだった。
「担任も相手にしていなかったでしょう? イェネーブル王国の魔法使いの尊大さは有名だからねぇ」
「そうなんだ、だから先生も相手にしていなかったのか……」
エルトールがロバートを注意したのは一度だけ。
それ以降はいない者として扱っているようにも見えた。
きっとエルトールもイェネーブル王国の魔法使いのことをよく知っているからだろう。
相手にするだけ無駄。
ロバートを気にしていない様子は、そう言っているような気がした。
「まあ、その少年がいつまでその態度でいられるか見ものだねぇ。イェネーブル王国が魔法大国だなんて言われていたのはもう昔のことだ。あの国は自国に他国からの留学生を呼んでいただけで、彼らは他の国の本物の魔法使いをほとんど知らない。あの国に実力がある魔法使いを送る国なんて今は無いからねぇ」
「そうなの?」
「ああ、どう洗脳されどんな教育をされるか分からないからね、今は留学生を送ることなんてしていない国もいるし、この国だってイェネーブル王国を探るために送り込んでいるにすぎないからねー」
「そうなんだー」
エルドレッドの説明を聞き、なんだか少しだけ心が軽くなる。
これでロバートが本当にクラス一の実力者だった場合、あの態度はもっと大きなものになるだろう。
けれど彼はイェネーブル王国内でだけ自慢できる程度の魔法使い、それもまだ卵。
生まれた瞬間から魔法使いだと大事にされ、怪我をしない程度の魔法の勉強しかしてこなかっただろうロバート。
それどころか魔力量だって成長させる努力も何もしていない可能性はある。
何故なら彼は宰相という父を持つ侯爵家の息子。
無理な努力などしてこなかったことは容易く想像がついた。
「現実を知ったその少年がどうなるか今から楽しみだなぁ~」
人の悪そうな顔でエルドレッドがニヤリと笑う。
そんな顔もカッコいいのだからエルドレッドは凄いと思う。
フリージアはエルドレッドよりも綺麗な男性など見たことも無い。
身内びいきかもしれないけれど、それは本心だった。
「あの子、暴れたりしないかな?」
「フフフ、プライドもあるし、今日は調子が悪いとか言い訳はしそうだねー」
「あー、そうだね、言いそうかも」
「でしょう?」
ロバートの性格的に、自分が出来ないとか人より弱いとか、絶対に認めることはないだろう。
それよりも相手の不正を疑う気がしてフリージアは苦笑いになった。
「まあ、フリージアよりも出来る魔法使いなんていないから、その子のプライドはぽっきり折れるだろうし立ち直れないかもねー」
「ぽっきり?」
「そう、その子が学年一魔法が出来ない落ちこぼれになるのももう少しだよ。国に帰りたいって泣き言を言ってくれると、こっちとしては助かるんだけどねー」
「そうか……あの子に帰ってもらうことも出来るんだ……」
もしラスター王国での生活になれることが出来なかったら、ロバートにはイェネーブル王国という帰る場所がある。
そう考えると王様扱いされる自国に戻った方が、ロバートにとっても良いことなのかもしれない。
「私、頑張っちゃおうかな」
憂鬱だった気持ちはエルドレッドのお陰ですっかり消えさり、フリージアは今やる気に満ちていた。
クラスメイトの為にもロバートには国に帰ってもらおう。
そう考えるとフリージアがやることは一つだけ。
ロバートに大きな差をつけて、よりよい成績を取る。それだけだ。
「あの子にだけは負けない!」
目標が出来たフリージアは元気を取り戻したのだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
忙しく朝投稿できませんでした。
遅くなり申し訳ありません、楽しんでいただけたら嬉しいです。
今日は寒かったです。
真夏みたいな気温から昨日今日と春先のような気温。
皆さま隊長に……いいえ体調にはお気を付けくださいませ。




