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「もう帰れ。――お前、おかしいぞ」
「オレはいつもと変わらないよ? おかしいのはアンタだろう?」
叶夜君の手を払うと、苦しいのか、雅さんの呼吸は少し乱れているようだった。
「雅さん……もしかして」
発作なんじゃないかと、頭を過った。私なんかより元気にしているけど、二人は、同じ病を抱えていたんだ。
「あ~そっか。美咲ちゃんも知ってたっけ?」
「やっぱり、発作なんですね? だったら無理しちゃダメです!」
よろける雅さん。それを支えようと近付こうとした途端、
「来るな!」
大きな声が、私の行動を制した。
声を出したのは叶夜君。不穏な空気に包まれる中、私はどうしていいかわからず、叶夜君の指示に従い、二人から距離を保ったままその場に留まった。
「早く行け。今なら、まだ動けるんだろう?」
「……助けるの? 雑華なんて、王華にとったらジャマなだけなのに」
「……別に。ここじゃ、迷惑がかかると判断したまでだ」
「ふ~ん。ま、大人しくするよ」
叶夜君から離れると、雅さんは笑顔を見せた。
「オレ、帰るから。――またね、美咲ちゃん」
軽く手を振ると、雅さんは一瞬にして目の前から消えてしまった。
「一人にして……大丈夫なんですか?」
「あれならまだ大丈夫だ。それより……悪かった」
何が? と思っていると、さっき私に来るなと言ったことを謝っているらしい。気にしてないからと笑って答えたものの、叶夜君の表情は、どこかすっきりしない様子だった。
「あのう。本当に、気にしなくていいんですよ?」
「さっきのことだけじゃない。――最近、まともに話してなかっただろう?」
改めて言われると、さっきまで普通に話していたことが、だんだんと恥ずかしい気がしてくる。
「わ、私の方こそ……助けてくれたのに、あんな態度」
「そんなの当然だ。美咲さんは、初めて見たんだからな」
「それでも、やっぱり失礼でした。――本当に、ごめんなさい」
「いや、悪いのは俺の方だから」
「そんな、私の方こそ」
それから私たちは、お互い謝ってばかりで――気が付けば、お互い笑みをこぼしていた。
「俺たち、謝ってばかりだな。これで解決、ってことにしないか?」
「叶夜君がそれでいいなら」
「当たり前だ。――それで、さっきの話だが」
途端、真剣な表情になる叶夜君。何の話をするのかと思っていれば、今夜のことについて詳しい話を始めた。時間は、夜の十一時を回ったぐらい。その時間に、叶夜君が迎えに来てくれるらしい。
「わかりました。でも……静かにお願いしますね?」
おじいちゃんにバレでもしたら、どう言い訳したらいいかわからないし。何より、余計な心配をかけたくない。
「そこは安心してくれ。一度あがったこともあるし、今日は部屋に直接行く」
……上がったことが、ある?
あげた覚えなどない私は、どういうことなのかと首を傾げていれば、
「具合でも悪いのか?」
と、心配そうに訊ねられてしまった。
「その……いつ、家に?」
その問いかけに、しばらく黙る叶夜君。そして思い出したように、その時のことを話し始めた。
「初めて会った夜、送り届けた時にあがらせてもらった。すぐに起きるだろうと思い待ってたが、全く起きる気配が無くてな」
「それで……私に何かした、と?」
「いや。ただ、家の人には暗示をかけておいた」
「えっ!? おじいちゃんに何したんですか!?」
「安心してくれ。害は無い。さっきも言ったが、美咲さんがなかなか起きないから、病院に連絡してもらったんだ。それと、俺の記憶を消した。他には何もしてない」
「それじゃあ……別に、部屋を物色とかは」
恥ずかしながら言う私に、叶夜君はニヤリ、と怪しい表情を浮かべながら、
「なら、次はその期待に沿おうか」
と、意味深なことを言って歩き出した。
「じょ、冗談ですよね!?」
「さぁ、どうだろうな?」
それだけ告げると、叶夜君はドアの向こうへと行ってしまった。
一人屋上に残された私は、叶夜君の真意がわからず、しばらくその場で混乱していた。




