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人里離れた山奥。
上条は木葉に連れられ、長い長い道を進んで行った。周りは高い木々で囲まれ、月灯りが無ければ見えないほどの暗い道を歩いて行けば――突如として、開けた場所に出た。
目の前にあるのは、大きな武家屋敷。そして木で作られた頑丈そうな門の前には、屈強な男性が一人ずつ、左右に立っていた。
「――通せ」
木葉の一言で、門が重い音を立てて開かれる。しばらく進むと、ようやく、屋敷の入口に辿り着いた。
「相変わらず、こういう場所が好みなのですね」
「えぇ。蓮華様は基本、お一人で過ごされたいようですから。――ここが、長の部屋です」
とある一室に着くなり、木葉は床に膝を付いた。
「蓮華様、客人を連れて参りました」
「――――入れ」
小さな返事。
静かに戸を引くと、木葉は軽く頭を下げ、その場から立ち去った。
「――何をしている?」
面倒そうな声。早く入れと言われ、ようやく、上条は部屋へ足を踏み入れた。
「お久しぶりです。まだ体が思わしくないと聞きしましたが……本当、アナタは無理をしますね」
「――お互い様だ」
布団に横になったまま、蓮華は口元を緩める。
「やはり、美咲のそばにいたか。予知は正確だったらしいな」
「私の行動も……全て、お見通しだと?」
「いや。知っているのは限られている。私が封印されること。子が生まれる時期。そして――お前が、いつ現れるか、だな」
ふう、と息をはき、蓮華は体を起こす。
背中を支えようとする上条だったが、構うことはない、と蓮華に言われてしまう。
「お前は心配のし過ぎだ」
「そんなこと。まだ、不安定なのでしょう? 無理はなさらないで下さい」
「無理などしておらん。寝たままの方が悪い」
「全く。昔から変わりませんね。――女性扱いされるのは、慣れませんか?」
「必要ない。この体の何処に、〝女性らしいか弱さ〟がある? ないであろう?」
自虐的に言う蓮華に、上条は深いため息をはいた。
「そういうところも変わりませんか。ある意味、安心感を覚えます」
「ふっ。お前も人のことは言えまい」
和やかな雰囲気。久々に本音を言い合える者と出会えた安心感からか、二人の表情は明るかった。
「お前、人の世では医師をしているらしいな」
「えぇ。元々、そういった知識はありましたから。蓮華さんは、やはり花を?」
「花もだが、茶もしている。だが、家元としているのは面倒だ」
近況を言い合う二人。ひとしきり話が済んだところで、蓮華は一旦、深呼吸をする。そして――。
「お前に――大事な話がある」
真剣な表情で、話を切り出した。
「美咲のことを、お前はどれだけ把握している?」
「命華……それも赤の命華であり、フィオーレだということ。あとカミガキと言うことも。そして今、覚醒をしようとしていること。あとは……」
言葉に詰まり、視線を逸らす桐谷。それを急かすことなく、蓮華はじっと、桐谷が話し出すのを待った。
「……すみません」
「気にするな。他に、何か気付いたか?」
無言になる上条。なかなか踏ん切りがつかないようで、数回深呼吸をした後、
「――――私の子ども、ですよね?」
ゆっくりと、まっすぐ蓮華を見ながら問うた。
しばらく見つめていれば、蓮華はふっと口元を緩め、
「そうだ。だが産んだのは――私だ」
と、あり得ない言葉を、口にした。
その一言に、上条は思考が停止した。蓮華の言葉がすぐに理解出来ず、しばらく間を置いてから、ようやくその意味を理解し始めた。




