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頭がぼーっとする。肩で呼吸をし、今まで吸えなかった分の空気を体に取り入れれば、頬に優しい口付けが落とされた。
「今更だけど、ホントに大丈夫?」
まだ呼吸は荒いけど、嫌な気持ちはない。だから大丈夫だと答えれば、よかったと安堵の声が聞こえた。
「もうちょっと優しくしたかったけど、オレも男だからさ。ごめんね」
「激しいとは思いましたけど、怖くはなかったので」
「そっか。――ねぇ、抱きしめてもいい?」
頷くと、雅さんは横になり私を抱きしめた。しっかり抱きとめられているのに苦しくは無くて、そっと頭を撫でられて、私の胸が暖かくなるのを感じた。
これを、安心と言うのだろうか。さっきは少し苦しいような、痛いような感覚があったのに、今では妙にすっきりしている。
「なんか……このまま寝ちゃいたいかも」
楽しそうな声。でも、さすがに本当にこのまま寝ることは出来ないので、丁重にお断りしておいた。
「一緒に寝ること自体にはなにも言わないんだ?」
「雅さんなら、何もしないかなと思って。するにしても、事前に聞いてくれそうな気がするので」
「ははっ。信用されてるのは嬉しいけど、オレも男だよ? さっきのだって、理性保つのに精一杯だったんだから」
そう言って、雅さんは腕をほどいてまじまじと私の顔を見た。
「もちろん、無理強いはしたくないよ? でも、止められないこともあるってことは覚えておいて。オレだっていつも優しく出来ないからさ」
「わかりました。――あのう、そろそろ」
離してほしいと言えば、名残惜しそうにしながらも、雅さんはあっさりと離してくれた。
起き上がると、雅さんも起き上がり、私のことを楽しそうな目で見ている。でも、まだ触れ足りないのか、雅さんの手が、私の頬に触れていた。
「なんだか、このまま帰りたくなくなっちゃうな」
「また、明日になれば会えますから」
「それはそうなんだけどね――?」
急に立ち上がる雅さん。私を背にしながら、窓の外を凝視しているように見える。
「あのう。何か――」
あるのですか? と言いかけて、言葉を止めた。そこに見えたのは――。
「お前……なにしに来たわけ」
「落ち着け。今はもう正常だ」
現れたのは、叶夜君だった。見た感じでは、自分の意志で動いているように見える。でも気が抜けないのか、雅さんは警戒をしていた。
「俺が信じられないと言うなら、三つの誓いを捧げる。それなら問題ないだろう?」
「――確かに。三つ目まで捧げるなら、今はホントにお前の意志で動いてるってことになるし」
振り向くと、どうする? と雅さんが言う。
「した方がいいならします。――私は、どうすればいいですか?」
「君はそのまま座っていていい。あとは、俺が言う言葉に同意してくれれば大丈夫」
頷くと、叶夜君が近づいてくる。
雅さんはまだ警戒しているのか、睨むように叶夜君を見ていた。
「一つ目の誓い、二つ目の誓い、そして、三つ目の誓いを、日向美咲に――我が真名を彼の者に晒す」
跪き、叶夜君が私の左手をとる。
「我が真名はノヴァ。今この時より、我は彼の者に三つ全ての誓いを行う。――許しを、いただけますか?」
頷くと、叶夜君は指に血を滲ませ、それで私の手の甲に文字を書いていく。そして、そこに口付けを落とした途端、体から力が抜けていく感覚がした。倒れそうになるのを雅さんが支えてくれて、大丈夫? と気にかけてくれる。
「本式と違って、なんだか疲れるんですね」
「本式? まさかミヤビと?」
そうだと言えば、叶夜君は意外そうな顔をしていた。無理もないかもしれない。以前の日向美咲なら、血を与えることにも戸惑いを感じるぐらいだし。ましてや口付けなんてものをするとわかれば、なかなかおいそれと出来るものではないと思う。
「ってことだから――オレの美咲ちゃんに、変なことするなよ?」
これ以上は触れるなと言わんばかりに、私の左手を雅さんが握る。その表情は、どこか勝ち誇ったような笑みで叶夜君を見ていた。
叶夜君はと言えば、どこかばつが悪いような表情で。二人の間の空気が、なんとなく重いものに感じられた。
「そう言えば――血は飲まなくていいんですか?」
二人に聞くと、今は大丈夫とのこと。それなら安心だけど、必要ならいつでも言って下さいと言えば、雅さんから抱き寄せられた。




