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「? あ、あのう」
「わかってる。わかってるんだけど、ね」
拗ねた様子の雅さん。私には何がなんだかわからないでいると、叶夜君がため息をもらしていた。
「俺に血をやるのが嫌なのはわかるが、今は拗ねてる場合か」
「んなことわかってる! ただ――傷付いてほしくないだけだ」
「だったらお前が護れ。でないと――俺が奪うからな」
宣戦布告とも取れる言葉。先程よりも空気が重たくなるのは明らかで。私はどうしたものかと二人を交互に見ていれば――。
「邪魔をするぞ」
蓮華さんが、部屋のドアを開けた。
「あ、あのう! 叶夜君はもう大丈夫ですから、そのう」
「焦るな。見ればそれぐらいわかる。――お前たち」
じろり、冷たい視線が二人に向けられる。何を言うのかと思えば、私に迷惑をかけるな、との一言が。
「もう時間も遅いのだ。美咲を休ませてやれ。あと、気になるなら外で見張れよ? 特に雅、お前は近すぎる」
「なんでオレだけ指名なのさ!」
「今話をしてる間にもくっついているお前だから言うのだ。ほら、そろそろ離れろ」
蓮華さんに割って入られては、雅さんも従うしかないようで。名残惜しそうにしながらも、私から離れていった。
「今日はこれで解散だ。ほら、男どもは出て行け」
蓮華さんに言われ、二人が窓のところへ行く。叶夜君はすぐに外に出たけど、雅さんはなかなか部屋から出ない。それにため息をつく蓮華さんは、早く行けと睨むながら言う。さすがに怖かったのか、雅さんは一瞬ビクッとしながら部屋から出て行った。
「全く。これだから男は厄介なんだ」
それは、自分も経験したことがあるからなのか。蓮華さんの表情は、どこか複雑そうだった。
「――美咲」
不意に名前を呼ばれ、間の抜けた声がもれる。何かと思えば、契約をしたのか? と聞かれた。
「叶夜君とは、普通の契約を。雅さんとは。本式をしました」
途端、蓮華さんは驚きの声をもらした。
本当に本式をしたのかと聞かれ、私は頷いてそれに答えた。
「真名が――わかったのだな」
「私には記憶にないですけど、日向美咲の記憶が思い出されて、それでわかりました」
「ちなみに、その名を私が聞いても構わぬか?」
「はい。私の名前は、フェリスだそうです」
「フェリス――幸せな、か。いい名だな」
そう言って、頭を撫でる蓮華さん。
でも、真名は無暗に人に教えてはいけないと言われた。本当の名前を知られるのは相手に支配されてしまうことになるからと。
「だからこれからも、その名は秘密にしておけよ」
「じゃあ、人前で呼ぶのは避けた方がいいんですね」
「そういうことだ。それにしても、雅と本式か。これはリヒト辺りが悲しみそうだ」
くくっと笑う蓮華さん。面白い土産話が出来たと言い、それではな、と部屋をあとにした。
リヒトさんって、確か先生だったような気がするけど。どうしてその人が悲しみそうなのかと疑問に思いながら、私はベッドに体を預けた。




