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魔力塔の姫君  作者: 夢子
令嬢生活

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フリージアの護衛

 心配していた学園入学試験を無事に終えたフリージア。


 合格発表も終わり、予定通り魔法科への入学が決まったため、間もなく王都へ移動し、王都のタウンハウスから学園へと通うことになった。

 比較的平和なこの国だけど、魔法使いは狙われやすいということもあり、フリージアには専属の護衛が付けられることになった。


「ビクター、ローリー」


「「はっ」」


「この子が私たちの娘フリージアだ、学園へ通う通学時や友人宅へ向かう際など、王都内といえど魔法使いには危険が多い、しっかりと護衛を頼むな」


「「はっ、お嬢様のことは必ずお守りいたします」」


 背が高くがっちりとした体形の、いかにも騎士ですという二人がフリージアの前で頭を下げる。

 勿論伯爵である父に対しての礼だけれど、その洗礼された動きにフリージアはカッコいいと尊敬の視線を送る。


「あの、ビクターさん、ローリーさん、どうぞ宜しくお願いしますね」


「「はい、フリージアお嬢様、こちらこそ宜しくお願い致します」」


 フリージアの護衛と紹介された二人が笑顔を向けてくれる。

 ビクターもローリーも体に厚みがあり、見るからに強そうで、フリージアのヒョロヒョロな体とは全然違う。比べてはいけないと分かっているけれど、頑張って食べても肉が付かないフリージアとしては羨ましい限りだ。


(二人とも見るからに強そうだもんねー)


