第46話 報告 そして
洞窟から出るとキシャ村の3人が駆け寄ってきた。
「勇者様! 大丈夫ですか?」
「で、ゴブリンはいましたか?」
トマスたちが訪ねてくる。
「ゴブリンは退治した。ゴブリンロードが率いた群れだったみたいだ。だいたい50匹くらいいたよ。」
「え? 50匹も! しかも、ゴブリンロードまでいたんですか?」
「それをひとりで? それは、すごい……。」
トマスとオリバーがあっけにとられて言う。
「カッカッカッカッカ」
あんたは相変わらずなんだな。
それにしても、キシャ村の3人はおとなしく茂みに隠れて待っていたみたいだ。てか、一体何しに来たんだこいつら。なんかのフラグかと思ってびくびくしてたよ。
「勇者様。本当にありがとうございます。これで私たちの村も一安心です。」
3人に礼を言われる。冒険者なら討伐の証に体の一部(ゴブリンなら右耳)を持ち帰るらしいのだが、今回はギルド経由の仕事ではないからトマスの確認で事が足りるらしい。
やることはしんどかったけど、こうやって礼を言われると嬉しいもんだな。そういや、この間の会戦の時は誰も礼を言ってくれなかったな。礼を言ってもらいたいからやったわけじゃないけど、それとこれとは別だよな。やっぱ、努力したことは褒めてもらう方が嬉しいもんだ。
なんてったって俺は『褒められて伸びる子』だからな。
「勇者様がゴブリンを退治したこと、確かに確認いたしました。」
洞窟の中からトマスがでてくる。あれ? いつの間に。
そうか、トマスがここまで来てたのは、俺がちゃんと退治するかどうかの確認のためもあったんだな。
「後の始末は私たち村の者がしておきます。」
オリバーが言う。聞くと、退治した魔物はそのままにしておくと新たな魔物を呼び込む餌となったり、腐って病原菌をばらまいたりするらしい。なので、キシャ村の村人たちで後で燃やすと言っていた。それと、ゴブリンはまずいらしい。
「ゴブリンロードの魔石も回収しておきましたので、私が報告と同時に渡しておきます。」
トマスがなにやら手に持ちながらそう言う。
「魔石?」
「はい。ゴブリンロードのような上位の魔物の体内には、魔力が結晶化された『魔石』と呼ばれる物があります。」
そういって、手に持っていた物をトマスがみせてくれた。
「これが、今回採取したゴブリンロードの魔石です。」
ゴルフボールぐらいの大きさの緑色をした水晶のような石だ。
「へぇ〜。知らなかったな。」
「これだけの魔石なら、結構価値もあると思います。」
「そうか。ならしっかりと、そのあたりも公爵に報告しておいてくれよ。価値ある魔石の分も報酬をもらわないと割が合わないからな。」
俺がそうトマスに言うと、
「はい。わかりました。ただ、クレッグ様には私から報告しますが、公爵様への報告は勇者様が直接してください。」
「え〜? めんどくさいな。それ。」
「私が直接公爵様の御前に参る手立てはございません。お手数ですがお願いします。」
「しょうがないなぁ。分かったよ。」
その後、3人と一緒にキシャ村まで帰った俺は、少し体を休めることにした。村の少女ベルが持ってきてくれた水で足を洗ったり、躯を拭いたりしながら休息を取る。その後、キシャ村の人たちから祝いの席を用意すると言われたのだが、俺は丁重に断り、そのままアガルテに帰ることにした。
断ったのは、早く帰りたいという思いもあったが、この貧しそうな村で祝いの席を用意してもらうのは、なんだか申し訳ない気がしたからだ。
準備を済ませると直ぐさまアガルテへ向けて出立した。今から村を出ると、アガルテまでなんとか日の入りまでには間に合いそうだ。
☆
ちょうど日が沈む頃、アガルテの要塞城に帰った俺とトマスは、クレッグにゴブリン退治の報告をした。
さすがにクレッグも、『50匹のゴブリン戦士とゴブリンロードを退治した』と報告した時には怪訝な顔をしていたが、トマスがゴブリンロードの魔石を差し出すと納得した様子だった。クレッグにも公爵への報告は、俺から直接して欲しいと言われた。
全く気が進まなかったが、報酬も貰いたいので仕方なく俺は、公爵に報告するために執務室に来ていた。
「勇者よ。ご苦労だったな。それにしてもちゃんとやれるみたいじゃないか。」
このおっさんは相変わらずだな。
「お褒めにいただき、ありがとうございます。」
「うむ。ところで、勇者。このままアガルテに留まってはどうだ?」
「は?」
「は? ではない。儂の専属になる気はないかと聞いておるのだ。」
「しかし、王都より召喚されている身ですので、そういうわけにはいかないと思いますが?」
「そんなことはどうとでもなる。」
王からの呼び出しをどうとでもするって、どういうつもりなんだよ、このおっさん。
アガルテは異世界で初めて過ごした街だから思い入れがないわけじゃないけど、まだまだこっちの世界の事知らないし、他も色々見てみたいし、何よりこのおっさん嫌いだし。
「さすがに、私にそれはできません。それに、王都には一度は参りたいとも思ってますので。」
「そうか。ならば、この城に置いておく理由もないな。このまま直ちに王都に向かうが良い。」
へ? 『直ちに』? 俺を追い出す気なのか。このおっさんホント嫌い。
しかし、いずれはアガルテを発つ予定だったわけだし、面倒になるのも嫌だしな。
「はい。わかりました。色々お世話になりました。」
会釈をすると俺はそのまま公爵の執務室を出た。俺は大人な対応をしてやった。疲れてるしな。
廊下に出ると専属メイドのジェーンがいた。こうなることを予測して待っていたのだろうか。
「このままアガルテを発つことになった。色々とお世話になったね。」
「いえ。それが勤めでございますから。なにか、ご準備をお手伝いすることはありますか?」
「いや、たいして荷物も無いし大丈夫だよ。ありがとう。」
「勇者様。ひとつよろしいですか?」
「なんだい?」
「少し臭います。湯浴みをされた方が良いかと思います。」
うっ。確かに、ゴブリンと戦っていろんな物にまみれたからな。キシャ村でざっと、水拭きしたがやっぱり臭うか。
「ありがとう。それじゃぁお言葉に甘えてそうするわ。」
「では、私は準備をして参ります。」
そう言うと、ジェーンは湯浴みの準備に取りかかりに行ってくれた。
要塞城での生活もこれで終わりか。と思うと少し寂しい気持ちが芽生えたのが、ヒデオにとっては少し意外なことではあった。
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