断れない案件
学園入学を控えたフリージアに付いて王都へ戻って来たエルドレッドは、到着その日の内に国王フェリックスに呼び出され、フリージアが寝付いたことを確認すると渋々ながら王城へ向かった。
「あのさー、到着その日の呼び出しとかあり得ないんだけど……」
窓から侵入したエルドレッドは早速フェリックスに向け嫌みをぶつける。
移動の疲れとか考慮する気持ちはないの? と顔に出してみる。
慣れないタウンハウスでフリージアが心細い思いをしないようにと、今日はずっと一緒にいるつもりだった。
それなのに着いて早々フェリックスから連絡があり、時間が空いたら王城へ来て欲しいというのだ。
心優しくフェリックスを心配するフリージアが「すぐに行った方が良い」と言うのをどうにか抑え、その上「移動で疲れたから」と言って、いつもより一時間も早くベッドに入ったフリージアを見届けてから来たのだ、嫌みをいくら言っても不機嫌さはなおらない気がした。
「まあ、そう言うな、大事な話があったんだ」
「そんなのフィシィが作ってくれた伝達の魔道具を使えば良かったじゃないか……」
「伝話魔道具では話せないほどのことなんだ」
「……」
ムッとした顔で窓へ視線を送り、フェリックスと目を合わせないエルドレッドは子供のようだ。
フリージアのことに関してはどこまでも執拗な執着心を露にする。
その反対に他のことはどうでもいいのか、物や金にもエルドレッドはあまり執着しない。
フェリックスが何度も爵位をと言っても断り続けたエルドレッドが、フリージアの為という一言であっさり爵位を受けたことがそのことを物語っている。
その上フリージアに何かあってはいけないと離れることも嫌がり、そしてティエルノ伯爵家の騎士を進んで鍛えているのだから、人は変われば変わるものだとフェリックスは思う。
人間らしさをフリージアのお陰で取り戻したエルドレッドに、フェリックスは出来れば話したくない話を、仕方がなく伝えることにした。
「実はイェネーブル王国から連絡が来てな……」
「はあ? イェネーブル王国から?」
「ああ、そうだ、新国王が立ったらしい」
「新国王……?」
「ああ、フリージアの兄……第一王子のほうだ」
「うわぁ……あの糞王子か……」
やっぱり始末しておくべきだったと、そう言っているような顔をエルドレッドは浮かべた。
詳しい事の経緯は分からないが、第一王子の残虐さは前イェネーブル王国の国王以上だと聞いている。
そんな人物が王位に就けばイェネーブル国内が荒れるのは当然。
周りの諸国も迷惑をこうむる可能性は高いだろうし、魔力が減っていくしかないイェネーブル王国が今後何をしてくるか、尚更危険度が上がったとも言える。
「イェネーブル王国が新王戴冠の祝いに各国へ魔法使いを少額で派遣すると言っているが、エルドレッドどう思う?」
「派遣? どうせ他の国の魔法使いの情報を掴むためだろう? 誘拐する相手を決めるための良い言い訳だ」
「だろうな……」
魔法塔の状況を知っているだけに、魔法使いの派遣など怪しさしかない。
自国の魔法使いの力が弱まっている理由や、魔力塔が使えない状況に陥っている今、他国から盗んでしまえばいいと、あの国の王族なら思いつきそうだと容易く分かる。
「それで、この国はどうすんの? まさか話を受け入れたりはしないよね?」
「いや、こればかりは監視を付けて受け入れるしかない、イェネーブル王国からの魔法使いの派遣を断る方が不自然だと、お前だって分かるだろう?」
「……」
イェネーブル王国の魔法使いの質が落ちていることは、あの国に忍び込み詳しく調べたから分かること。
つまり魔法国家出身の魔法使いの派遣を断ること自体、怪しいことなのだ。
古き魔法を知る魔法使いを自国へ招くことが出来る。
他の国々はもろ手を挙げ喜んでいるはずだった。
「それと、学生も一人留学させたいと言っている」
「学生? 学生ってまさか……」
「ああ、フリージアと同じ年の子供だ。世界を知るための留学だと言っているが、その子も魔法使いだと考えると怪しさしかないな」
「最悪だ」
フリージアが未だ生きているとは新国王だって信じていない、きっと半信半疑だろう。
だがもしもの可能性と、各国の魔法使いの卵に目を付け手にしようと企んでいる可能性は高い。
そうなればフリージアが目を引く可能性はますます高くなるだろうし、変なアプローチをかけられる可能性も上がるだろう。
「そっちは断れないの?」
「一応一度は断った。我が国では貴国の魔法使いに対し十分な教育は与えられないとそう言ったのだが……留学後はイェネーブル王国の学園に通い直すためその心配はいらないと言われた」
