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 ぐちゃっ。ぐぶっ、ずずず――…

 聞きなれない音が響く。音の中心にいるのは、黒くて形の定まらないモノ。

 がじゅっ。ごぶぶ、ぢゅく――…

 何かを引き千切るソレの周りは、絵具をぶちまけたような鮮赤が広がっている。




「ったく、余計な仕事増やさないでほしいわ」




 ため息交じりに言葉を発したのは少女。この場の状況を把握するなり、先程よりも大きなため息をついた。


「こいつらはもう、血だけじゃ満足しないようだ」


 メインは肉だと言わんばかりの食い付きに、青年もため息をもらした。


「な~にわかりきったこと言ってんの。早く済ませて、本来の業務に戻るわよ」


 近くにいたモノを薙ぎ払うと、少女は青年と背中合わせになった。


「グルルルルル……」


 それまで無関心だったモノは、この瞬間、二人を〝敵〟だと認識した。

 赤く光る瞳。大きな牙をむき出しにする姿に、青年は以前に見た獣を思い出した。


「こいつらが一連の殺人鬼というわけか」


「いやいや、獣だから殺人獣でしょう?」


「……そこにこだわる必要は無いと思うが」


「私、気になったことは言わなきゃ気がすまないの。――で、こいつら何なの?」


 襲いかかるソレを払いながら、少女は平然と話しを続ける。


「一人でやるつもりだろうけど、あんまり勝手なことされても困るのよ?」


「私個人の目的に関わっている存在、と言うことしかわからない」


「探し人に? だったら早く言えばいいのに、っと」


 べちゃっ! と、壁一面に黒いモノが叩きつけられる。それには血が無いのか。それとも黒くてわからないのか。弾けるように絶命したというのに、壁には黒色しか広がっていなかった。


「面倒だし、灰にしちゃおうかなぁ~」


「それこそ面倒になるからやめて下さい」


「クロのケチ~」


 ぶつくさ文句を言いながらも、手早く敵を退けていく少女。力の差がある理解したのか、黒いモノのうち数体が姿を消していた。


「ただの獣かと思ったけど、案外知恵が有るのね」


「知恵があるから、大人だけを襲うのだろう」


 あたりに散らばる肉片。大きさや血の臭いから、ここにあるのは成熟した肉。そして――。


「特に、女性が多い」


 青年の判断に、少女は顔を歪めた。


「それって……やっぱり吸血鬼関係?」


「間違いではないだろうが、教会が狙う存在とは違う。元になった存在、と言えばいいのか。深い関わりが無いからこれ以上は不明だ」


「まさかとは思うけど……血を集めて強くなろう、ってこととか?」


「無いとは言えない。これだけの使い魔を使役するんだ。何かしらの使用目的はあるだろう」


「復活のためとか? もしそうなら、またそんな仕事するのは勘弁だわ」


「今回は、あの時とは違うと思うが」


「緋乃や透の話じゃないの。クロと知り合うず~っと前のこと。噂ぐらい聞いたことあるかしら? どこかの一族の争いらしいんだけど、ある日その一族の長が豹変して、自分たちを助けてくれた一族を虐げ始めたの。なんでも、一人の女を手に入れる為に起こした争いらしいわ。人間だろうと悪魔だろうと、どこも似たようなことしてるわよねぇ~」


 反応の無い青年。どうしたのかと少女が首を傾げれば、


「貴女も……関わっているのか?」


 消えそうな声で、そう問いかけた。


「あいにく、そのあたりになると記憶があやふやで――ほら、その時は体が違ってたし、なんせ数千年も前のことだから」


「……そうか」


 青年も、少女が話したことはよく知っていた。その出来事は、青年にとって一番後悔している出来事だから。


「可能性は高いと思う。その話の一族とさっきのやつらは、繋がっている」


「うそっ!? それが本当なら、仕事量倍増じゃない!」


「貴女の基準はそこか。増えても一時的なことだろう?」


「だってせっかく高校生になってるんだから、楽しまなきゃ損でしょ?」


「? 満喫もなにも、最近通ってないと思うが」


「まぁ、最近は仲のいい子が来てないから」


「……それぐらいで休むなら、しっかり働いて下さい」


 少女の首根っこを掴むと、青年は空に向かって大きく跳ねた。


「こらぁぁぁー! それが主にする態度!?」


「貴女とは対等な関係だと思います」


 じたばた暴れる少女。何を言われても、青年はしれっとした態度のまま空を駆けた。


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