.
どう、しよう……。
ここまで来て、やらないわけにはいかないだろうし。
次第に体は震え始め、どうしたらいいものかと戸惑っていれば、
「――オレも行くよ」
そう言って、雅さんは手に力を込めた。
一緒に……行ってくれるの?
視線を向ければ、雅さんはニコッと笑顔を見せてくれた。それを見てほっと安心したのも束の間。先生は大きく声を張り上げた。
「何を言っているのですか?! アナタは……自分の状況が分かってないのですか?」
「石碑までは行きませんよ。ってか、行けませんしね」
どうしてか、先生は雅さんが石碑に近付くのを快く思っていないらしい。
私としては、一緒に行ってくれるのは心強いけど……それに甘えていいものなのかと、少し戸惑っていた。
「途中までならいいでしょ?」
「しかし、それで進行が早まる可能性も……」
「もう今更ですって。途中までだけど、いいかな?」
「それはもちろん。でも……大丈夫なの?」
一人でって言うのには、なにか理由があるんだろうし。
「大丈夫だよ。――無理はしないから、イイですよね?」
「…………しょうがない人ですね」
渋々ながらも、先生は雅さんも一緒に行くことを承諾した。
先生をその場に残し、私たちは石碑に向かって歩き出した。
辺りはとても静かで、二人分の足音が、いやによく響く。
聞こえるのは、ザッ、ザッという、靴が土に擦れる音。そして時々、砂利や草を踏みしめる音だけ。
少しだけ……空気が冷たい。
会話をしないまま歩き進めているからか、張り詰めたような、緊張感にも似た雰囲気が漂う。
「……っく!」
それは、微かな声。気になって顔を覗かせると……雅さんは徐々に、苦しそうな表情になっていた。
「み、雅さん……?」
「……だい、じょぶ。まだ行けるから」
そう言って、雅さんは笑う。
気丈に振舞う姿に、私は胸が締め付けられた。
「無理しないで! 本当は……辛いんでしょ?」
足を止める私に、雅さんはそれでも行こうと促す。
だけどやっぱり、私はこれ以上一緒に行くことはできない。これ以上は……雅さんが保たないことが目に見えてる。
「ここからは、一人で行きます。雅さんは大人しくしてて」
その場に座らせ、半ば無理やり言い聞かせる。何度か説得をすると、ようやく、雅さんは観念した。
「はぁ……ごめんね」
「気にしないで。さっきより近くだから、一人で行けそうです」
石碑まで、残り十数メートルといった距離。
ちょうど月が真上にあり、まるで石碑を照らしているようだった。
――あと、5m。
ここまで来ると、今までの道とは違い、少し小高く土が積まれていた。
ゆっくり、緩やかな坂を上がって行く。
あと、3m。2、1――ついに、目的の場所に着いた。
「…………はぁ」
思わず、深いため息がもれる。それだけ気を張っていたらしい。
両手に力を込め、よし! と気合い入れた私は、改めて、石碑に目をやった。
そこは、想像していたよりも質素な場所だった。
もっと像とか置いてあるのかと思ったけど、石碑と言われた球体には文字も見当たらない。中央には綺麗な球体の石が置かれ、その周りを、大きさがバラバラな石が円を描いて置かれているだけ。私が思い浮かべていた石碑のイメージとは、だいぶ違っていた。
「ここに……手を添えれば」
ドクッ、ドクッと、大きな音を立て跳ね上がる心臓。
ただ石に触れるだけだっていうのに、冷汗が出てきてしまう。
どこか添えるような場所があるのかと思ったけど、そんな場所は見当たらず。とりあえず私は、石の真上にあたる場所に右手を添えた。




