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「…………」


「その様子だと、結構キツい内容?」


「女性には、相当なものだと」


「あぁ~なるほど。美咲ちゃんも知っちゃったんだね。雑華がどう扱われてきたかのか」


 天井を仰ぐ視線は遠く、淡々とした感情のない口調が続く。


「じゃあ、エメが襲われてるとこ見たわけだ?」


「っ……そうです」


「他になにか言われた?」


「王華と雑華の、これからを決めてほしいって」


「――――そう」


「っ!?」


 急に、私の左肩に雅さんが寄りかかって来た。どうしたのかと聞こうとしたら、





「なに……してきたんだろう」




 と、弱々しい言葉が呟かれた。自分自身に対してなのか、雅さんは大きなため息をついていた。


「オレがしてきたことって、無意味だったのかなぁ……」


 今まで、どんなことをしてきたかなんて知らないけど、それまでに得た過程は、きっと自分の実になるだろうし――。


「無意味なことなんて、ありません。もしそうだったとしても、誰かに頼ればいいんです。一人では難しくても、二人でやれば、違う結果になると思います」


 口元を緩め、私はそんなことを呟いていた。




「――――バカだよ、アンタ」




 よく聞こえなかったけど、今、バカって言われたような気がっ!?


「なら――美咲ちゃんに頼ろうか」


 ぐいっと体を引き寄せられ驚いていれば、


「オレと――契約してよ」


 艶やかな声が、耳元で囁かれた。

 目の前には雅さんの胸があって、間近に聞こえる心音に、私はなんだか落ち着かなかった。


「それ、って……叶夜君と同じ契約を?」


「アイツとしたんだ? でも、口づけはしてないでしょ?」


「手の、甲になら……されました」


「なら安心。オレと、本式の契約してよ」


 本式って確か、エメさんがしていたあの契約?


「アイツがしたのと違って、これをすると、オレたちはどんなに離れても互いの居場所がわかる」


「居場所がわかるだけなら、叶夜君としたのと変わらないんじゃあ」


「全然違うよ。アイツとしたのは、言わば主従関係。美咲ちゃんの命令には絶対従うって誓い。でもこっちは時々、契約が消えることがあるんだ。意図的に消す場合もあるけどね。

 対して本式は互いが平等。一方的に命令はできないし、一方的に破棄したりもできない。なにより重要なのが――相手を、絶対殺せないってこと」


 顔を見合わせると、雅さんはどこからか小さな刃物を取り出した。


「やり方はまず、互いの手の平を傷付けて真名を明かすんだけど、美咲ちゃんは真名とかないから、そのまま名前を言って。そのあとは一緒に「我らは、血の契約を交わす」って唱えたら、互いの血を舐める。次は名前の意味を言うけど、美咲ちゃんはナシでイイから。そして最後に「今、この時より――この身は、彼の者と永久とわに」って言って」


「複数契約を交わして、大丈夫なんですか?」


「アイツとしたのはね。本式は一人だけ」


「一人? それって、すごく大事なことなんじゃあ」


「深く考えなくてイイよ。イヤなら、事が終わったあとに破棄するから」


 必要なことみたいだし、せっかく頼ってくれてるんだから、断わる理由はない。


「本式――したくない?」


「いえ、そんなことはっ」


 ただちょっと、手の平を切るってことが怖いぐらいで。大丈夫だからと言い、契約を始めてもらった。


「大きく切る必要ないから」


 深呼吸をし、目を閉じる雅さん。数回繰り返し落ち着いたのか、目を開けると、静かに言葉を口にし始めた。


「我真名は――エル・スウェーテ」


 手の平を切ると、刃物を私に渡す。


「我真名は――日向美咲」


 ちょうどケガをしている左手に、刃物を当てる。じわり血が滲んできたのを見ると、雅さんは刃物を取り横に置いた。そして私の手を自分の口元に持っていくと、自分の手も私の口元に持ってきた。


「「我らは、血の契約を交わす」」


 雅さんが口にするのを見て、私はおそるおそる血を舐めた。




「我真名は――翼を願う者」




「「今、この時より――この身は、彼の者と永久とわに」」




 叶夜君の時とは違って、今のところ体に変化はない。薬を絶って間もなかったせいかと思えば、雅さんは未だ、まっすぐ射るような視線を私に向けていた。


「――まだ、やることでも?」


「――最後の仕上げ」


 呟くと、雅さんは距離を詰めてくるなり、


「っん!?」


 ついばむような、キスをしてきた。




「これで――本式契約完了」




 頭の中が真っ白で……何を言っていいかわからない。

 今までキスなんてものを経験したことがないのに、初めてがこんな形でしちゃうなんて……。


「最後の言うと、美咲ちゃん逃げると思ったから」


「だ、黙っていられる方が嫌ですっ」


「ごめんごめん。ってか、また敬語に戻るの?」


 まるで、待ってましたと言わんばかりの笑み。

 なんとなく嫌な予感がして、私は徐々に、後ろに下がり始めていた。


「次敬語使ったらどうなるか――忘れた?」


 そう言えば、前にそんなこと言ってたような気が。




「ってことで――もう一回しようか」




 顎に手を当て、キスをする体勢に入る雅さん。思わず手で顔を覆い、無理だからと断り続けた。


「えぇ~約束したじゃん」


「してませんっ! そ、そんな軽々しくするものじゃないのに」


「結構真面目なんどけどなぁ~。ま、次は容赦なくするから――そのつもりで」


 ものすごく満面な笑みで、一方的な約束をされてしまった。

 とりあえず、今はこれ以上迫ってくることはないみたいだけど、次は容赦なくって言ってるあたり、本当の本当に実行にうつしそうだ。




「――――まだかかるの?」




 ドアの向こうから、さっきの人の声が聞こえる。

 雅さんが返事を返すと、男の人の案内で、雅さんに抱えられながら移動を始めた。


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