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魔力塔の姫君  作者: 夢子
令嬢生活

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28/40

エイダのお嬢様

 王城で働き出して四年、一人前のメイドになれたと自負していたエイダは、ある日の夜、国王の補佐であるヒューゴに呼び出された。


「ヒューゴ様が急ぎの御用だと言っていたけれど……」


「急なお客様でもあったのでしょうか?」


 後輩のヘレナも一緒にヒューゴの下へ向かう。

 お互い心では不安を抱きながらも、メイドとして平常心を装う。


 王城内でも王族付きのメイドになった二人は、エリートともいえる。

 一生を約束されたような職だが、中には数年王城で働き、拍を付け良き結婚先へと嫁ぐ者も多くいる。


 だがエイダもヘレナもメイドの仕事を一生の職だとそう決めていた。

 貴族家に生まれはしたが、二人は数人いる子供のうちの一人でしかない。


 それに女性が家を継ぐのは難しい世界、その中で誇りある職に就けたのだ、無難な結婚でそれを手放す気は無かった。


 今思えばそういった考えを持っていたところも考慮されてヒューゴに選出されたのだと分かるが、あの日は何故自分たちが? という思いしかなかった。


「陛下の大切なお客様の接待を二人に任せたい、お客様はまだ小さい少女だが、魔法使いであり特別な力を持つ方のようだ、なので重々に注意して接して欲しい」


「「畏まりました」」


 魔法使いと言えば希少な存在。

 学園に通っていたころ、何度か魔法が使える生徒を見かけたことはあるが、クラスも違うためこれまで親しく接したことはない。


 だから少しだけ不安はあったが、幼い少女だと聞いて姉に近い年齢の自分たちが選ばれたのだろうとそう解釈した。


 魔力があり、その上ちゃんと学び魔法が使える状態の者を魔法使いと初めて呼ぶことが出来る。

 難しい古語を学び、そしてそこから自身の意志で魔法を使えることで魔法使いとなれるはずだ。


 なので自分達が受け持つ少女のことを、魔力持ちの子供ではなく、()()使()()()()()だとヒューゴが言い切ったことで事の重大さをエイダもヘレナもすぐさま理解した。


 そして緊張の中初めて見た魔法使いのお嬢様は、とても大切にされている希少な魔法使いとは呼べない姿だった。


「この方があなた達がお世話を担当するお嬢様、フリージア様だ」


「「はい……」」


 大きなベッドで寝ているフリージアを見て驚く。

 その顔色は悪く、とても健康的とは言い難かった。


「年齢は十三歳らしいが、それよりも小さなお子様だと思って接して欲しい」


「「十三歳……でございますか……」」


 ヒューゴの言葉の途中だったが思わずフリージアの年齢を呟いてしまう。

 成長が遅いにしても可笑しすぎる小さな体。

 何よりも体が細すぎて痛々しい。


(この方はこれまで一体どんな扱いを受けてきたのでしょうか……)


 そんな思いが浮かんだが、エイダもヘレナも黙ったままヒューゴの説明を聞いた。

 国王陛下が保護したであろう魔法使いを、自分たちが任せていただける。


(きちんとお世話しなくては……)


 それは二人にとって初めて大きな責任が伴う仕事だったが、嬉しいことでもあった。

 メイドとしてしっかりと仕えさせていただこう。


(仕事として、完璧に!)


