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地下での一室。
ディオスは付き人を従え、再び女性の部屋を訪れた。
「――血が、欲しいか?」
その言葉に、女性は反応を示す。けれど警戒しているのか、ディオスの顔をじっと見たまま、その場から動かない。
「ふっ。そんなに怪しむことはない。今から、お前を自由にしてやる」
「……じゆ、う?」
ゆっくりと、女性は言葉を発する。
ディオスは怪しく微笑みながら、話を続ける。
「そう、自由だ。ここから出られるし、お前があちら側で何をしようと、我々は干渉しない」
「…………血が」
欲しい、と言う女性に、ディオスは鼻で笑う。
すると突然、付き人の首を鷲掴む。そして勢いよく、部屋の中へと投げ入れた。
「ひっ?! く、来る、なっ! 来るなぁーーー!!……、っ!?」
ぴしゃり、血飛沫がディオスの足元にかかる。鼻に突く匂いと、静かになる部屋。それを見たディオスは、事が終わったと理解した。
「血はやったぞ。――早くそこから出て来い」
中から出てきたのは、血を纏った女性。体はやつれているが、長い茶色の髪やドレスが、辛うじて女性だということを見た目で主張する。
「…………服」
口元の血を拭い、女性は要求する。それに頷くと、ディオスは自分の後を付いて来るよう言う。大人しく従う女性は、時折見える外の景色に、暫し足が止まる。
「――――ふふっ」
部屋を出て、初めて女性は、感情を露にした。
「何をしている。我を待たせるのではない」
特に何も答えることなく、女性は男性の後を追う。
着いたのは、服が幾つも用意された場所。煌びやかなドレスや、動きやすい服まで、たくさんの種類が収納されている。その中の一着を手にすると、血に汚れた服を脱ぎ、新しい服に袖を通した。
「―――着替えたか」
戻って来た女性に対し、ディオスは再び、一緒に来るよう言う。女性は相変わらず、静かに後を付いて行く。
「――あちら側の世界に行くには、ここから先にある湖に行けばいい」
外へ出ると、ディオスは湖の方向を指差し説明する。黙って聞くその女性は、本当に自分を自由にするのかと、未だ疑っているのか。緊張感を含んだ目で、ディオスの言動や態度を見据えている。
「もうお前は自由だ。ここから出て行っても構わぬのだぞ?」
しばらくその場に留まるも、怪しい素振りが無かった為か。その言葉に頷くと、女性はディオスの前から姿を消した。
「まずは一つ。――次は」
何を企んでいるのか。怪しく笑いながら、ディオスは洋館へと帰って行った。
洋館へ着くと、ディオスはいつもの席に座り、次の人物を待つ。
「――今度は、どのような用件ですか?」
部屋に到着するなり、少年はすぐさま用件を聞く。それにディオスは、ゆっくりとした口調で話し出した。
「叶夜――北の外れにある洋館を覚えているか?」
その問いかけに、少年――もとい、叶夜は頷くだけで答える。
「あそこにいた雑華が――どうやら逃げ出したらしい」
その言葉に、叶夜は目を見開く。あの場所にいた雑華は特に感染の進行が早く、人間を確実に襲うため隔離していた。何より、希少な女性だったからというのも、隔離する理由の一つだった。
「それが本当なら、命華が狙われてしまう。まずは洋館へ行き、本当に雑華がいないか調べろ。――話は以上だ」
用件を聞くと、叶夜は一礼し、素早く部屋を後にした。
それを楽しそうに見送る、王華の長。それ以外の者たちも、嫌な笑みを浮かべながら、叶夜を見送っていた。
「いよいよ――始まるな」
この後の展開を想像し、ディオスは、部屋に響き渡るほどの歓喜の声を上げた。




