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◇◆◇◆◇


 夜中に出られるよう、私は準備をしていた。とは言っても、普段どおり過ごして、部屋で迎えが来るのを待ってるだけなんだけど。




「――まだ来ない、か」




 時計の針が、ちょうど十時をさす。

 来るのは十一時ぐらいだから、まだ一時間も余裕がある。特にすることもないので、ベッドに寝転がりながら時間を潰していた。そうしていると……段々心地いい気分になってきて。次第に、睡魔から手招きをされ始める。




「――――ん…」




 頭に、微かな重みを感じる。

 何度か瞬きをして見れば、誰かがいるように見えた。




「あ、起きちゃった?」




 目の前に、なぜか雅さんの顔が。幻覚かと思っていたが、頭が冴えるにつれ、それが現実であることに気付いた私は、慌てて飛び起きた。


「いきなり起きたら危ないよ?」


「ど、ど、どうして!?」


「キョーヤの代わりに来たんだよ。アイツ、他に呼び出しがあるらしいから」


「そう、ですか……。で、でも! だからといって、勝手に入るなんて」


「一応声はかけたんだよ? でも美咲ちゃん起きないし、窓で待ってたら不自然だし。だから中で待たせてもらったんだよ」


 寝てしまったのは悪いけど……だからといって、目の前で寝顔を見られるなんてこと、恥ずかし過ぎる!


「その……心臓に悪いですから、いきなり近付かないで下さい」


「嬉しいな~。それだけオレのこと、意識してくれてるってことでしょ?」


「ち、違いますよ!」


 意識してるのには、違わないかもだけど……。

 多分、雅さんが考えているのとは別じゃないかと思う。


「それより……もう、出かけるんですよね?」


「そうだよ。それじゃあ行こうか」


 そう言って、雅さんは私に手を差し伸べ、


「ご案内しますよ。――お姫様」


 再会した時のように、悪戯っぽい笑みを見せた。


「ふふっ。またそれですか?」


 そう思いながらも、その手を取ろうとした瞬間。


「ん? どうかした?」


 私は、その手を止めた。

 もしかしたら、あの時みたいに抱きしめられるんじゃないって、頭を過ったから。

 自分で起き上がると、雅さんは残念そうな顔をしていた。


「せっかく握れると思ったのに~。ま、いっか。これからもっとくっつけるわけだし」


 そう言って、雅さんはさっと私を抱える。


「い、いきなりやめて下さいよ!」


「大きな声出したら、家の人にバレちゃうよ?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、雅さんはどこか勝ち誇ったような顔をしていた。

 慌てて自分の口を塞ぎ、私は無言で雅さんを睨む。


「そんな顔しないでよ。いきなりしたのは謝るからさ」


「お願いですから、一言断って下さいよ」


「ん~、そうだねぇ~」


 そう言いながら、雅さんは窓際へと歩き出す。

 もう家を出るんだと思った私は、自然と雅さんの服を掴んでいた。


「じゃあ、敬語やめてくれたらいいよ」


 満面の笑みで言うその表情が、とても綺麗で……ちょうど月に照らされた顔は、目を奪われるほどだった。


「……わ、わかりました。――じゃあ、約束してよ?」


「うん、約束ね! もぉ~今の美咲ちゃんカワイイ!」


「きゃっ!?」


 腕に力を込められ、私は雅さんの胸に押し付けられた。かなりの密着具合に、私は気が気でなくて。心臓は一気に跳ね上がり、息が出来ないくらいに感じられた。


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