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向こうの世界では、今、雑華の主だった者が一ヶ所に集結していた。束ねているのは女性。その者は、先程まで美咲のそばにいた人物。
「まずは仲間の非難。それから、薬は呪いが進んでいる者を優先ね」
「そんなっ。エメ様にも飲んでいただかねば」
「しばらくは大丈夫よ。リヒトさんから貰った薬を飲んだから」
「なんと! 始祖が姿を現したのですか!?」
「えぇ。だからみんな、リヒトさんを刺激するような行動は慎んで。呪いを解く手助けをしてくれてるんだから、怒らせたらそれこそ全滅ものよ?」
「分りました。――では、他の者にも伝えます」
数人の男性は深く頭を下げ、その場から姿を消した。
気が抜けたのか、エメは近くにあった椅子に深く腰を下ろし、大きなため息をはいた。
あと、どれぐらい――。
自分は保てるだろうかと、胸に手を当てる。今はこうして普通にしていられるものの、エメは既に呪いを発症している。おまけに、雑華にある呪いは王華とは違う特性を持っており、その特性が強く現れてしまうことを、エメは危惧していた。
「――少しは休んだら?」
言われて、エメは声がした方を向く。
「戻って来たと思えば、ずっと動きっぱなしだろう? 少しは体を労らないと」
話しかけたのは、エメと年が同じ頃の男性。持って来たカップをエメに手渡すと、男性は壁に寄り掛かった。
「中身はいつものだよ」
「準備がいいのね。私以外に飲まないでしょう?」
「いつ帰って来てもいいように準備はしてるさ。たまに僕も飲んでるし」
男性が持って来たのは、花の香りがする温かい飲み物。少し甘くて、でも、飲むとすっきりするそれは、エメが好む物を調合してあった。
「それで――今度はいつまでここに?」
飲み終えた頃、男性は話しかけた。
「しばらくここにいるわ。もうあちらには戻らない」
「そうか。なら、雅もここに来るの?」
「今は来させるわけにはいかないわ。自我を失う前に手を打たないと、みんなを殺しかねないもの」
「あれ、血はいつも手に入れてるはずだけど――」
「それがね、目の前に命華がいるのに、あの子ったら貰わないの。好きだから吸えないっていうのなら嬉しいけど……」
「そっか。まだ、他人を信じれないだろうからね。エメのことが全てって感じだし、その為に動いているんだから」
二人は、雅がこれまでに何をしてきたかを知っている。姉であり、最愛の人を護る為、幾人もの血を奪っていることも。
「貴方のことだって信用してるはずよ? でなきゃ、名前を考えてくれ、なんて言わないと思うわ」
「そうだと嬉しいね。――本来、君と結ばれるのは彼だったのに、他に契約を奪われたから恨まれてると思った」
「まぁ、ちょっとはショックだったみたいね。――琥珀は、本当によかったの?」
それまで話していたトーンとは違い、エメは少し、暗い口調で続ける。
「私は、ずっと一緒にはいられない。子どもだって、子宮に封がされてるから出来ないし……」
俯くエメ。それに男性――琥珀はため息をつくと、エメの前に行き顔を覗き込んだ。
「エメが悪いわけじゃない。子どもが欲しいなら、手立てを見つければいいだろう?」
エメの両手を包み込み握ると、琥珀は続ける。
「一人で、なんでもこなそうとしないで。君の痛みは――僕の痛みでもある」
「っ――全く。同じ言葉で口説くなんて」
芸がないわよ、と琥珀の肩に寄りかかる。
「変わってなくて……安心した」
「酷いな、僕を疑ってたの?」
「数百年も経てば、心変わりするかもって心配するわよ」
「言っただろう? 命が続く限り、君だけを想うと」
エメを抱えると、琥珀は部屋を移動する。連れて来たのは寝室。ベッドに下ろすなり、今日はもう休むようにと、エメの体を気遣った。




