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 ――金属音が聞こえる。

 重い目蓋を開ければ、険しい表情の先生が見えた。


「日向さんを返しなさい!」


「長が望んでいる」


「では尚更、渡す訳にはいきませんね」


 先生の瞳が変わる。途端、叶夜君は大きく後ろに飛び退いた。


「少々手荒ですが、致し方ありませんね。――骨でも圧し折りますか」


 恐ろしいことを、先生は平然と言ってのけた。

 思わず目を見開けば、先生は私に視線を合わせる。


「見ない方が賢明です」


 ニコッと見せた笑みに、背筋が凍った。

 優しい口調なのに……今の先生は、とても怖い。初めて見る雰囲気に、余計目が離せなくなってしまった。


「――邪魔をするなら」


 目の前に、刃物が見える。それはいつか、私を襲った男性を殺したのと同じ鎌だった。


「日向さんを抱えたまま、私を相手にするおつもりで?」


「支障は――無い」


 強く密着したと同時。鎌は、先生がいた場所をえぐっていた。




「や、めっ……」




 止めてと言いたいのに、体に力が入らない。

 二人の戦いが激しくなるのと比例して、体に走る痛み。でも、これはチャンスだと思った。昨日も酷い痛みの後、叶夜君と雅さんを助けた(覚えてないけど)ようだし、このまま痛みが激しくなればもしかしたら――私はひたすら、この争いを止めることを願い続けた。


 /////


 イヤな気配がした。

 まさかと思って美咲ちゃんのとこに行けば、部屋はもぬけのから。リヒトさんもいないとこを見ると、連れ去られたって可能性大か。

 気配を探れば、あったのはキョーヤの痕跡だった。

 ったく、いくらなんでも気を抜き過ぎた。

 呪いを凝縮した薬を飲んだなら、オレよりもアイツの方が危険になる。

 そもそもアイツは長の子ども。ずっと自分を保つなんてことはできないんだ。

 ――強い悪寒がする。前にも感じたことのあるそれは、リヒトさんが力を使っている時と同じだった。




「……さすがにヤバい、か」




 予想どおり、キョーヤとリヒトさんが交戦中。美咲ちゃんがいるから、リヒトさんは手加減するだろうって思ったけど――結構ヤバい。美咲ちゃんに当てないだろうけど、問題はアイツだ。いくらリヒトさんが気を付けても、アイツがどこまで避けれるか。


「――――っ」


「!?」


 一瞬、リヒトさんがオレを見た。

 やっぱりいることに気が付いてたらしい。その後も、何度か目で合図を送ってくるのに合わせ――次の合図で、キョーヤに飛びかかった。


 *****




「――やっぱお前、後ろが甘いな?」




 声の方を向いた途端、叶夜に抱えられていたはずの美咲は雅が奪っていた。


「いくら死なないからって、隙アリ過ぎ」


「――感情で動くお前よりマシだ」


「はっ、ただの人形に言われたくないね」


「無駄口はいいから、早く行きなさい!」


 まだ言い足りないのか、少し不服そうな表情を浮かべる雅。だが上条に睨まれれば、そんな考えは吹っ飛んだ。


「おっと。追われては困りますよ」


 鎌を掴み、叶夜の動きを止める。


「アナタの相手は――私です」


 一段と輝きを増した瞳。先程までは問題が無かったのに、本能が、上条に逆らうことを許そうとしない。振り上げようにも、腕に命令がいかないどころか、その場に立っていることすら危うい体に、叶夜は眉をひそめた。




「では、答えていただきましょうか」




 そこにいるのは、間違いなく上条理人。しかし今の上条からは、普段見せる温厚な雰囲気は感じられない。


「答えなくても構いませんが――その場合、体の一部を〝消す〟ことになりますので」


 穏やかな顔。だが、身にまとう雰囲気は冷たく。ここにいるのは王華や雑華が恐れる、〝伝承にある始祖〟そのものだった。



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