表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/191

*****


 太陽が真上になる頃。上条は一人、何やら準備をしていた。

 机の上には資料が散乱し、床にもそれが散らばっている。


「――、……!」


 叫ぶ声が聞こえ、上条は声のする部屋へと向かう。

 行ってみると、そこにいたのは夜に出逢った少年――雅の姿だった。慌てた雰囲気を察してか、上条は宥めるように話しかける。


「随分と早いですね。来るのは今夜のはずでは?」


「待ってられないんですよ。悪いけど……すぐに貰えませんか?」


 苦しそうに、雅は頼む。

 それに上条は軽くため息をつき、奥の部屋から何かを持って来た。


「一つ、注意をしておきます」


「なんですか? 早くそれが欲しいんですけど……」


 急かす雅に待ったをかけ、上条は続きを話す。


「これは、あくまでも試作品です。これが確実に効く保障はありませんが……それでも?」


「……そんなこと」


 言うまでもないと、上条が手にしている物を奪う。

 それは、どこにでもありそうなタブレットタイプの薬。飲み終えてしばらくすると、雅の容体は落ち着き始めてきた。呼吸も整い、余裕の表情を浮かべられるほど回復している。


「――ホントにイイ物みたいですね」


「それはどうも。ですが、先程言ったとおり、これは試作品ですよ」


「わかってますよ。これでしばらくは保てそうです」


「……助かりたいなら、彼女に頼ることです。私のでは、せいぜい進行を遅らせることぐらいでしょうから」


 それを聞いて、雅は少し、苦い顔をした。頼りたくないのか、弱みを見せたくないのか。雅は特に何も答えることなく、別の話題を切り出した。


「ホントに美咲ちゃん――命華なんですよね?」


「えぇ、間違いないですよ。影にも襲われたのなら、もはや確実でしょう」


「だったら早く、目覚めてもらわないと」


「だから今日呼ぶのです。少々強引ではありますが……今後のことを思うなら、それが一番でしょうからね」


 あまり気乗りしないのか、上条はどこか不安げだった。

 美咲には、今夜あることをしてもらう。それによっては、今後の行動に影響するほどのことを。


「――聞いても、いいですか?」


 不意に、雅は訊ねる。

 それに振り返り、上条は次の言葉を待った。


「大事なモノを壊した経験って……あります?」


 いつもと変わらない表情。けれどその時の声はいつもと違い、どこか儚げな色を帯びていた。

 ――長い、長い沈黙。

 先に動きを見せたのは――上条からだった。


「ありますよ。とても大事な人を――この手でね」


ため息をつきながら、雅の問いに答えた。


「……そうですか」


 それ以上、雅は何も聞かなかった。お互いに何かを感じたのか、そのことには深く触れないまま、雅は部屋を出て行った。




「――壊す、か」




 資料が散乱する部屋に行き、上条はため息混じりに言う。何を思い出しているのか。机に置いてある物を手に取ると、それを名残惜しそうに、両手でそっと包み込む。




「――話す日が、来たのですね」




 それが嬉しいような、悲しいような。

 上条の瞳は、暗い色を宿していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