入学式
フリージアは十五歳になり、遂に学園入学の日を迎えた。
真新しい制服に身を包むと、ちょっとだけ大人になった気分になる。
同年代の女の子たちよりもフリージアの体はやっぱり少し小さいし、線も細いけれど、それでも女性らしい体つきに少しずつ近づいて、エルドレッドの隣に並んでもそこまで可笑しくなくなった気がする。
この国へ来たばかりのころを考えれば、贅沢なほどフリージアは成長している。
だからもう少し背が欲しいとか、胸の成長ももっと欲しいとかそんな欲は飲み込み、フリージアは鏡の中の自分を見て満足げに頷いた。
「フィシィ、制服凄く似合っているね、大人っぽく見えるよ」
「本当に? だったら嬉しいな。エルドレッドと並んで歩いても可笑しいと思われないもんねー」
これまで小さなフリージアは、エルドレッドに抱っこされ歩くことも多かった。
それは体力があまりないという理由もあったけれど、歩幅が合わなくて遅いからという理由もあった。
だから並べることが凄く嬉しい。
一緒に歩けることはもっと嬉しい。
きっと妹とか姪っ子とか見た目で勘違いされることはあるだろうけれど、流石に今の容姿ならばエルドレッドの娘とは思われないはず。
ここまで成長出来たことで一番嬉しいことと言えば、他人から見れば当たり前だと思えることだった。
「さあ、そろそろ時間だね。フィシィ、学園生活楽しんでね」
「うん、エルドレッドも入学式には来てくれるんでしょう? 一緒に帰れるの特別な感じがしてちょっと楽しみなんだー、ウフフ」
「そうだね、フィシィ、僕も凄く楽しみだよ」
今日は入学式ということで、新入生の家族は式を見ることが出来る。
エルドレッドはフリージアの家庭教師だけど、ずっと一緒に暮らしているため家族も同然。
というかフェリックスの甥っ子に当たるので、フリージアの母親アラベラとは血縁関係にある。
なので会場内にいても不自然さはないのだが、それでも周りの生徒たちがどれ程身内を連れてくるのか分からないフリージアとしては、エルドレッドが無理をしていないかちょっとだけ心配でもあったので、楽しみだと言われホッとしていた。
「ビクターさん、ローリーさん、今日から宜しくね」
「はい、勿論です」
「お嬢様の安全は我々がお守りします」
馬車に乗ったフリージアと並走するように、護衛の二人は乗馬で学園まで向かう。
馬車の中にはエイダが一緒に乗り込んでくれていて、これからの通学をヘレナと共に見守ってくれることになっている。
今年三学年になる次兄のジェイソンは、入学式の為学園がお休みだ。
ジェイソンは剣術部に入っているため、朝練があるのでフリージアとは学園登校時間もズレてしまう。
当然帰宅時間も違うため、「部活やめるべきかな……」とそんなことを呟いていたのだと、フリージアよりも一学年上で、従兄弟関係である第一王子ザレックスが笑いながら教えてくれた。
「たまにはジェイ兄様と学園で一緒にお昼を食べられたらいいなぁ」
そう言ってジェイソンに甘えたら、部活を辞めるなど不穏なことを言わなくなってホッとした。
フリージアのせいでジェイソンが部活を辞めるなど冗談でも笑えなかった。
「「フリージア様、おはようございます」」
「エイブリー様、カミラ様、おはようございます」
学園に着くと、すぐに友人であるエイブリーとカミラに会うことが出来た。
魔法科に入学が決まっているフリージアとは違い、二人は普通科入学のため、先に学園に着いて自分のクラスを確認した後、玄関口でフリージアを待っていてくれたようだ。
「フリージア様、私たち同じクラスになれましたの」
「普通科は三クラスありますから奇跡に近いですわ」
喜びをフリージアに教えてくれる二人にフリージアも笑顔を向ける。
「ええ、凄いね、良かった。これでずっと一緒に過ごせるね」
「はい、これで学園生活が楽しみになりましたわ」
「私もやっと安心できましたー」
「ウフフ、うん、良かったねー」
魔法科とは違い、普通科は生徒数が多い。
その中で友人がおらず教室内に一人ぼっちとなると、寂し過ぎてフリージアだって不安になる気持ちが分かる。
貴族令嬢な二人ならきっと上手くクラスに馴染めるとは思うが、それと親しい相手がいるのでは違う。
何でも話せる友人がいることにホッとしている二人と共に、フリージアも喜んだ。
「それと、ここだけの話ですが、セレニティ様とは違うクラスになれましたの」
