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「早く吸いなさい。それとも、他の輩に取られていいの?」
「っ!? なんでアンタ がっ」
「さぁ、私にもわからない。それより、獲物が目の前にいるのに、またお預けするの?」
「だから……吸えないって言っただろうが」
「私が気に入らない? それとも、【今の私】の血が完全でないから?」
「気に入らないとか、そーいう問題じゃないっ」
「理由はなんにせよ、自我を保てないと意味がないと思うけど?」
「っ…………そんなの」
わかってる、と小さく言う声が聞こえた。本当にそう思ってるのか疑問なものだ。
「あなただって、無理やり吸うのは望まないでしょ? 現在の私は、怖くて自分からあげるって行為は難しそうだし」
「それでも……手は出さない」
「――――強情っぱり」
「んなのお互いさまだ」
「――――ねぇ、吸えないのってもしかして」
私が、原因なんじゃ。
「…………」
「――――はぁ」
大きなため息。言葉に出さなかったけど、それで私が原因だって肯定されてる気がした。
「…………」
「――――頼むから」
小さく発した言葉。聞き取れず首を傾げれば、
「オレを――惑わすな」
今度は、私が押し倒されてしまった。
「今さら――現れても困る」
「だったら――消して」
今、この体は私のものじゃない。エルが求めるものを渡すことができないなら、これ以上強くなる前に、無かったことにしてほしい。
「私にだって、これ以上いるのが危険だってことぐらいわかるわ。でも自分じゃどうにもできないから、エルが私を消して。他の誰かにやられるのは嫌だし、エルの為に使った方が、よっぽど有意義だわ」
「……ホント、アンタは間違いなくフェイだ」
「まだ疑ってたの? 相変わらず、警戒心が強いのね」
こうして話すのも、結構時間がかかったっけ?
野生の動物みたいに敵意むき出しで、肝心なことはなかなか話さない。そのくせ、こっちのことが気になってチラチラ見てたり。
「エルだって、好きに生きる権利はあるのよ? それを自ら潰すなんてっ!?」
ずきり、頭に刺激が走る。久々の痛覚に、思いきり顔が歪んだ。――どうやら、私はここまでらしい。
「この体に――現れるな」
強い言葉だけど、声はとても弱い。本気で消えてほしいって思ってない証拠だ。そんなに名残惜しい声で言われたら、消えたくなくなっちゃうじゃない――…。
消えゆく意識の中、私は、彼が安らかに過ごせるように願いながら目を閉じた。
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向こうの世界に戻った叶夜。珍しく任務を失敗した姿を見て、ディオスはため息をもらした。
「始祖は殺すなと、以前に命を受けていましたので」
「そうか、そのようなことも言ったな。――では変更だ。始祖は殺して構わぬ」
「雑華の方はどのように」
「あれはもう時期、命華を連れてくる。始末は後からだ。お前は箱と、エメを連れて来い」
頭を下げると、叶夜はその場から姿を消した。
「そろそろ、準備を進めなければなりませんね」
後ろに控えていた、執事服を着た少年が言う。
「命華は、どのように使われますか?」
「知れたこと。現世の記憶や思考を削ぎ、伽藍になってもらう。命華が手に入り次第、叶夜にやらせろ」
「ですが、今の状態では壊してしまう可能性が」
「あいつは過去の命華とも契約を交わしておる。心配せずとも、殺すような真似は出来ぬ。――時を見て、器を変えるとしよう」
頷くと、深々と頭を下げてから執事は部屋を出た。一人残ったディオスは、怪しげに口元を緩めながら外を見た。
「――――もう少し」
空に浮かぶ欠けた月。それが次に円になった時――望みが成就する、最高の瞬間が訪れる。




