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太陽が真上になる頃。上条は一人、何やら準備をしていた。
机の上には資料が散乱し、床にもそれが散らばっている。
「――、……!」
叫ぶ声が聞こえ、上条は声のする部屋へと向かう。
行ってみると、そこにいたのは夜に出逢った少年――雅の姿だった。慌てた雰囲気を察してか、上条は宥めるように話しかける。
「随分と早いですね。来るのは今夜のはずでは?」
「待ってられないんですよ。悪いけど……すぐに貰えませんか?」
苦しそうに、雅は頼む。
それに上条は軽くため息をつき、奥の部屋から何かを持って来た。
「一つ、注意をしておきます」
「なんですか? 早くそれが欲しいんですけど……」
急かす雅に待ったをかけ、上条は続きを話す。
「これは、あくまでも試作品です。これが確実に効く保障はありませんが……それでも?」
「……そんなこと」
言うまでもないと、上条が手にしている物を奪う。
それは、どこにでもありそうなタブレットタイプの薬。飲み終えてしばらくすると、雅の容体は落ち着き始めてきた。呼吸も整い、余裕の表情を浮かべられるほど回復している。
「――ホントにイイ物みたいですね」
「それはどうも。ですが、先程言ったとおり、これは試作品ですよ」
「わかってますよ。これでしばらくは保てそうです」
「……助かりたいなら、彼女に頼ることです。私のでは、せいぜい進行を遅らせることぐらいでしょうから」
それを聞いて、雅は少し、苦い顔をした。頼りたくないのか、弱みを見せたくないのか。雅は特に何も答えることなく、別の話題を切り出した。
「ホントに美咲ちゃん――命華なんですよね?」
「えぇ、間違いないですよ。影にも襲われたのなら、もはや確実でしょう」
「だったら早く、目覚めてもらわないと」
「だから今日呼ぶのです。少々強引ではありますが……今後のことを思うなら、それが一番でしょうからね」
あまり気乗りしないのか、上条はどこか不安げだった。
美咲には、今夜あることをしてもらう。それによっては、今後の行動に影響するほどのことを。
「――聞いても、いいですか?」
不意に、雅は訊ねる。
それに振り返り、上条は次の言葉を待った。
「大事なモノを壊した経験って……あります?」
いつもと変わらない表情。けれどその時の声はいつもと違い、どこか儚げな色を帯びていた。
――長い、長い沈黙。
先に動きを見せたのは――上条からだった。
「ありますよ。とても大事な人を――この手でね」
ため息をつきながら、雅の問いに答えた。
「……そうですか」
それ以上、雅は何も聞かなかった。お互いに何かを感じたのか、そのことには深く触れないまま、雅は部屋を出て行った。
「――壊す、か」
資料が散乱する部屋に行き、上条はため息混じりに言う。何を思い出しているのか。机に置いてある物を手に取ると、それを名残惜しそうに、両手でそっと包み込む。
「――話す日が、来たのですね」
それが嬉しいような、悲しいような。
上条の瞳は、暗い色を宿していた。




