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*****


 王華の長がいる洋館では、今まさに、準備が整いつつあった。

 大広間の一室。光を完全に遮断されたそこには、小さなロウソクの灯りだけが存在していた。

 叶夜が持って来た箱。雑華の古い種であるエメ。獣が採取した大量の血液。これらは全て、目的の為には欠かせないもの。

 ――中央の陣に、叶夜が箱を置く。よく見れば、箱を握る手からは血が滴り、肉が露になっていた。顔色一つ変えず淡々と指示に従うその様は、まさに人形同然。


「本っ当……どこまで貴方はっ!」


 縛られながら、エメは隣にいる男性、ディオスに敵意を向ける。


「そんなことしても無駄だってわからない!? こんなんじゃ、どちらの種族も助かるなんてっ」


「助かるつもりはない」


 予想外の言葉に、エメは間の抜けた声をもらした。

 助かる為の行動ではない。だとしたらどんな目的があるのか? 幾ら頭を働かせても、その答えが導き出されることは難しいようだ。


「我は――花を求める」


 それは命華のことではないのか。余計に混乱するエメに、ディオスは続ける。


「花さえあればよい。他のことなど、我の関するところではない」


「だ、だからって。箱の中身を出すなんて、自分だって無事とは限らない!」


「お前たちはそうだろうな。だが我の中には――【本物】が住まう」


 胸に手を当て、ニヤリ怪しく笑う姿は恐ろしく。これ以上反論出来ないほど、エメに威圧を与えていた。




「――――始めろ」




 合図を聞き、周りにいた獣は血をぶちまけ絶命した。確認すると、叶夜は懐から短剣を取り出し、箱目がけ振り下ろした。




 ギぃヤぁぁーーーア!!




 貫いた途端、断末魔の叫びが耳をつんざく。

 箱からは声だけでなく、強力な風をも生んだ。間近にいた叶夜は弾き飛び、壁にめり込むほどの衝撃を放っている。

 その中でも――ディオスは笑っていた。

 目前に迫った望み。それがもうすぐ報われると思えば、こんな痛みは些細なものにすぎない。

 ――風が止む。

 部屋は静けさを取り戻し、ディオスの笑い声が響き渡っていた。


「ははっ――つい、に。あははははははっ! ようやく我の望みは成就された。幾千年と待ちわび、何度輪廻を繰り返したことか! 我だけの花――お前と言う花が、今目の前に!!」


 ふらつく足取りで、ディオスは布陣を目指す。そこには、先程まで存在しなかったはずの女性が横たわっていた。漆黒のような黒々とした長い髪。桜のような淡い瞳を持つその者は視線だけを動かし、自分のそばに来た男性、ディオスを見た。


「少量でも戻れたか。――言葉は理解できるか?」


 ゆっくり頷く女性に、ディオスは笑みを浮かべた。


 *****


「ちょっと! 貴方の探し人ってあの子だったの!?」


 青年を見つけるなり、少女は強い口調で問い詰めた。


「黙ってたわけじゃない。最近知ったことだ」


「だったら早く言いなさいよ! あの子、こっちでも話題に上がってんのよ!?」


 目を見開く青年に、少女は尚も続ける。


「このまま封印対象ってことになったら、あっちはあの子を狩る。そうなったら自由なんてない……同じこと、あの子にさせたいの!?」


「…………そんなわけっ」


 あるはずないと、青年は険しい表情で言う。


「だが……向こうに行く術がない。動きたくても、今は何も出来ない」


「私に言えばいいでしょう? なんの為の主よ!」


「……いや、従者が主に頼み事と言うのは」


「関係ないの。今どうしたいか――ハッキリしなさい」


 本当なら、その申し出は青年にとって嬉しい話。だがそうすれば少女に負担がかかるのは必然。だから素直に、自分の思いを口にするのがはばかられた。


「…………」


「――あぁ~じれったい!」


 懐から小瓶を取り出すと、蓋を開け中身をばらまいた。中から出た粉は数個の塊となり、徐々に蝶の形を成していく。


「緋乃にも手伝ってもらうわ。貴方はあの子に関すること、さっさと吐きなさい!」


 腕組みをしながら立つ少女。言わなければ攻撃でもしかけてきそうな雰囲気に、青年はため息をはいた。


「主は【特別】がわからない。誰か一人だけを思うことは出来ないんだ。今のような人間が生まれるずっと昔――神や魔など、そういった存在と共存していた時からだ」


 青年がかなり古い存在だとは知っていたが、そんな時代にまで遡るとは予想していなかったようで少女は唖然としていた。


「たとえ誰かに思いを寄せたとしても、いつも結末は同じ……最終的に、主は殺される」


「じゃあ、死なない為には特別を作らないことがあの子の為なの?」


「いや、そんなことをしても変わらない」


「何よそれ。そもそも、普通に生きてたら誰かに思いを寄せるぐらい」


「だからこその呪いだ。当たり前にある感情だから、それが欠落した状態で生きている時代では人間から差別され攻撃される。思いを寄せずに生きれたとしても、いつも若いうちに殺される――どちらにしろ、主は一定の時期になれば殺されるしかない」


「貴方のことだから、きっと何度も助けようとしたんでしょうね。――そして何度も、願いが届くことはなかった」


 黙りこむ青年。顔をしかめている姿を見ると、少女の言葉は当たっているようだ。


「でもさ、それってちょっとおかしくない? そんなに古い時代に力を持ってた存在なら、いくらなんでも自力でどうにかできると思うんだけど」


 腕を組み変え、少女はう~んと唸る。


「まぁいいわ。今後はあの子のことも視野に入れて動くこと。いいわね?」


 お節介な言葉に、青年は口元を緩める。


「貴女は相変わらずだ。後から仕事が増えたと文句を言わないで下さいよ」


 告げると、青年はまずいつもの仕事をこなしに空を駆けた。


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