 そう思っていたはずなのに、フリージアと接するうち、二人にはそれ以上の感情が生まれてしまった。

 自分たちのお嬢様は可愛いだけでなく、とても優しくて魅力的で、ただの使用人と雇い主。

 それで終わらない感情が芽生えてしまった。


「エイダさん、ヘレナさん」


 生まれたてのひよこのような無垢な瞳で、エイダとヘレナを見つめ慕うフリージア。

 年齢よりも幼い行動がまた似合いくて、目の中に入れても痛くないという比喩が分かる気がした。


「いつもありがとう」 


「優しい二人が大好き」


 そんな言葉を掛けられてしまえばいちころだ。

 胸を締め付けられるほど愛しいと思ってしまう。


 なので王城のメイドを辞めることに対しても迷いなどなかった。


 ティエルノ伯爵家へ養女となるフリージアについていく決意はすぐに固まった。

 王城でのメイドの仕事に誇りもプライドもあった二人だったけれど、それよりもフリージアの傍にいたい。その想いの方が気づけば強くなっていた。




「エルドレッド、魔石にね、私の魔力を貯めるの、それでね、転移先を刺繍した布の上に置いて魔力を流すの、それで転移が出来ると思うんだけど、どうかな?」


「その場合、フリージアの魔力に耐えられるだけの素材を準備しないとだよねー、どんなものが良いか色々試す必要があるかなぁ」


「うん、色々試してみたい、この世界にはどんな素材があるんだろう」


 フリージアは今、転移魔法を完成させるためにエルドレッドと研究の真っ最中だ。

 数か月前まで動くのが精一杯だった少女とは思えないほどの元気を取り戻し、活動している。


 そのせいかフリージアの魔法の才能は開花し、エイダとヘレナが聞いても分からない高度な話をエルドレッドと良くしている。

 二人が研究した伝達魔法は既に成功していて、木彫りではなく鉄製の魔道人形に魔石をはめ込み、その人形同士が伝達を請け負い話が出来るようになった。


 魔力をかなり使うそうで、フリージアかエルドレッドの魔力の籠った魔石が無いとダメらしいが、王城とティエルノ伯爵家では既に伝達が出来るようになり、フェリックスへの報告が楽になったとエルドレッドが一番喜んでいた。


 いずれこれも普通に一般人でも使えるようにしたいというのがフリージアの夢らしいのだが、自分たちの可愛いお嬢様なら絶対にやり遂げるだろうと、エイダもヘレナもそう胸を張っていた。



 そんなある日、間もなく学園に入学するフリージアを前に、エイダとヘレナは長期の休暇を貰うことになった。


 フリージアが学園に入学すれば王都にあるタウンハウスに二人ともついていくことが決まっている。

 その前に家族との時間を過ごすようにというティエルノ夫妻からの心遣いだ。

 フリージアの体調も落ち着いて来たという理由もあり、この時期に決まった。


「エイダ、行ってらっしゃい、気を付けるのよ」


「はい、奥様、暫くの休暇頂戴いたします」


 まずは先輩のエイダが先に二週間の休みをもらう。

 メイドの出立に伯爵夫人とフリージアがわざわざ見送りに来てくれた。


「エイダ、気を付けてね、あの、それから、これ妹さんに……」


「お嬢様?」


 エイダに渡されたものはフリージア手作りのお守り。

 その価値が分かるだけにエイダは戸惑った。


「あのね、バーナード様に渡したお守りと一緒なの、妹さん、病気だって聞いたから」


「お嬢様……」


 エイダの妹は心臓の病気だ。

 二十歳まで生きられないだろうと生まれた時に言われて、今年で遂にその二十歳を迎える。

 幼いころからずっとベッド生活で、少女らしい生活をすることは叶わなかった妹。


 だからフリージアからエイダにとお守りを貰った時、心が動いた。

 これを妹に渡したら……

 バーナードに合った奇跡を知っただけに、正直そんな誘惑に負けそうになった時もあった。


 けれどフリージアの魔法を世間に広めるわけにはいかない。

 メイドとしての矜持が誘惑に打ち勝ち、フリージアへ願うことも押しとどめることが出来た。


 きっとティエルノ伯爵夫妻はそんなエイダを見ていたのだろう。

 そして誘惑に打ち勝ったエイダを認めた故にフリージアに妹のことを話してくれたのかもしれない。


 たとえお守りが妹に効かなくても、その心遣いが嬉しかった。


「お嬢様、ありがとうございます。必ず妹に渡します……」


「うん、元気になりますようにって、沢山お祈りしておくからね」


「はい……」



 実家へ着きすぐに妹の部屋へ向かった。

 両親はそのことに何も疑問を持たなかったようだが、エイダはすぐに妹にお守りを渡したかったのだ。


「ミリア、ただいま」

 

「姉さま、お帰り、なさい……」


 挨拶をかえしてくれた妹は、起き上がることが出来ないぐらい弱っていた。

 それでもどうにか微笑みを作りエイダを迎え入れてくれる。


 手紙でやり取りしていたから病状はある程度知ってつもりだったけれど、両親も妹もエイダに心配を掛けないようにとしていたらしい。想像はしていたけれど、やはり妹の弱った姿を目の当たりにすると心が痛んだ。


