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どれだけ経ったんだろう……。部屋で一人になってから、随分と長いような気がする。
動こうにも、元々動かし辛かった体は、雅さんに置いて行かれたショックが大きいせいか、余計に動かし辛かった。
これからのことを考えたら、下手に希望は持たない方がいいのかもしれない。相手が叶夜君だってことはせめてもの救いだけど、向こうの手に堕ちているなら、もう私が知っている叶夜君じゃない。もし……私のことがわからないなら。その時はいっそ――?
ギギッ、と音をたてドアが開く。顔だけ向ければ、そこにはさっきの少年と、後ろには叶夜君が立っていた。
「せっかくですから、多少会話が出来る程度にはしています。しかし、長の命令には逆らえない。仮に自我が回復したとしても、逆らう行動はとれませんので」
本当……とことんへこむことを言ってくれる。さっきよりは諦めがついたつもりだけど、改めて言われるとさすがに悔しい。
ふらふら近付いて来る叶夜君。表情はとても虚ろで、横に来るなり流れるような仕草でベッドに入って来た。覆いかぶさるなり、叶夜君はじーっと、私の目を見つめてきた。
「長から命じられたとり、お願い致しますよ」
告げると、少年は部屋から出て行った。
……会話ができるって言っていたけど。
あまりの静けさに、息遣いが聞こえるほど。この家には二人しかいないんじゃないかと、怖いぐらい他の音が無い。未だ、一言も口を利いていないのはおろか、私に触れることすらしてこない。このままだったらもしかして……なんて、そんな小さな可能性にすがりたくなっしまう。叶夜君に向けていた視線を落とすと、はだけた胸元に傷が見えた。よく見れば、手首にも赤い線が幾つもある。あきらかな折檻。それも、肉が抉られるほど。あまりに痛々しくて……胸の底から、息苦しいチクチクした感覚がわいた。
無言のまま、叶夜君の右手が私の胸倉を掴む。視線を合わせれば、ほんの一瞬、叶夜君の瞳が揺らいだ。それでほっとした。これは本当に、叶夜君の意思じゃないんだって。自由に話せないけど、それを見れば一目瞭然。襲われるのは嫌だし、なにより初めてがこんな形で、なんて思うけど。少しでも、叶夜君の本心がわかってよかった。少なくとも、その一点があるだけで私は――。
「――――せめ、て」
振り絞られた声。なんて言ったかわからないけど、なんとなく、謝ってるような気がする。
「――――ぁ、、、ぅあ」
擦れた呻き声に、赤く色づく瞳。
体勢を低くし、獣のように四つん這いになるのを見て、これでもう、まともな言葉は聞けないと思った。
勢いよく、服が剥ぎ取られる。元々、抵抗なんて出来ないからされるがままだけど、今は心の底から、抵抗しようだなんて気は起きない。
ぴちゃり、音がする。生温かいモノが足の甲から這い上がり――感覚に震えた。
執着に、執拗に。丹念に舐められる肌。感覚だけがやけに敏感で、舌が触れるたび、気が振れそうなほどの痺れが走る。
引き裂かれるスカート。片足が持ち上げられ、視界に叶夜君の顔が見える。目が合った途端、恥ずかしさと驚きで声がもれた。
反応が好ましいのか。より一層、丁寧に足を舐めまわす舌。唾液は粘着質を増していき、飴のようなどろっとした液体が、下半身にまとわりつく。
「――――ぁう、、んッ…」
悩ましいまでの吐息。ひとしきり太ももを堪能すると、ネジが切れかけた人形のように、鈍く、のっそりと胸に這い上がってきた。滴る唾液は、下着の上からでも肌を濡らしてしまうほど。啄むように胸の形をなぞる舌に、自分でも信じられないほど、淫らな声をもらし始めていた。あまりにも強い感覚……鋭敏過ぎるそれに、なんとか堪えようと目を閉じれば、
「――――あぅ」
左肩に食い込む歯。味わうよう、ヒルのようにぴったり吸いつく唇は、迅速に、けれど一滴も零すことのないよう。意識を失うギリギリの量を、私の体から奪っていった。
再び胸元に置かれる手。その手は、私の体を隠している最後の布を引き千切った。露になった肌。見られて恥ずかしいって思うのに、いつもみたいに熱は上がらない。むしろその逆。体はどんどん冷たくなるばかり。でも、だからといって意識が飛んだりはしない。頭はやけに冴え冴えし、一つひとつの動作。叶夜君の呼吸音まで記憶するほど。脳だけは、活発に動き続けていた。
――日向美咲が体験した、現実の悪夢。
それは、過去に何度となく繰り返された、終わりへの合図。
*****
気配と血の匂いを辿れば、そこは古びた洋館。扉を開けてすぐには、絶命した雑華の遺体が数体。
「本当――やってくれますね」
殺したのは気配からして叶夜だが、美咲を連れ去ったことには雑華も関係している。上条はより一層、冷たい雰囲気を漂わせはじめた。
「全く。冷静が取り柄のお前が珍しいな?」
「私でも、時と場合によります」
「そう興奮するな。判断を鈍らせる元だぞ? 美咲は絶対に殺されない。そんなことは、長が絶対に阻止する」
「そんなことっ」
「なんだ、何かあるというのか?」
「…………いっそ、殺された方がいいこともある」
物騒な発言。苦虫を噛み潰したような顔で、上条は続ける。
「歴代の命華の扱い……忘れたわけではないでしょう? 何人もの男と交わり、血を採取される日々がどんなに長かったことか! ここには彼女の血の匂いもある。いくら殺さなくても、そういった事態にならないと言えますか!?」
あきらかに冷静さを欠いた態度。面倒臭いのか、蓮華は大きなため息をもらした。
「言っておくが、それを美咲自身で望む場合もあるということを忘れるな」
全てが全て、無理強いされたわけじゃない。中にはそれが必要だと判断し、条件を付けてその身を差し出した者もいる。美咲の性格からすればそれをやる可能性があると、蓮華はキツい口調で明言した。
「だいだい、お前は学習能力が無さ過ぎる。シエロの時を思い出せ。冷静さを欠いた結果、面倒なことになったでは――?」
膝から崩れ落ち、両手で地面に手を付く。
自分自身、何が起きたか困惑する蓮華。だが記憶を巡らせるうち、不本意だが、思い当たる節が一つあることに眉をひそめる。
「――――儀式が、始まる」
呟く蓮華の顔は、酷く青ざめていた。




