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◇◆◇◆◇


 何を……しているんだろう。




 ふわふわとした感覚。今、自分がなにをしているのかわからない。




 あるのは……〝助けたい〟という思い。それを強く願ったことだけは覚えてる。




 視界がぼやけて、周りがよく見えない。どうやら歩いているようで、どこかの部屋の前で立ち止まった。

 戸を開け、中へと入って行く。体が勝手に動き、部屋にいる誰かのそばに寄り、そっと、左頬に触れていた。




「――――…」




 目を覚ましたその人は、緑の瞳をした男性。それでようやく、目の前にいるのが誰なのかわかった。




〝――雅さん〟




 口にしたはずの言葉は響かず、




「――エル」




 私の口から、別の言葉が飛び出した。




「っ、……アン、タ」




 うまく体が動かせないのか、雅さんは、自分の頬に当てられた手に触れるだけで精一杯のように見えた。


「血が――必要でしょ?」


「なに……言って」


「約束。あなたに、私の血をあげるって」


「っ……アンタとなんてっ、してない」


 力強く、手が握られた。

 あきらかに、雅さんは私に敵意を向けている――。そう思えるほど、雅さんの瞳は苦しい色をしていた。


「忘れたの? よく家に来てたくせに」


「そりゃあ行くさ。美咲ちゃんは命華だし」


「純血奪おうとしたのも忘れたの?」


「オレも男なんでね。そーいう衝動ぐらいある」


「本当にわからないの? 私はね――魔女」


 途端、雅さんから敵意が薄らぐ。




「生まれ変わりってあると思うの。だから、次は簡単に死なせないよう、頑張って私を護ってね」




 その言葉で、敵意は完全に消えた。




「ホン、トに……」




 握っていた手を離し、その手を私の頬へ伸ばす。




「っ……よりにも、よって」




 震える声。それと同じく、私に触れる手も、微かに震えていた。




 どうして……そんな怯えた目をするの?




 聞きたいのに、体はまだ、自分の思うように動いてくれない。

 ゆっくり、雅さんの手が頬を撫でる。体を起こすと、もう片方の手も頬に添え、私をまじまじと私を見つめた。


「聞かれてもわからないわ。それより――」


 頬にある手を離し、にこやかに聞く。

 髪を一つに束ね、左の首筋を露にすれば、軽いため息が聞こえた。




「ホンっト――正気じゃない」




 そっと、首筋に指が触れる。

 徐々に近付く体。――でも、雅さんは一定の距離を保ったまま、それ以上近付こうとはしない。




「欲しいけど――貰えない」




 振り絞るように告げられた言葉。

 その時の表情は、酷く悲しそうな顔をしていた。




「なら、私がいる意味ないわね」




 体が傾く。何をしているのかと思えば、雅さんの布団に横たわってしまった。


「私、もう寝るから」


「オレが襲うって思わないの?」


「その時はその時。――何かあるのは、わかってる」


「オレのなにをわかってるって言うの?」


「あなたが護りたいもの、かな」


 ゆっくり、目蓋を閉じる。

 意識も徐々に薄まり、眠りへと落ちて行く――…。




「オレが護りたいのは――」




 微かに聞こえる声。

 続きの言葉は、なんて言ったのか……意識は、そこで途絶えた。


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