「ミリア、調子はどう? 今日は顔色が良いってお母様に聞いたわよ」


「ええ……今日は、姉さまが……帰ってくるから……楽しみにして、いた、の……」


 短い会話でも妹の息は辛そうだ。

 エイダは近付き妹の手を取った。

 その中にフリージアから預かったお守りを持ち、妹に伝える。


「私のお嬢様が貴女にって、お守りを作ってくださったのよ」


「私に……?」


「そう、元気になって欲しいって神様に祈ってくださったの」


「お優しい……方なの……ね……」


「ええ、とてもお優しい素敵なお嬢様なのよ……」


 妹が二十歳まで生きられたこと自体奇跡だった。

 両親が手を尽くして呼んだお医者様が偶然心臓に詳しい方だったことも理由であり、エイダが高給取りで高価な薬を購入できたことも奇跡と言える。


 そして今日また一つ奇跡が起きた。


 エイダが「お嬢様に感謝しましょうね」とフリージアへの好意に意識を向けると、カッとミリアが光る。

 眩しい光にエイダも驚き、当然ミリアも驚く。


「これは……なに?」


 その眩しい光の中驚くミリアの声が聞こえた。

 光が徐々に落ち着いていき、ミリアの姿がやっとハッキリと見えた。


「ミリア……」


「姉様?」


 エイダの前にいるミリアの顔色はすっかり良くなっていて、頬がピンク色に染まっている。

 吐く息も苦し気なものではなく、普通の呼吸。

 

(ああ、奇跡が起きたんだ……)


 エイダはすとんと現実を受け入れられた。

 当然だ、フリージアの傍にずっといて彼女の凄さは十分に分かっている。


 自分のお嬢様は凄い魔法使い! エイダはそのことを散々目の当たりにしてきた。


 だから妹が治ることも分かっていたし、当たり前だとそう思った。


 それでも自然と涙が溢れた。

 嬉しくて嬉しくて仕方がない。


 フリージアに会えたことこそが奇跡、そう思わずにはいられなかった。



(フリージア様に出会えて良かった……)


 エイダは心からそう思っていた。




「姉さま、あの、私、苦しくないの……えっ、私に何が起きたの?」


「ミリア、詳しいことはお父様とお母様と一緒にお話しするわ、その前に身支度を整えましょうか、きっと私のドレスが着れるはずよ」


「私が、ドレス……? ドレスを着れるの?」


「ええ、まだ体力がないから無理は出来ないでしょうけど、少しぐらい着飾るのは平気だと思うわ、お化粧もしてお母様たちを驚かせましょうか? 貴女の着飾った姿を一番楽しみにしていたのはお父様とお母様ですもの……」


 やっと現実を受け止めたミリアの瞳から涙が溢れる。

 自分に起きた奇跡がミリアにも分かったようだった。


「……お姉様……有難う……どうしましょう……嘘みたいだわ」


 涙を流すミリアを抱きしめる。

 エイダも当然涙を流していた。


「お礼はお嬢様に伝えましょう……明日一緒にお手紙を書きましょうね」


「ええ!」


 ミリアが着飾りエイダと一緒にリビングへ降りていけば、父も母も時が止まったかのように固まってしまった。


 その後感動の涙があり、数時間後家族が落ち着いたところでフリージアの魔法についてエイダから両親や妹に話を伝えた。


 あとで王城から家を継いだ兄にも話があるはずだけれど、このことは絶対に漏らすわけにはいかない。


 そのことを両親も妹も十分に理解してくれて、エイダはホッとする。


 恩を仇で返すことは絶対にしない。

 それに両親の裏切りを王家が知ったら許すはずがない。


 だから両親だけでなく妹も兄も王城での魔法契約に従った。

 フリージアの秘密は守る。

 そう家族で約束したのだ。


「お姉様のお嬢様は本当に凄い方なのね……」


「ええ、そうなの、私のお嬢様は凄い方なのよ」


 自慢げに語るエイダはどこか誇らしげだった。

 フリージア付きのメイド。

 それはエイダにとってどんな仕事よりも尊くやりがいのあるものだった。


こんばんは、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

エイダの設定で妹が病気なのは決まっていてやっと出せました。


体調がスッキリしなく、咳がまだ続いています。

こればかりは仕方がないですが、急に投稿を休んだら何かあったと悟ってくださいませ。w

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