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目を覚ますと、全身にダルさがあった。特に首や下腹部の違和感は強くて、それで改めて、自分はされたんだなって実感してしまった。
首に手を伸ばせば、誰が巻いてくれたのか、包帯の感触があった。いつの間にか服も新しくなってて、体を起こして見れば、飾り気のない白いワンピースを着せられていた。
「――――きぃ、ぁ」
近くに叶夜君がいると思ったのに、部屋には私しかいない。
これから……どうなるんだろう。
たくさんの人に襲われるのは今のところなさそうだけど、叶夜君の相手をし続ける可能性はある。
ベッドに横たわり、天井を仰ぐ。
叶夜君と話したいけど……もう、本当にできないのかなぁ。体にあった傷跡。あれを見たら、もしかしたら今も、酷いことをされてるんじゃないかって――。
「――お目覚めでしたか」
音の方を向けば、執事服の少年がドアを開けていた。
「紅茶をお持ちしましたが――飲まれますか?」
目の前に、カップが差し出される。――甘い香り。でも、それでいて爽やかさも少しあるそれからは、どことなく懐かしい感じがして。
「熱いので、お気を付けて下さい」
自然と体を起こし、カップを受け取っていた。
一口含むと、じんわり温かさが広がり、気分が穏やかになってきた。
「お口に合いますか?」
小さく頷けば、それはよかったと、少年は安心したような表情をしていた。
「今は体が思わしくないでしょうが、しばらくすれば落ち着くはずです」
あんまりにも嬉しそうにするから、なんだか恥ずかしくて……。目を合わせられなくなった私は、視線を下に向けていた。少しでも離れてくれたらって思うのに、相手はそばに立ってるまま。ようやく紅茶を飲み終えると、今度は目の前に膝を付くなり、
「おかわりは?」
と、満面の笑みで聞かれてしまった。首を横に振ると、少年は私からカップを取りテーブルに置いた。
「これから――選択が待ってる」
真剣な声で、そんな言葉を告げられた。
「選択……?」
驚いた。思わず聞き返したけど、まともに声が出るなんて思わなかったから。でもそんな私をよそに、少年は隣に腰を下ろし話しを続けていく。
「これから自分が何をするか――それを決める選択だ」
決めるって……エメさんが言っていたもの?
「ったく。自分のことだけ考えろとあれだけ言ってきたのに――どうせ、今度も聞く気なんてないんだろう?」
苦笑いを浮かべる少年。まるで、昔から友人だったような口ぶり。急に素を見せられたような……さっきまでとは違う雰囲気に、私は戸惑ってしまった。
「こんなことなら、本体で来るべきだった」
伸ばされる手。思わず後退したものの、まだ体の方はあまり動けなくて、たいしてその場から動くことができなかった。
「選択は、確実に負担がかかる」
私の髪をひと撫ですると、穏やかな声がふってきた。
次に私の左手に触れ、その手を少年の胸元に持っていかれる。何をするのかと思えば、印を渡すと、訳のわからないことを言われた。
「心配するな、害はない。それに――アイツらも必ず戻ってくる。オレたちは、そういう誓いをした面々だからな。信頼して損はない」
戻って来るとか、誓いをしたとか。おまけに、信頼とか言われても……。
〝いくら相手が優しくても、簡単に隙を見せちゃダメ〟
あの言葉を言われた私には、前みたいに、信頼を抱き続ける自信なんてない。もう、誰も来ないんじゃないか。味方なんていないんじゃないかって、そう口に出してしまいそうなほど、私の心は、どんどん弱くなっていた。
「――大丈夫。情事は起きていない。お前の血を吸ったのがよかったのだろうな」
今、少年はなんて言った? 情事は起きてない? そんなこと――。
「だ、だって……体はこんなにも気だるいのに」
「寸前のところで、お前の血が作用したんだ。――だから、お前は清いままだ」
だから大丈夫、と少年は頭を撫でる。
「何を見せられても惑うな。己の心に――正直になれ」
告げると、少年はさっきまでの雰囲気に戻り、丁寧な仕草で私を抱えた。
「では――参りましょうか」
この人の言葉は、どこまで本当なのか……。色んな考えが巡って、どうしたらいいのかわからない。もし、今なにか決めなくちゃいけないってなっても、正しい答えなんて出せない気がする。
「――連れてきました」
ぎぎぎ、と音を立てて開く扉。ロウソクの灯りだけで部屋を照らしているそこには、ぼぉーっと立つ叶夜君と、豪華な椅子に座る王華の長ともう一人――黒くて髪の長い、人形のようなモノが見えた。