 王都ではティエルノ領よりも人が多く、他国の者も入りやすい。

 当然国王であるフェリックスが目を光らせているが、それでも隅々まで監視は出来ない。


 つまりは王都ではフリージアを攫う隙が出来やすいということ。


 もちろんフリージアだって無策ではないし、警戒もしている。

 エルドレッドと防御魔法を考え、自衛に使える魔法も編み出している。


 ただ魔法使いは世界的に見ても希少。

 そしてフリージアは見るからに弱そうで、脅せば何でも言うことを聞きそうでもある。


 その上魔力だけは底しらず。

 魔力量を宣言していなくても、学園に通えばフリージアの力は必ず注目を浴びる。

 そうなれば、どんな手を使ってもフリージアを攫おうとするものは出てくるはずだ。


 それに何より、フリージアの元居た国イェネーブル王国の動きも気になる。


 今後ますます魔力不足に陥るだろうイェネーブル王国は、きっと手段を択ばず魔法使いを連れ出そうとするだろう。


 フリージアが自国の王女だと気づかなくても、魔力が多い魔法使いだと知られたら、何を使ってでも手に入れるはずだ。


「フリージアのことを頼んだよ、二人とも」


「「はい、エルドレッド様、お約束いたします」」


 笑顔ながらも圧をかけるエルドレッドに対し、ビクターとローリーの顔色が少しだけ悪くなる。

 ティエルノ伯爵領にいる間、騎士団の訓練に参加していたエルドレッド。

 魔法も使い剣も使うエルドレッドの実力を知る二人は、笑顔で威圧を発するエルドレッドに恐ろしさを感じながらも耐えていた。


「よし、じゃあ、二人とも訓練場に行こうか」


「「えっ?」」


「守るならフィシィの実力を知らないとでしょう?」


「「はっ?」」


 ビクターとローリーがフリージアへと視線を送る。

 同世代の女の子たちよりも小柄で、折れそうなほど細身なフリージア。


 どっからどうみても筋肉はついていないし、俊敏性もないように見える。

 剣を持って戦うなんて出来ないだろうし、逃げろといってもすぐに追いつかれ捕まえられそうだ。


 か弱い貴族令嬢の中でも最弱に位置していそうなフリージアを見つめる二人の心が読めるようだ。


 フリージア(お嬢様)とともに戦う? そんなのどう考えても無理だろう。


 ビクターとローリーの困惑は簡単に読み取れて、そんな二人は少し困った様子でエルドレッドへ視線を戻す。

 するとエルドレッドのその顔はどこか自慢げで、噓を言っていないことが分かるようだった。


「あの、お嬢様、お嬢様は戦えるのですか……?」


「うん、魔法で、少しだけね」


「……魔法で……」


 フリージアが魔法使いであり希少な存在であることは知っているけれど、どこまでの実力があるのかは知らない二人。


 とりあえず守る主を知るためにも、そしてエルドレッドの言葉の意味を知るためにもどうにか疑問は飲み込み、エルドレッドの言葉に頷いた二人だった。






「【攻撃力上昇・弱】」


 フリージアがビクターとローリーに向け何かの呪文を唱えると、自分たちの体が変わったことを感じる。

 腹の底から力がみなぎり、今すぐにでも駆け出して行けそうだ。


「これは?」

「体が軽いです……」


 絶好調のコンディション。

 たった今その日を迎えたような感覚で、どこまでも戦い続けることが出来そうな気までする。


「ビクター、ローリー、どう? 今ぐらいの感覚なら()()()戦えそう?」


「はい!」

「何人でもかかって来いって感じです!」


「そう、なら良かった」


 エルドレッドの言葉に二人は目を輝かせ頷く。

 今の状態ならば十数人の敵が目の前に現れても二人で倒すことが出来るだろう。

 体が軽いだけという言葉では表せないほどのコンディションだ。


「フィシィ、じゃあ、次行こうか」

「うん」


「「えっ、次ですか?」」


「そう、それは一番軽い魔法だからね、二人の体がフィシィの魔法にどこまで付いていけるか知りたいし」


「「えっ?」」


「魔法をかけた後の反動も知りたいし、フィシィは基本無制限に魔法を使えるから、君たちの体がどこまで耐えられるかも確認しないとだしね」


「「えっ……?」」


 ビクターとローリーの視線を受け、フリージアがニコリと可愛く笑う。

 騎士団の中には当然攻撃魔法が使える魔法使いもいるが、無制限に魔法を使える者など聞いたこともない。


 攻撃魔法でも防衛魔法でも、大きな魔法であれば一、二度使えば魔力の限界を迎えるし、少量の水を出す小さな魔法でも一日に十回ぐらいが限度。

 無制限など夢の夢、どこの国でも欲しがる奇跡的な魔法使いの出来上がりだ。


 そんな相手が目の前にいると思うと、ごくりと無意識に喉が鳴った。


「ビクター、ローリー、自分たちが守る相手がどれほどの人物が理解できた?」


「「はい……」」


 魔法が少し使えるご令嬢の護衛から、国の宝を守る護衛に二人の意識は変還された。


 それはきっとこの国の王を守ると同じぐらい重要な仕事。

 いや、代わりがいないことを考えるとそれ以上かもしれない。


 初めは伯爵がか弱い娘可愛さに過度な護衛をつけたのだろうと、自分たちはハズレを引いたかもしれないとそう思っていたけれど、これは違う。


 自分たちは騎士団の中から選ばれた実力者。

 それだけの能力があると認めてもらえたからこそフリージアの護衛に選ばれた。


 別に油断していたり、力を抜こうだなんて思っていた訳ではないけれど、認識を改め気合を入れなおした二人だった。


「フィシィ、じゃあ、次ね。ここにいる間に二人にはフィシィの魔法を受けることに慣れてもらわないといけないから加減はいらないよ」


「うん、分かった、ビクターさん、ローリーさん、準備はいい?」


「「はい、お嬢様、宜しくお願いいたします」」


「うん、じゃあ、【攻撃力上昇・中】」


