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「オレと――契約をしてほしい」
雅さんは以前、日向美咲と契約を交わしていた。本式と呼ばれるそれをすれば危害が加わることは無かったらしいが、不十分だった為に、私を危険な目に合わせてしまったと謝罪された。
「本当は本式がいいけど……美咲ちゃん、真名とかわからないよね? それなら普通のだけでも――」
言われて、私は思考を巡らせた。記憶にあるのは女性の姿。その人から私は――。
「フェリス、だと思う」
真名だと思われる名前を口にした。どうしてかと聞かれ、私は夢で見た女性から言われたのだと答えた。
「そー言えば、過去が見れたんだっけ。――名前の意味は、わかる?」
「多分――【幸せな】だったかと」
告げると、雅さんは安心したような表情を見せた。真名がわかるなら本式をしようということになり、私は一通りの手順を聞いた。
「あと、これが結構大事なんだけど……」
言い淀む雅さん。何があるのかと思えば、最後に口付けをする必要があると言われた。
「そんなことですか。大丈夫ですよ」
「えっ、そんなことって! 今までなら絶対恥ずかしがってたのに」
「おそらく、そういった感覚も薄れてしまったのかと」
「ま、まぁ契約に支障が無いのはいいことだけど……(あたふたしてほしかったというか)」
最後に、何か言っていたけど聞き取れない。どうしたのかと聞けば、気にしないで、と言われてしまった。とりあえずは――これから本式を始めないといけない。
「深く切る必要はないからね。――始めようか」
そう言って、雅さんは短剣を出す。まずは雅さんが手の平を傷つけ、言葉を発する。
「我が真名は――エル・スウェーテ」
傷ついた手を、私の口に持ってくる。
私も同じように手の平を傷つけ、言葉を発する。
「我が真名は――フェリス」
傷ついた手を、雅さんの口元にもっていく。そして同じ言葉を、一緒に唱える。
「「我らは、血の契約を交わす」」
唱え終わると、私たちはお互いの血を口にした。――そして次は、名前の意味を口にする。
「我が名の意味は、願う翼」
「我が名の意味は、幸せな」
次で最後の言葉。呼吸を合わせ、言葉を紡いでいく。
「「今、この時より――この身は、彼の者と永久に」」
その言葉を最後に、私たちはそっと、口付けを交わした。
唇を離すと、視線がぶつかる。何を言うわけではい。お互い黙ったまま――どれぐらいそうしていたのか。最初に動いたのは、雅さんだった。
「もう一度――したい」
何を? と首を傾げると、唇に指が触れた。
「契約とは関係なしに――したい」
今にも、泣いてしまいそうな表情。その顔を見ていると、胸の奥がチクッとする感覚がする。と同時に、鼓動が大きくなっている気がする。
「出来るだけ優しくするから――ダメ?」
再び、唇に触れる指。
このまま何も言わなければどうなるのか。どうしようかと考えていると、
「黙ったままなら――しちゃうよ?」
艶やかな声。再びチクッとなる胸。鼓動も大きさを増し、私は少し困ってしまった。こんな感覚を、私は知らないから。
「イヤなら言って。無理強いはしたくないから」
「嫌、というか。――胸の辺りが、おかしくなるんです」
その感覚がわからないと言えば、それは緊張かもね、と言われた。




