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「早く吸いなさい。それとも、他の輩に取られていいの?」


「っ!? なんでアンタ がっ」


「さぁ、私にもわからない。それより、獲物が目の前にいるのに、またお預けするの?」


「だから……吸えないって言っただろうが」


「私が気に入らない? それとも、【今の私】の血が完全でないから?」


「気に入らないとか、そーいう問題じゃないっ」


「理由はなんにせよ、自我を保てないと意味がないと思うけど?」


「っ…………そんなの」


 わかってる、と小さく言う声が聞こえた。本当にそう思ってるのか疑問なものだ。


「あなただって、無理やり吸うのは望まないでしょ? 現在の私は、怖くて自分からあげるって行為は難しそうだし」


「それでも……手は出さない」


「――――強情っぱり」


「んなのお互いさまだ」


「――――ねぇ、吸えないのってもしかして」


 私が、原因なんじゃ。


「…………」


「――――はぁ」


 大きなため息。言葉に出さなかったけど、それで私が原因だって肯定されてる気がした。

「…………」

「――――頼むから」

 小さく発した言葉。聞き取れず首を傾げれば、


「オレを――惑わすな」


 今度は、私が押し倒されてしまった。


「今さら――現れても困る」


「だったら――消して」


 今、この体は私のものじゃない。エルが求めるものを渡すことができないなら、これ以上強くなる前に、無かったことにしてほしい。


「私にだって、これ以上いるのが危険だってことぐらいわかるわ。でも自分じゃどうにもできないから、エルが私を消して。他の誰かにやられるのは嫌だし、エルの為に使った方が、よっぽど有意義だわ」


「……ホント、アンタは間違いなくフェイだ」


「まだ疑ってたの? 相変わらず、警戒心が強いのね」


 こうして話すのも、結構時間がかかったっけ?

 野生の動物みたいに敵意むき出しで、肝心なことはなかなか話さない。そのくせ、こっちのことが気になってチラチラ見てたり。


「エルだって、好きに生きる権利はあるのよ? それを自ら潰すなんてっ!?」


 ずきり、頭に刺激が走る。久々の痛覚に、思いきり顔が歪んだ。――どうやら、私はここまでらしい。




「この体に――現れるな」




 強い言葉だけど、声はとても弱い。本気で消えてほしいって思ってない証拠だ。そんなに名残惜しい声で言われたら、消えたくなくなっちゃうじゃない――…。

 消えゆく意識の中、私は、彼が安らかに過ごせるように願いながら目を閉じた。


 *****


 向こうの世界に戻った叶夜。珍しく任務を失敗した姿を見て、ディオスはため息をもらした。


「始祖は殺すなと、以前に命を受けていましたので」


「そうか、そのようなことも言ったな。――では変更だ。始祖は殺して構わぬ」


「雑華の方はどのように」


「あれはもう時期、命華を連れてくる。始末は後からだ。お前は箱と、エメを連れて来い」


 頭を下げると、叶夜はその場から姿を消した。




「そろそろ、準備を進めなければなりませんね」




 後ろに控えていた、執事服を着た少年が言う。


「命華は、どのように使われますか?」


「知れたこと。現世の記憶や思考を削ぎ、伽藍になってもらう。命華が手に入り次第、叶夜にやらせろ」


「ですが、今の状態では壊してしまう可能性が」


「あいつは過去の命華とも契約を交わしておる。心配せずとも、殺すような真似は出来ぬ。――時を見て、器を変えるとしよう」


 頷くと、深々と頭を下げてから執事は部屋を出た。一人残ったディオスは、怪しげに口元を緩めながら外を見た。




「――――もう少し」




 空に浮かぶ欠けた月。それが次に円になった時――望みが成就する、最高の瞬間が訪れる。


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