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 まずは、初めて出会った時の話をした。

 夜の公園で、オレが吸血しようと人を惑わす香りを放っていた時に出会ったことを。

 聞いても、やっぱり覚えていないのか、美咲ちゃんは首を傾げていた。


「とは言っても、美咲ちゃんは他の人間と違って会話が出来たし、もしかしたらそーいう術関連に耐性があるのかもね」


「それは、病気のせいとかでしょうか?」


「どーだろうね。病気関係はリヒトさんに聞いてみて」


「わかりました。それで、続きは?」


 促され、オレは続きを話し始めた。

 次に会ったのは、その日から一週間後。学校帰りの美咲ちゃんを待っていた。この時はオレの目が効かないのと、命華じゃないかってことで、興味がわいてちょっかいかけたんだよな。その時のことを話せば、その辺りのことは少しはわかると告げられた。


「もしかして……記憶が」


「日記にありました。全てではないけど、その辺りから、叶夜君と雅さんの名前が出てくるようになりました」


 ……なんだ、日記か。思い出したと思ったのに。

 少しでも喜んでしまった自分が、なんだか恥ずかしくなってくる。


「見てほしいものがあるのですが――」


 いいですか? と、聞かれた。

 頷くと、美咲ちゃんは本棚から一冊の本を手にしてきた。

 指された部分を見れば、そこにはオレとキョーヤのことが書かれていた。

〝叶夜くんは、真面目で優しい人〟

〝雅さんは、明るくてノリがいい人〟

 明るくてノリがいい人、か。

 この時、そんなふうに思ってくれてたんだ。

 これがどうしたのと聞けば、美咲ちゃんは次のページをめくり指した。

〝だけど――時々、辛そうな雰囲気がある〟

 そしてその後には、どうしたら笑ってくれるだろうとか。

 淋しい顔をさせないですむのかというような言葉が綴られていた。


「文章を見ただけではわかりませんでしたが、今の雅さんの様子と、話していて、少し理解できました。雅さんは――とても強い、贖罪の念にかられているんだと」


 まっすぐ、美咲ちゃんがオレを見つめる。まるで心を見透かすような瞳に、身動きが取れなくなってしまう。


「最初は、日向美咲に対してだと思っていましたが――他のことで、なにか大きなことがあったのですね」


「……どーして、そう思うの?」


「雅さんが自分に触れた時、見えたんです。自分に懺悔をしている時に、雅さんの思考が」


 理由はわかりませんけど、と付け足し、美咲は日記をしまった。

 触れた時に見えたって……。

 オレの記憶全てが見える、ってことなのか?

 命華特有の力なのかと考えていると、


「雅さんは今――悲しいですか?」


 不意に、そんな言葉が耳に入った。


「まぁ……少しは」


 視線を外し、そう答えた。

 それは、正直な感想。こうして目の前にいてくれるのは嬉しいが、手放しで喜べるわけじゃない。忘れられてしまったという事実は、やはり悲しいものだから。




「自分が――なんとかする」




 静かに告げられたのは、思わぬ言葉。

 再び視線を向ければ、真っすぐな瞳が、オレを見据えていた。


「日向美咲は、雅さんに心から笑ってほしかった。自分にあるのはみんなを護ること。なら、辛い思いから雅さんを護るのも大事なことになる。――だから」


 表情は乏しいものの、言葉はとても温かく。

 いくら記憶が無いといっても、やはり、彼女という根本は変わっていないのだと実感した。


「今の自分が――雅さんを護る」


 美咲ちゃんが……オレを護る。

 嬉しいが、そういうのは男の台詞だ。

 君がオレを護るというなら、オレは今の君に、再び誓いをしよう。


「オレも今度は必ず――君を護る」


 記憶があろうとなかろうと、この思いは変わらない。

もう、後悔などしてたまるか。



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