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「――――?」




 特に……変わったことは起きなかった。

 拍子抜けした私は、帰ろうときびすを返した時、




「美咲ちゃん、左手添えるんだよ!」




 大きな声で、雅さんが叫ぶのが聞こえた。それを聞いて、私はもう一度石碑に向かい合った。

 ゆっくり。ゆっくりと手を伸ばす。

 まず指先が触れ、次に、手の平全体が石に触れていく。全体が触れしばらくすると――徐々に、手の平全体が熱を帯び始める。それは次第に熱さを増し、火傷するんじゃないかと思えるほど熱くなっていった。


「っ?! は、離れない?!」


 すぐに手を引いたのに、左手は、石碑から全く離れる気配がない。まるで石の一部になってしまったかのように、いくら動かしても無駄だった。


「なん、で!?――み、雅さん! 先生!?」


 何度も必死に、二人の名前を呼ぶも、それに答える声は聞こえない。

 段々と、目に涙が浮かぶ。痛みと心細さで、混乱しそうなった時、




『――フィオーレ?』




 頭に直接、声が聞こえた。それはとてもやわらかく、心地よささえ感じる。


「だ、……だ、れ?」


『フィオーレ。アナタモ、フィオーレ?』


 痛みで立てなくなった私は、その場に膝を付いた。

 声を出すのも辛くなり、私は心の中で声に答えた。自分は命華だと言うと、声は楽しげに笑い出す。


『ミツケタ。―――デモ、アナタハチガウ』


 違うって言われても……。


「みや、びっ……せん、せ」


 残る力を振り絞り、二人を呼ぶ。すると、声は呼んでも無駄だと言った。


『ココハ、フィオーレノバショ』


「(ふぃ、おーれ? それって一体……)」


『メイカハ、フィオーレ。サイショノナマエハ、カミガキ』


「(よくわからないけど……命華について、話してくれるの?)」


 途端、目の前に温かな色が広がる。

 何が起こるのかと見ていれば、声の主は、楽しげに笑い始めた。


『ヨウヤクキタ。アナタハ、アカノメイカ。――サイショノ、カミガキ』


「(赤の……命華?)」


『ソウ。アカノメイカ。サイショノ、カミガキ』


 正直、意味がわからなかった。

 命華だってことはわかるけど、“赤の命華”や、“最初のカミガキ”って言われても。




『――オルカニキケバ、ワカル』




 言い終わると同時。左手が、嘘のように石碑から離れた。

 仰向けに倒れる体。起き上がろうにも体力が無くて、すぐに、動かすことはできなかった。


「……っ!?」


 左手に、また痛みが走る。でもそれは手の平ではなく、指輪を付けた部分だけが、痛みを感じた。ゆっくり左手を見れば――指輪の石に、色が付いている気がした。

 色なんて、付いてなかったよね?

 どうしてだろうと不思議に指輪を眺めていれば、




『――シナナイデネ』




 そんな言葉が聞こえた。

 途端、体が軽くなっていくのを感じた。起き上がってみれば、少しずつだけど、なんとか体も動いてくれそうで。ゆっくり、来た道を戻って行った。


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