「「うぉおおお!」」


 フリージアの魔法を受けた二人の体が一気に熱くなる。

 剣を振るえば音が違う、スピードが違う、まるで別人の体に乗り移ったかのよう。


 その上視力まで上がっているのか、森の木々を飛ぶ鳥の姿でさえはっきり見えて、自分まで遠くへ飛んでいけそうなそんな気までした。


「よし、フィシィ、止めてくれる」


「うん、【解除】」


「「ーーっ!」」


 フリージアの魔法が切れると、二人は地面に膝をつく。

 まるで長時間訓練した後のような、巨大な敵と戦った後のような、そんな感覚に襲われ立っていられなくなり、体が悲鳴を上げていることが自分でもわかった。


「ああ、剣が……」

「俺たちの握力に耐えられなかったってことか……?」


 握り振るっていた剣には亀裂が走っている。

 特別なことは何もしていないが、柄の部分から走るひび割れを見れば、原因は自分たちしかいないことが分かった。


「ああ、そうか、君たちの武器も強化しないとだめだね」

「エルドレッド、私が強化の魔法をかける?」


「うん、そうだね、そうなると普通の剣じゃだめだなぁ、魔法に耐えられる剣を特注しないと……知り合いに頼んでみるしかないか……」

「エルドレッドの知り合い?」

「うん、僕の魔法剣を作ってくれている鍛冶師だよ」

「そうなんだー」


 今にも仰向けになり倒れそうになっているビクターとローリーの横で、強力な魔法を二人にかけたフリージアはけろりとしている。


 見ためは虫も殺せないような可憐な少女だけど、中身は違う。

 フリージアの魔法があればどんな人間でも強力な戦力となるだろう。

 そしてその恐ろしさを十分に理解した二人は己の足りなさを知る。


 お嬢様の側に居たいならばこの魔法に耐えなければならない。

 きっとエルドレッドはとっくにこの魔法を受けることが出来ているはずだ。


 専属の護衛として家庭教師には負けられない。


 未知の戦いに挑むような高揚感が二人を包んでいた。



「うーん、今日はここまでだね、これ以上は二人の体が壊れそうだし、初日だし、徐々に魔法に慣れていくことが大事だしねぇ」


「……これ以上が、あるの、ですか……?」


 声を出すのもやっとの状態で問いかければ、良い質問だと言うかのようにエルドレッドには得意げな顔で頷かれてしまった。


「君たちねー、フィシィの使える魔法をなめてもらっちゃー困るなぁ。この子は天才、魔法使いの天使、なんて言ったって僕のフリージアだからねー」

「えへへ、エルドレッドが褒めてくれると嬉しいなー」


 フリージアの頭を撫でつつ自慢げに笑うエルドレッドの言葉に、ビクターとローリーはゾッとする。

 今の魔法だけでも十分に凄いのだが実際はこれ以上があり、その上ほかにも違うものがあるのだという。

 

(もしかしてウチのお嬢様は世界最強ではないのか?)


 遂に体を支えることも出来なくなり、不覚にもその場に倒れこんだ二人は思う。

 常に無表情で騎士と手合わせを行うエルドレッドが、あれほど甘い顔を向ける相手は絶対にお嬢様しかいない。


 たとえフリージアが魔法を使えなくても、エルドレッドを従わせている、もうそれだけで世界一強い気がした。



「じゃあ、最後にフィシィの攻撃魔法見せてあげたら? 寝転んでても見えるだろうし」


「えっ? 攻撃魔法なの? 二人に癒しをかけるんじゃなくって?」


「うん、癒されたらだめでしょう、強くなれないからね」


「そうなんだー」


 いや、お嬢様の魔法に慣れるのならば癒しをかけて欲しいと思ったが、二人は口を結ぶ。

 エルドレッドに睨まれ、これ以上に厳しい訓練にはされたくなかった。


「じゃあ、ちょっとだけね、室内だし、水魔法でいいかな? 【水撃・弱】」


「「ーーっ?!」」


 フリージアの手から水の魔法が勢いよく噴射される。

 とても()()()()()()という言葉に合う魔法ではない。

 魔法使いの中でも上級クラスの魔法。


 それを平然とした顔で使っているのだから驚きしかない。


 うちのお嬢様、どうなっているんだ?


 それが二人の正直な言葉。


 お嬢様に護衛なんていらないんじゃないか?


 そんな言葉だけはどうにか呑み込めた自分を褒めてやりたいと二人は思った。



「じゃあ、今日はここまで。ビクター、ローリー、しっかり休んで明日に備えてね」

「ビクターさん、ローリーさん、また明日お願いします」


「はい……よろしく、お願い、いたします……」

「……全力で、努力、いたします……」


 どうにか返事を返し、仲良さそうに手を繋ぎ去っていくエルドレッドとフリージアの背を見送る。

 二人が見えなくなった瞬間、ビクターとローリーの体からは力が抜け、その場で目を瞑る。


「はあ、騎士団の鬼の合宿を思い出すな……」

「いや、これはそれ以上の疲れだ……今敵が来たらやられる一択しかない。この魔法の後はとてもじゃないが動けない……情けないほどにな……」

「ああ……俺たちは弱いな……」

「ああ、その通りだ……」


 自虐な言葉を発しながらも、二人の顔には笑顔が浮ぶ。


 必ずお嬢様の魔法に慣れて見せる!


 フリージアの護衛となった二人は、燃えるような決意を宿していた。

おはようございます、夢子です。

ゴールデンウイーク終わりましたねー。


なんだかあっという間の五月前半でしたが、皆さま楽しく過ごせたでしょうか?

私は猫ハラに耐えながらゆっくり過ごすことが出来ました。w


今日からまた投稿を始めますのでお付き合いしていただけたら嬉しいです。


取り敢えず、木金が魔力塔で、月火を新作にしようかなぁと考え中です。

変わる場合はまたご報告させていただきますねー。

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