「申し訳ないですけど、正直ホッとしていますわ」
「うん……そうだよね……」
フリージア主催の初めてのお茶会で、途中で席を立ち帰ってしまったセレニティ・エリオット。
彼女とはそれから話をしていないし、他の令嬢の茶会で顔を合わせることも無かった。
きっとフリージアとのいざこざが噂となって回っているため、周りが気を使ったのだろう。
いい意味で受け取れば、同じような誤解はもう起きないともいえる。
けれど恋愛対象としてザレックスを見ていないフリージアとしては、セレニティとはもう一度ちゃんと話をしてみたいという気持ちが確かにあった。
でもこれだけあの茶会での出来事を周りが知っているとなると、セレニティに近付くのも難しいし、話をすれば注目を浴びるだろうし、二人きりで話をするなんて絶対に無理な気がした。
「フリージア、おめでとう」
「えっ? ザレックス? なんで? 在校生はお休みじゃないの?」
ジェイソンが家にいたためザレックスも当然お休みだと思っていたフリージアは驚く。
そんなフリージアの顔を見て、ザレックスは悪戯が成功した子供のように楽しげに笑った。
「アハハ、ビックリした? 実は生徒会のメンバーは入学式に出席なんだ。叔父上に内緒にしてって頼んだんだけど、本当にフリージアに内緒にしてくれたみたいだね」
「うん、ビックリしたよー」
クスクス笑うザレックスに周りの生徒たちからの視線が集まる。
学園内とはいえ第一王子の出現にまだ慣れていない新入生は驚きしかない。
その上フリージアに気軽に話しかけ楽し気に笑っているのだ、驚かれるのも当然だった。
「彼女たちはフリージアのお友達かな?」
「うん、エイブリー様とカミラ様だよ、前に話したでしょう?」
「ああ、フリージアと仲良くしてくれている子たちだね。学園でもフリージアのことを宜しくね、この子ちょっとぼんやりしているところがあるからさ、気を付けて上げて」
「もう、ザレックス、酷い」
「アハハハ、本当のことだろう」
楽し気に笑うザレックスの前、エイブリーとカミラは緊張気味に頭を下げた。
フリージアと仲のいい彼女たちでさえ、王族であるザレックスには緊張するらしい。
見るからに王子様らしい容姿だからそれも仕方がないのかもしれない。
「じゃあ、僕は行くね、また入学後に一緒にランチでもしよう」
「うん、ザレックス、じゃない、ザレックス先輩、よろしくお願いします」
「ああ、またね」
笑顔で手を振り去っていくザレックス。
きっとフリージアの初登校を気にして声を掛けてくれたのだろう。
魔法使いであるフリージアのクラスには生徒は五人しかいない。
だから友人が出来るようにと、王子と親しいと印象付けてくれたのかもしれない。
もちろん魔法使いを狙う者たちへの牽制の意味もあるだろうけれど。
「ザレックスも優しいなぁー」
周りの皆に恵まれていることを最近実感してばかりのフリージアは思わずそんな言葉を呟いた。
すると一緒にいるエイブリーとカミラもうんうんと頷いている。
「学年が違う私たちにもお声がけいただけるだなんて、夢のようですわ……」
「本当に……私なんて子爵令嬢でしかありませんのに……未来の国王陛下とお言葉を交わすことが出来るだなんて、信じられません」
どこか夢心地な様子の二人にフリージアは疑問が沸く。
まるでザレックスとの会話は今日が最初で最後のような口ぶりだ。
目の前で食事に誘われたのに……何故?
「ねえ、二人とも、さっきザレックスがランチに誘った中に二人も入ってると思うよ」
「「えっ?」」
「「ええっ?!」」
驚く二人の前フリージアは本当だと頷く。
あの流れでザレックスがフリージアだけを誘ったとは思えない。
固まってしまった二人を見ながら「学園での楽しみが増えたね」と笑いかけた。
「新入生の皆さんはこちらにお集まり下さい、クラスごとに並んでいただきます」
講堂前から先生だと思われる女性の声が聞こえてきた。
フリージアは茫然自失となっている二人の手を引き歩き出す。
「エイブリー様、カミラ様、学園生活一緒に楽しもうね」
前世では味わうことが出来なかった学園生活。
フリージアは今、その大事な一歩を歩みだしたのだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただき有難うございます。
ザレックスは揶揄うことが好きです。
特にフリージアは何でも素直に信じるので揶揄いがいがあるようです。




