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◇◆◇◆◇




 今度は……覚えてた。




 ゆっくり瞬きをしながら、夢のことを考えた。

 今までのものとは違う。臭いや音だけじゃない。ハッキリと、記憶に残ってる。




「――――おはよう」




 やわらかな声。隣を見ると、誰かがいる。目を擦れば、徐々にその人物の顔が見えてきて――ハッキリと姿が見えた途端、言葉が出てこなかった。


「怯えないで。私はちゃんと――存在してるから」


 心を見透かすように、目の前の人物は、やわらかい口調で話しかけてくる。


「時間が無いから、手短に話すわね。貴方が今見たのは、私が体験した記憶。話すよりも、こっちの方が手っ取り早いと思ってね」


 にこにこと穏やかに話すその人は、夢に見ていたお姉さん。さっきまで酷いことをされていたのに、何も無かったかのように、笑顔で話を進めていく。


「つまりは、王華と雑華の現状を知ってもらおうと思ったの。雑華の女は、見ての通りただの玩具。遊ぶだけ遊んだら、後は実験台。ま、王華の方も似たようなものらしいけどね」


「それを見ても、私には……」


 どうしたらいいかなんて、わからない。

 困惑する私に、お姉さんはそっと、頭を撫でていく。


「貴方には、これからを決めてもらいたいの」


「こ、これからって……。具体的に、何をしたら」


「大丈夫。もうすぐ、選ぶ時がくるから。――貴方はただ、自分がいいと思った答えを出して」


 そう言って、お姉さんは私の手を握り、祈るように目を閉じる。


「私に出来るのは、これが限界かな」


「限界って」


「色々、体をいじられてるのよ。だから、たまに自分でも自分を抑えられなくなるの。ま、そのおかげでこうやって話せるんだから、ちょっとは感謝しておくけど」


 そう言い手を離すと、お姉さんはすっと立ち上がり、襖を開け放つ。外へ行こうとするお姉さんに、私は思わず腕を掴んだ。


「ま、待って下さい! どこに行くんですか? このままだったら、お姉さんは」




 ――――死んでしまう。




 そんな不吉な考えが、頭を過った。


「……ここには、残れないの。今ここに来れたのは、神様のちょっとした悪戯。本来ありえない奇跡を、体験させてもらっているのよ。そんな奇跡を体験出来たのも――貴方のおかげ」


 私の――おかげ?

 思わず、手を緩めた。

 すると今度は、お姉さんの方からしっかりと手を握り返され、まっすぐ、視線を向けられた。


「そうよ。貴方という存在があったから、私や、私以外の者がしてきたことも、無駄に終わらずにすむの。全てを……終わらせることが出来る」


「終わらせるって……王華と雑華の争い、ですか? そんな大きなこと」


「ふふっ。貴方は、自分の力を信じていれば大丈夫。――そうだ。一つ、貴方に頼みたいことがあるの」


 何かと思っていると、そっと顔を近づけてきて、


「っ!? そ、そんなこと!」


 驚きの言葉を、告げられた。


「もしもの時は、ね?」


 それだけ言うと、お姉さんは笑顔で、あっと言う間に去って行った。




 ……できるわけ、ないよ。




 お姉さんの言葉が、頭を駆け巡る。

 出来ることなら、そんなことが起こってほしくないのに――。




『私を――殺してね』




 もしもの時があるんじゃないかって、考えてしまう。

 どうしようもない思いに、私はただ、涙した。

 自分の存在とはなんなのか。

 悲しくて、悔しくて……。

 お姉さんを行かせてしまった自分が、許せなかった。


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