「はあ、だろうね。他国へ行った経歴があればきっとあっちでは自慢できるんだろうな」
「そうだろうな、前の国王では魔法使いが他国へ留学などあり得なかった。初代の留学生だと言えば十分自慢できる。虚栄心が強いあの国の者なら子供でも喜びそうだ」
「はぁー、フィシィの入学を止めたくなったよ……」
けれど学校に通うことをあれだけ楽しみにしているフリージアを止める気はエルドレッドにはない。
フリージアなら「気にしないで」と言って我慢をするだろうが、そんなことになるのなら問題を排除する方がよっぽど良い。
もしその留学生がフリージアに対し嫌なことをしようものなら、エルドレッドは不自然ではない方法で確実にその子供を消し去るだろう。
いやこの国に着く前に、旅の途中の事故として始末した方が簡単かもしれない。
無表情で不穏なことを考え出したエルドレッドに気が付いたかのように、フェリックスは溜息を吐く。
「エルドレッド、勝手なことはするなよ」
「別に、俺は自分の思う通りに動くだけさ」
「フリージアを悲しませるようなことをするなと言ってる、その前に必ず私に相談をしろ、いいな」
「……はい、はい、分かったよ……」
全く分かっていなさそうな顔でエルドレッドは了承した言葉を吐く。
きっとフェリックスがどれだけ止めてもフリージアに何かあればエルドレッドは動くだろう。
困った奴だと思いながらも、誰かを想うことが出来ているエルドレッドの姿に嬉しくなる。
ただ過激すぎるところが少しばかり心配だが、それも仕方がないのかもしれない。
成長したフリージアは十五歳。
同年代の子供よりも多少成長は遅いかもしれないが、それでも彼女が持つ美しさはティエルノ家での安定した生活のお陰で花開いている。
金色の艶やかな髪はそれだけで十分に魅力的であるし、紫色の瞳は希少で多くの者を惹きつけるだろう。
それに彼女は折れそうなほどか細く、庇護欲をそそる容姿だ。
何より魔法使いであることが貴重な存在。
今だってすべて断ってはいるが、婚姻の申込は後を絶たないらしい。
そのことを知っているだけに、エルドレッドの心配が尽きないことは分っていた。
(そこで自分の物にしたいとか言い出さないところがエルドレッドらしいな……)
エルドレッドの想いは誰にだって分かるものだが、エルドレッドはフリージアを縛ろうとはしない。
フリージアを自由に過ごさせて上げたい。
その想いの強さが分かる。
「学園に入学予定の少年は、あの国の宰相の息子だそうだ」
「宰相……? ああ、あのイエスマンか……」
前国王の前で「はい」と承諾の言葉しか吐かなかった宰相の顔を思い出す。
あんなにも頼りない男でも、そこはイェネーブルの男だ。
妻を数名娶り、魔法使いの子供を作ったらしい。
腹黒い部分に頷くしかない。
そうでなければあの国で宰相など出来るはずがないだろう。
「話は分かった、じゃあ、もう俺は帰るよ」
「……エルドレッド、フリージアには話すのか?」
イェネーブル王国からの魔法使いの情報を持ったエルドレッドが立ち上がる。
話が終わればもうこの場にはいる必要がないと言っているようだが、フェリックスは問いかけた。
「うーん、取り敢えず留学生が来ることは話すかな……知らないと危険だし……」
「それだけか?」
「うん、あんまり不安にさせて学園自体が楽しい物じゃなくなったら可哀そうだからねぇ」
「そうか……」
じゃあねと言い残し、エルドレッドは闇の中へ消えていく。
イェネーブル王国からの魔法使いがどんな人物なのかは正確には分からないが、魔法使いとして敬われて育っている以上、尊大な性格であることは確かだろう。
そもそもあの国の人間自体がそう言った性格を持つ人間ばかり。
弱いものは消される。
そんな国である以上、皆が皆、己の強さをアピールしようと横柄に育つのも仕方がないのかもしれない。
「気の毒なことにならなければいいが……」
フェリックスが呟いた言葉は当然フリージアではなく、これから来る留学生へ向けるものだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
学園生活、やっと始まりました。
自分の誕生日に色々と買いました。
でもどれも必要なものであって、自分のためのものではなかったのです、が!
鬼退治の映画の生産限定盤が値下がりしていてポチッてしまいました。
まだ見ていませんが、自宅鑑賞会を開きます。(一人で)
列車の方ですが、あれって2020年の映画だったんですねー。
時は早いなー。
私の夫君
https://ncode.syosetu.com/n4304mb/
新作です。
良かったら読んでいただけると嬉しいです。




