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*****


「――調子はどうだ?」


「薬が効いてきたようです。今ではもう、反抗する気配もないと聞いています」


「気は抜くな。念には念を入れておけ」


「はい。既に手は打ってあります」


「ならばよい。――調整が済み次第、迎えに行かせろ」


「確か、他に命を出してあると聞いていましたが」


「あれは役に立たん。血は集めるが、肝心なのを持って来ぬ。まあ、抜け駆けせぬのはいい心がけだがな」


「彼にそのような気は起こせませんよ。起こせばどうなるか、彼が一番理解しているでしょうから」


「健気なことだ。その願いは、報われることが無いというのにな」


「そうですね。彼の願いは、とうの昔に費えています。支えであるものを失っては、生きる意味を無くしてしまうかもしれませんね」


「ふふっ。我としては、望ましいことだがな。――頃合いだろう。様子を見て来い」


「かしこまりました」


 一礼すると、少年は部屋を後にする。向かうは、実験が行われている場所。




「至急、命華を連れて来いと、ディオス様の命です」



 実験室に来るなり、少年はベッドに横たわる人物――叶夜に命令を告げた。


「人目に触れることなく、慎重にことを進ませるようにと。いいですね?」


「――――」


「聞こえないのですか? ディオス様のお望みなですよ?」


「――――了解、しました」


 ゆっくり体を起こすと、叶夜は覇気の無い返事を返した。


 ◇◆◇◆◇


 夕方から、私はまた痛みに襲われていた。とは言っても、今までの痛みに比べたら軽い。

 おじいちゃん、今頃なにしてるかなぁ。

 先生がうまく話してくれてるらしいけど、ちゃんと食べてるかとか。一人で大丈夫かなって、心配になってくる。

 ――電話、してみよう。

 声が聞きたくなり、私は携帯で、自宅へと電話をかけた。


『――はいはい。日向ですが』


「おじいちゃん。私、美咲だよ」


『おぉ~美咲か。大丈夫なのかい? 電話なんてかけて』


「うん。前よりよくなったから……話したく、なっちゃって」


『ははっ。美咲は淋しがり屋じゃのう。よくなってきたのなら、もうすぐ帰れるのかい?』


 病院に長くいたことがあるのに、たった数日で、自分でも驚くほど淋しがっていた。

 きっと、これがただの療養じゃないから。元気になっても、私を狙う人たちが家まで来ないとも限らない。考えたくないけど、もしかしたらもう、会えないんじゃないかって……。


『美咲? 美咲、どうしたんじゃ?』


「――――えっ」


『なんともないのか?』


「あっ、うん。ちょっと、ぼぉーっとしてただけ」


『まだ病み上がりのようじゃな。そろそろ、休んだ方がいいかもしれんぞ』


「うん。そうするね」


 名残惜しいながらも、私は電話を切った。

 ベッド横の窓を開けると、綺麗な夜空が見える。静かな時間。安らぐ反面、嫌なことも考えてしまう。

 昼間、体の調子を診た先生は、そろそろ落ち着いてくる頃だろうと言っていた。

 いずれは自分で自分を守れるようになるらしいけど……危険度も増す、ってことなんだよね。

 私から出る匂いが、狙う人たちを惹きつけてしまう。今まで抑えていたわけだから、それが解禁される瞬間は、特に注意をしないといけない。自分ではどんな匂いなのかわからないし、その瞬間がどうやってくるのかもわからないから……だんだんと、恐怖が湧いてしまう。




「――まだ、寝てるのかなぁ」




 叶夜君は出かけてるみたいだけど、先生と雅さんは部屋にいる。先生は気を使って来ないんだろうけど、雅さんは元気だったら侵入して来そうなのに……こういう時、いつもみたいに来てくれたらいいのにって思ってしまう。




「――――命華」




 声がしたと思えば、襖が引かれてて、


「気分はどうだ?」


 叶夜君が、隣に来て腰を下ろした。




 なんだか、いつもと雰囲気が――。




 神妙な面持ちに、思わず体が強張った。


「もしかして……何か、危険があるんですか?」


 不安を口にすれば、叶夜君は首を横に振る。


「危険は無い。ただ――今から、向こうに行くことになる」


 向こうにって……ここから、出てもいいの?


「ま、まだ回復していないのに、外に出るなんて――?」


 途端、体から力が抜けていく気がした。布団に倒れ、これでは行けそうにないと告げれば、叶夜君は問題無いと言い、私を抱えた。


「……こんな、状態じゃ」


 匂いが強くなれば、襲われる確率だけでなく、叶夜君にかかる負担も大きくなってしまうのに。


「叶夜君、に。迷惑が……」


 徐々に視界が歪んでいき、瞬きをするのも重くなる。




「早く――行こう」




 そう言った後の表情が……どうしてか、泣いているように見えた。あまりにも辛そうに見えたから、なんとか手を動かし、




「どうし、たの……?」




 そう問いかけ、そっと、叶夜君の頬に触れる。途端、手になにかが伝った。よく見れば……それは、叶夜君の涙だった。




 なんで……泣いてる、の?




 その疑問に答えることなく、叶夜君は黙って、部屋を飛び出した。


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