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 何を――言っているんだ?




 彼女は、自分が美咲ちゃんではないと言う。記憶が無いからって、目の前にいるのが美咲ちゃんでないなんてこと――。


「自分は、その時代に生きていた存在が消えると現れる、模倣の存在です。役目は、この体と残った力の残存を、確実に消し去ること」


 淡々と冷たい表情で述べる美咲ちゃんに、オレは言葉を失っていた。

 模倣の存在だとか。

 消す為に存在しているとか。

 言葉の意味を理解しているのに、心では、それを否定したがっていた。


「全てが終わるまでは、日向美咲を模倣します。特別な感情を抱くことは自由ですが、自分には応えることが出来ません。あくまでも、みんなを護ること。それが自分の、存在を消す以外の役目ですから」


 機械的な言葉。さっきまでとは違う姿に、オレはどうしたらいいかわからなくなった。


「だから――今の口付けは不要です。雅さんが本当にしたい相手は、自分ではありません。姿形は同じでも、中身は違う」


「っ――そうかも、だけど」


「雅さんが思う美咲は、もう居ないんです」


「前に――助けられなかったわけじゃないと言ったのは、嘘だったの?」


「いいえ、嘘ではありません。日向美咲の魂は消えましたが、自分という存在を消されずに済みました。――おかげで、この体と力を奪われることなく、消し去ることができるのですから」


 なんっ、で……。

 なんでそうやって、今回も死を選ぶ。

 どーして美咲ちゃんだけが犠牲にならなきゃいけないんだ!


「そーやって……今回も死を選んで満足? こっちの気持ちなんて、考えたことないっての!?」


  両肩を揺さぶり、思いをぶつける。

  感情を露にするオレとは対照的に、美咲ちゃんは相変わらずの表情をしていた。


「あの時もそうだ。魔女と言われても人間を助けて。それなのにあいつらは、アンタを利用するだけしたらあとはポイだ!」


 鮮明に浮かぶ映像。

 今でもしっかり覚えている。人間を護る為。なによりオレを護る為に、その命を使ったことを。


「雅さん……何を言って」


「知らないとは言わせない。オレは前世のアンタと会ってる! あの時の名前は――フェイ」


「? フェ、イ――」


 途端、美咲ちゃんの表情が崩れた。

 困惑し、小さく何か言いながら頭を抱えたかと思えば、


「あぁぁぁぁーーー!」


 突然叫び声を上げる美咲ちゃん。途端、オレの体は戸を破り廊下に弾き出されていた。




「全く――姫を混乱させるな」




 その言葉を発したのは美咲ちゃん。

 だが、紡がれた音声は全くの別人で――男の声をしていた。


 *****


 叫び声を聞き、蓮華と上条は声の元へ走った。

 そこで見たのは、驚きの表情を浮かべながら部屋を見る雅。ゆっくりと近付き、二人も部屋を見る。


「そこのガキ、お前が余計なことをするから、姫の存在が危うくなっただろうが」


 部屋にいたのは美咲。

 しかし、彼等の目の前にいる彼女は、今までの彼女とはあきらかに違う。声や口調は男そのもので、腕を組み、こちらを睨んでいた。




「お前――何者だ」




 静かに、蓮華が問う。

 それに美咲は、ため息をついてから答えた。


「姫の存在を現世に繋いでいる者、とでも言っておこう。お前――華鬼の長だろう? 隣にいるのは、カルムの中でも古き存在」


 自分たちのことを言い当てた美咲に、蓮華は関心の声をもらす。


「やけに詳しいな?」


「ま、それなりにな。そんなことより――そこのお前」


 ぎろっ、と雅に視線が向けられる。


「お前も前世で繋がりがあるのはわかるが、余計な刺激を与えるな!今の姫には魂が無いんだ。オレまで消えたら、この体を奪おうと別のモノが入るだろうが」


 その言葉を聞き、蓮華と上条は愕然とした。それと同時に、魂が無い美咲がここに居るのは、この者が原因なのだと納得した。




「――悪いが、オレが出ることもよくない」




 片手を頭に当て、美咲がよろめく。


「とにかく――お前は、余計な刺激を与えないよう心掛けろ」


 座りこみ、うな垂れる美咲。

 蓮華がそばに駆け寄り、まだ話しがあると言えば、今は出来ないと告げられた。


「オレがこれ以上出ているのも危うい。――聞きたいことがあれば、今夜にでも、夢に入ってやる」


「ならば、必ず来いよ」


「あぁ……わかってる」


 途端、美咲は倒れこんだ。

 体に触れれば、とても熱くなっている。


「リヒト、お前はミヤビを」


 そう告げると、蓮華は美咲を抱え、別の部屋に移動した。


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