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何を……しているんだろう。
ふわふわとした感覚。今、自分がなにをしているのかわからない。
あるのは……〝助けたい〟という思い。それを強く願ったことだけは覚えてる。
視界がぼやけて、周りがよく見えない。どうやら歩いているようで、どこかの部屋の前で立ち止まった。
戸を開け、中へと入って行く。体が勝手に動き、部屋にいる誰かのそばに寄り、そっと、左頬に触れていた。
「――――…」
目を覚ましたその人は、緑の瞳をした男性。それでようやく、目の前にいるのが誰なのかわかった。
〝――雅さん〟
口にしたはずの言葉は響かず、
「――エル」
私の口から、別の言葉が飛び出した。
「っ、……アン、タ」
うまく体が動かせないのか、雅さんは、自分の頬に当てられた手に触れるだけで精一杯のように見えた。
「血が――必要でしょ?」
「なに……言って」
「約束。あなたに、私の血をあげるって」
「っ……アンタとなんてっ、してない」
力強く、手が握られた。
あきらかに、雅さんは私に敵意を向けている――。そう思えるほど、雅さんの瞳は苦しい色をしていた。
「忘れたの? よく家に来てたくせに」
「そりゃあ行くさ。美咲ちゃんは命華だし」
「純血奪おうとしたのも忘れたの?」
「オレも男なんでね。そーいう衝動ぐらいある」
「本当にわからないの? 私はね――魔女」
途端、雅さんから敵意が薄らぐ。
「生まれ変わりってあると思うの。だから、次は簡単に死なせないよう、頑張って私を護ってね」
その言葉で、敵意は完全に消えた。
「ホン、トに……」
握っていた手を離し、その手を私の頬へ伸ばす。
「っ……よりにも、よって」
震える声。それと同じく、私に触れる手も、微かに震えていた。
どうして……そんな怯えた目をするの?
聞きたいのに、体はまだ、自分の思うように動いてくれない。
ゆっくり、雅さんの手が頬を撫でる。体を起こすと、もう片方の手も頬に添え、私をまじまじと私を見つめた。
「聞かれてもわからないわ。それより――」
頬にある手を離し、にこやかに聞く。
髪を一つに束ね、左の首筋を露にすれば、軽いため息が聞こえた。
「ホンっト――正気じゃない」
そっと、首筋に指が触れる。
徐々に近付く体。――でも、雅さんは一定の距離を保ったまま、それ以上近付こうとはしない。
「欲しいけど――貰えない」
振り絞るように告げられた言葉。
その時の表情は、酷く悲しそうな顔をしていた。
「なら、私がいる意味ないわね」
体が傾く。何をしているのかと思えば、雅さんの布団に横たわってしまった。
「私、もう寝るから」
「オレが襲うって思わないの?」
「その時はその時。――何かあるのは、わかってる」
「オレのなにをわかってるって言うの?」
「あなたが護りたいもの、かな」
ゆっくり、目蓋を閉じる。
意識も徐々に薄まり、眠りへと落ちて行く――…。
「オレが護りたいのは――」
微かに聞こえる声。
続きの言葉は、なんて言ったのか……意識は、そこで途絶えた。




