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◇◆◇◆◇




 …………体がっ、おもい。




 目が覚めて最初に感じたのがそれだった。

 次に感じたのは、のどから胸にかけてある嫌な違和感。声を出しても、それが言葉として口から出ることはなく。擦れるような、意味の無い音でしか発することができない。




「――――早く返せ」




 強い口調。誰だろうと視線を動かしてみれば、自分が縛られて横になっていることが今更わかった。

 どこかの部屋にいるのはわかるけど、そこにさっきの青年――琥珀さんの姿はない。


「叶夜様より早く連れて来るとは意外でした」


 顔を上げれば、隣に立っているのは雅さん。そして離れて前に立っているのは、茶色い服を着た、同じ年頃の少年だった。


「では、今からお連れしますので。――くれぐれも、変な気は起こさぬよう」


 笑みを浮かべながら、少年は部屋から出て行った。


「ぁう……、あぅ、ぁ」


 なんとか、雅さんに呼びかける。すると――。


「そのまま寝てればいいのに」


 覇気の感じられない表情が、私に向けられた。何を考えているかわからないその様子に、怖くて目が離せない……。


「ここは王華の長の屋敷。エメを取り返す為に、アンタを連れて来た」


 しゃがみ込み私と同じ目線になると、雅さんは淡々と続ける。


「これからアンタは、長が自我を保てるよう専属の供給者になる。でも安心しな。殺されたりはしない。むしろ、なにがなんでも生きながらえさせるだろうから」


 ザザッと、断片的に見える光景。長はきっと、血だけを求めていない。エメさんの時を考えたら、私はこれから――。




「――連れて来ましたよ」




 少年が戻って来ると、その腕にはエメさんが抱えられていた。急いで駆けよる雅さんに、少年はエメさんを渡した。


「約束は護りました。では――命華は頂きます」


「っ……ぃぁ、、、びさ」


 呼びかけても、雅さんは振り向かない。もう私の声なんて届かないかのように、部屋を出ようとしている。


「っ!? ぃ、…ぁびっ、、、みぁびっ」


 嫌だっ。置いて行かないで……!


「長の邪魔だけはしないよう、お願いいたします」


「あぁ、わかってる」


「ぃぁ、、び……」


 何度言っても返ってくる声はなく――バタンッ、とドアが閉まる音に、私の中でなにかが壊れた。




「貴方には、叶夜様の相手をしていただきます」




 抱えられ部屋を移動する間に、少年はこれからのことを笑顔で話していく。


「昔は大勢の輩に晒されるのが当たり前でしたが、そのようなことは致しません。――もっとも、貴方が協力をしてくれればの話ですが」


 早い話、複数で襲われるか、叶夜君一人がいいか選べということらしい。


「ちなみに、叶夜様には強い薬で自己を弱めています。これ以上の投与は、自己を回復する妨げになるどころか、廃人にしかねません」


 きっと……この人たちは心配なんてしていない。以前見た過去でもそう。王華以外は実験台としか見ていなかった。


「それから、貴方と交わしたであろう契約は消去させていただきましたので、真名を呼ぶことでどうにかしようなどと考えませんように」


 っ! もしかしたらって……叶夜君が動ければ、助けを呼べるかもって思ったのに。




「貴方は――どちらを選びますか?」




 選びますか、だなんて……選ぶ余地なんてないのに。


「どうか、お答下さい」


「――きぃ、が…」


 小さく告げれば、少年はわかりましたと頷いた。


「では、こちらでしばらくお待ち下さい」


 部屋に入ると、少年は私をベッドに寝かせ拘束を解く。そしてお辞儀をすると、叶夜君を呼びに行った。




 私……されちゃうん、だ。




 ははっ、と思わず笑いがもれる。

 悲しいんだかおかしいんだか。ぐちゃぐちゃでわからない感情が、胸いっぱいに広がっていた。


『簡単に信用しちゃ……ダメだよ?』


 そういえば、雅さんに言われたっけ。


『いくら相手が優しくても、簡単に隙を見せちゃダメ』


 あははっ……まんまと騙されちゃった。

 自分で自分を護ることも。

 誰が自分の味方なのかも。

 ちゃんと見極めることができていたら、こんな気持ちにならなかったのに……。


『ホント――楽しかった』


 あの言葉も、優しくしてくれたことも全部……嘘だったんだ。


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